第7話 地獄のお供はおにぎりです
買い出しから戻った風香は、炊き立ての米でおにぎりを結び始めた。鮭、おかか、ゆかりとチーズの3種類。これを2合分、せっせと握り、海苔で巻いていく。付け合わせは塩昆布で味付けしたきゅうりの浅漬け。切れていたコーヒーも補充したが、これは食後に希望する者だけ嗜めばいい。
皿に盛ったおにぎりを提供すると歓声が上がった。
そんな大したものではないので恥ずかしくなるが、男性陣はうまい、うまい!と大絶賛。
作業しながら食べられるようにおにぎりにしたのに、みんな手を止めて美味しそうに頬張っている。
「クオリティオブライフ爆上がりだな」と鳴海。
「だろ!?真野さん見つけてきた俺に感謝してね」と林田。
いつも不満をこぼしている山名さえ、「こういううまい飯が食えるのはありがたいですね」と上機嫌だ。
「このほうじ茶もマジでうまいわ。男だと『お茶淹れる』って発想がまずないよね」
鳴海は熱々のほうじ茶を一口飲んで、満足げなため息をついた。
風香が食事にほうじ茶を選んだのは、おにぎりとの相性がいいからだ。もう一つの理由は、ほうじ茶はカフェインが少ないから。
早瀬先生のエナドリ摂取量を見るに、これ以上のカフェインは禁物である。ほうじ茶の場合、カフェイン含有量はコーヒーの3分の1であり、テアニンなどの成分によりリラックス効果が期待できる。
ただでさえこんなにピリピリしているのだから、カフェインの助けは必要ないだろうと考えてのことだった。
食事の最中、1番静かだったのは早瀬先生である。
他のみんなと違い、先生だけは作業する手を止めなかった。
風香と目があった時、「ありがとうございます」と微笑んだが、その表情はどこか悲しげだった。犬で例えれば、耳がぱったりと折れてしまっている状態である。
カレーもサンドイッチもあんなに喜んでくれたのに……。おにぎりは口に合わなかったかな?
そう思うと胸がちくっとした。大した物を出していないから烏滸がましいけれど、また犬の耳をぴーんと立てている姿を見たいと思うのだった。