始めましての夜に…
「そういえばさ」
ミシェルが作ってくれたご飯を食べながら話をする。ミシェルの料理はすごくおいしかった。
「何?」
「あなたたちはこんな森の中で何をしていたんですか?」
「妖精の力を借りて魔物の治療をしているところにございます」
「あ、この世界って魔物が敵ってわけじゃないんですね」
「まあ悪さする子もいるけど…大体はいい子だよ」
「俺たちの職業は治療師、だからな」
「あ、確かにステータスの職業欄にそう書いてありますね。…ていうかレベル1なんだ、全員」
「!」
全員が驚いたように私を見る。
「な、なに…?」
「分かるのですか、我らのステータスが」
「え、だってあなた達の横にステータス画面が出てますもん」
「…なるほど。それが貴様の能力らしいな」
「能力…?」
「あー、いまいち納得がいってないみたいだからまずはステータスの説明から。ステータスはね、本来なら一目見ただけじゃ分からないんだ。だから相手の実力を知るには相手のステータス帳をみせてもらうか、戦闘で実力をその身で体感するかの二択しかない。にも拘らず君はそれ以外の選択肢で僕らのステータスを見ることができた。だからこれは紛れもない君の能力なんじゃないか、って結論になったの」
「なるほど」
能力、もといスキルはステータスののぞき見か…折角転生したんだからもっと強そうな能力がよかったなぁ…。
「この世界で能力は誰でも能力を持っているのですか?」
「いや、そんなことはないよ。能力を持っているのはこの世界の3割くらいの住人。そして能力を持つ人は年頃になると、大体旅に出る」
「じゃああなた達も旅してるってことは能力を持ってるの?」
「まあ僕らの場合仕方なくだけどね。でも能力は全員持っているよ」
「どんな能力なの?」
「それはきっと旅の途中で知ることができるでしょう。拙者とてとっておきを見せるのは後にしとうございます」
「…簡単に一言で表せるものじゃない」
「ていう事でまだ秘密だよ~」
「ふーん。ところであなた達の関係性は?」
「僕とキェロスは血のつながっていない兄弟。それでユリアは幼馴染。なんでもお父さんが昔一緒に旅していた仲間の娘がユリアみたいで」
多分キェロスが兄でミシェルが弟か妹だな。で、ユリアはたぶんキェロスの幼馴染。
「お父さんも旅してたんですか」
そう聞くとミシェルとキェロスの目が輝く。
「うん、そうだよ!お父さんは僕らを育て始めるまではずっと旅していたんだ!」
「…父さんは尊敬に値する方だ」
「なにしろお父さんは旅で出会ったものは人も魔物も関係なしにみんなを救ったんだから!だからお父さんは最後までレベル1だったんだよ!」
「それはすごいことなの?」
「すごいことだよ!だってそれまでは魔物は悪い、という認識が普通だったんだけど、そうじゃないことを自分自身で証明したからね」
「それはすごそう」
「だから自慢のお父さんなんだ!」
そういうミシェルの顔はすごく輝いていて、きっと本当に父親のことが好きなんだろうな…、と思った。
「…とりあえずだ。明日の予定を考えよう」
キェロスが少し顔を背けて話題を変える。さてはお前、はしゃぎすぎたことを恥ずかしがっているんだな?かわいいところもあるじゃないか!同学年の男子なら確実にそうやってからかっていたが、今は黙っておく。こいつの機嫌を損ねてパーティーから追い出されたら嫌だもの。
「とりあえず町へ買い物でしょうか。瑞希殿の召し物を買わなければ」
「そうだね。あまりにもその恰好は目立ちすぎるからね」
「やっぱり目立つんだ」
「そんな恰好でうろついてたら最悪盗賊に襲われちゃうかも」
「絶対嫌だ」
「だから今の服は袋にしまっておいて、他の服で旅するのがいいと思う」
「…じゃあ明日町に行くのにはどうすればいい?この服で行くのは多分良くないんだよね」
「…」
全員黙ってしまった。多分そこに一番困っているのだろう。
「あ、迷惑なら私をおいて町に行ってもらっても…」
「それは絶対ダメ。きみ一人じゃいざ何かに襲われた時の対処ができないでしょ。それにサイズの問題もあるし、なによりせっかくなら自分好みの服にしたくない?」
「まあ確かに。それはそうかも」
「服は拙者のものを…と思いましたがサイズがかなり違うよう思われます。ミシェル殿ならば同じようなサイズなのでは」
「そうだね。瑞希が嫌じゃないなら僕の服を貸すけど」
「ミシェルこそ嫌じゃない?嫌じゃないなら借りたいけど」
「僕は全然いいよ!よし、そうと決まればちょっとこっちに来て!せっかくなら瑞希好みの服を選んでほしいからさ。ほんとにサイズが合うかどうかも確認したいし」
「ちょっと引っ張んないでよ、ミシェル!」
ミシェルに連行される。慌てる私をキェロスとユリアは笑顔で見ていた。
「わあ…!」
ミシェルの服を見て私は思わず感嘆の声を上げた。ミシェルの服はどれもセンスが良くてかわいらしいものから、かっこいいものまであった。
「この量の服どこにいつもしまってるの?」
「魔法でいつもはしまってるよ。えへへ、服のコレクションを誰かに見せるのって初めてだから緊張するな」
「うそ、私が初めてなの?」
「うん。だってユリアもキェロスもおしゃれはあんまり興味ないみたいだから。服は機動性重視って感じかな」
二人の顔を思い浮かべて、ああ、確かにおしゃれには興味なさそうだな、と思ってしまった。
「この服はどこで?」
「自分で買うこともあれば、治療師として訪れた先のご婦人にもらうこともあるよ。お古で悪いけどって」
ミシェルよ、それ絶対お古じゃないやつ。でもこんなかわいらしい子がいたら確かにかわいい服の1つや2つ、あげたくなる気持ちも分かる。だって絶対かわいいもの。
「コーディネートもそのご婦人方にしてもらったの?」
「ううん、それは自分で。正直あんまり自信ないけど」
「ばっちりだよ!めちゃくちゃセンスいいと思う!」
本音だ。あのおいしい料理を作ったのもこの子だから、この子、女子力が限界突破していると思う。
「えへへ、照れるなぁ。ありがとう。ほめてくれたお礼に、できる限り質問に答えちゃうね!もちろん服を選びながらだけど」
「えー、いいの?」
「いいよ!なんでもドンとおいで!」
「じゃあキェロスは私のこと嫌ってない?」
「全然嫌ってないよ。ごめんね、あいつ素直じゃなくてさ。それで一回後悔してるのに全然変わらないんだよね」
「後悔してるんだ」
「それこそお父さんの前でも素直になれなくてさ。結局ツンツンした態度ばかりで全然感謝を伝えられない内にお父さん、死んじゃったんだよね。それをあいつは後悔してるはずなのに全然治らないんだよね。多分あれが生まれついた性なんだろうね」
思ったよりも重めの話に思わず黙り込んでしまう。ツンデレも大変なんだな。
「だから旅をしてるのはキェロスの贖罪のためでもあるんだよ」
「じゃあさ、どうしてあなたは贖罪の旅についてきてるの?」
「特にすることもなかったし、別に旅に出る以外にやりたいこともなかったから、かな。あと僕もお父さんの遺志を継いで、魔物と仲良くしたかったから」
「そういえばキェロスとおそろいでつけてるそのペンダントは?」
「お父さんからもらったんだよね。お父さんが旅の途中で見つけたらしくて、これは私が持つよりお前たちの方がいいって」
「なるほど」
「ていうか君、敬語とれたね」
「あ、ごめんなさい」
「いや、別にため口でいいんだよ?むしろ僕的には敬語じゃない方がうれしいかな。そっちの方が仲間っぽいし、ユリアとキャラ被っちゃうし」
「話がメタいな!」
笑いながら、ミシェルの服たちを見る。その中にかわいらしいレースのマントがあり、思わずそれに釘付けになってしまった。
「そのマントが気になるの?」
「うん、かわいいなって」
「よかったらそれ、あげるよ」
「…いいの?」
「うん。かわいいなって思って買ったのはいいんだけど、ちょっとサイズが大きくってさ。君ならちょうどいい位じゃない?」
「ほんとだ、ぴったり!ありがとう、ミシェル!このマントに合う服はどれ?」
「んー…これかな」
取り出されたのは、私好みの白と黒の上品なワンピース。これでフリルの幼さを相殺して、かわいらしくも上品なコーディネートになるわけだ。ほんとにセンスいいな、この子。
「ありがとう、これにするよ」
「あ、あと明日買い物に行ったらお香か匂い袋を買っておくことをお勧めするよ。できればお香がおすすめかな」
「ほう、それは何で?」
「まず匂いがいいと気分が上がるし、お香を前日に炊き込んでおくとね、虫が寄ってこなくなるんだ。だから」
「それはぜひとも買っておくよ。アドバイスありがとう」
そう言って二人で顔を見合わせると、笑いあったのだった。気づけば、あたりはすっかり暗くなっていたのだった。