はじめまして、私は…
全年齢です。この作品には〔多少の暴力表現〕、〔死を匂わせる表現〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。
疲れた。非常に疲れた。笹原瑞希。ただのオタクをしている平凡な学生。今日も学校に行き、先生の口から出てくる難解な文字列を自分の頭でとき解く作業をしてきた。家の自室に行き、最近ハマっているゲームを開く。ストーリーはまだあんまり進んでいないけど、イラストの綺麗さとパーティーメンバー全員を自分の好きなようにカスタマイズできる機能に惹かれてインストールした。壮大な音楽が流れ、ゲーム画面が開く。タッチして操作をしようとしたとき、不意に違和感を感じた。なにこれ、くらくらする。さっきまで色づいていた世界がモノクロになって、耳はノイズ交じりにしか音を拾わない。助けを呼びたくてもうまく声が出せない。冷汗が背中をつたう。私が最後に見たのは、なぜか私の部屋にいる白い猫だった。
「…―い。おーい!」
誰かが私を呼んでいる。うっすらと目を開けると、心配そうにこちらをのぞき込んでいる三人がいた。イケメンと、美女と、中性的な見た目の子ども。着ている服はとても現代人とは思えないような服だった。そう、まるでファンタジーの冒険に出てくるような…。
「起きた!大丈夫?こんな森のど真ん中で寝ていたら危ないよ?」
子どもが続ける。
「すいません、ここどこか教えてもらえます?」
「ここはゴーラの森。世界地図で言うと、えーっと…ここら辺」
そう言って見せてもらった世界地図は全く見覚えのないものだった。これはまさか異世界転生ルートか…?
「ごめんなさい、記憶喪失みたいで…何も思い出せないのです」
「えっ、そりゃ大変だ。自分の名前は覚えてる?」
「瑞希です」
「瑞希さんか。変わった名前だね。僕はミシェル、よろしくね。記憶が戻るまでは…ん-、一緒に旅する?」
男の娘か、なるほど。いや、僕っ娘の可能性もあるけど。
「いいんですか?今知り合ったばかりの人パーティーに招待しちゃって」
「いいよいいよ!だって君、悪い人には見えないし困ってるんでしょ?なら僕らは仲間が増えるし、君はその間に問題解決ができるかもしれない。ならウィンウィンじゃない?」
「…お人よし…」
今まで一言も発していなかったイケメンが呟く。
「もう、キェロスだって結局いいんだからそういう事言わない!僕忘れてないよ、キェロスが連れてきた迷子の親を一日中探し回ったこと!」
「あれはすまなかった。というかそのあと詫びにケーキを買ってやったじゃないか」
「まあ、全員お人よしですからね、このメンツ」
「で結局君はどうするの?瑞希さん」
ミシェルがヒョコっと首をかしげて私に聞いてくる。答えは一択だ。
「私は、仲間に入れていただきたいです」
「じゃあ決まり!いいよね、キェロス、ユリア!」
「もちろんいいですよ」
「仕方ないからいいぞ」
なんとか許可をもらえてホッとする。
「じゃあ改めて自己紹介!僕はミシェル・ブレイバー。このメンツだと主に食事担当をしてるよ!嫌いなもの、食べたいものがあったら言ってね!よろしく!」
「ユリア・シュレディンガーと申します。主に狩りや買い出しを担当しております。今はまだ修行中の身故、至らぬところもありますが、何卒」
「…」
「ほら、一応リーダ!自己紹介して!」
「一応ってなんだよ…。キェロス・ブレイバー。服を繕うのが主な仕事だ」
「及第点かな。キェロスにしては頑張ったんじゃない?」
「そのようでございますね」
「お前ら…後で覚えとけよ」
「あ、私も自己紹介した方がいいですよね?」
「ああ、ごめん。自己紹介してもらっていいかな?」
「分かりました。笹原瑞希です。記憶が曖昧で気が付いたらこの森にいました。よろしくお願いします」
「よろしくねー」
かくして転生一日目にしてパーティーメンバーに私はなったのだった。