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第4話 先生、顔色が悪いです②

サンドイッチに涙する早瀬先生。その真意は?


「めちゃくちゃ美味しいです。こんな美味しいサンドイッチ初めてかも」


 スーパーの食材で、15分ほどで作った手抜きのサンドイッチである。


 泣くほど美味しい……訳が無くない!?風香があたふたしていると、


「俺、もう限界で。連載始まってから三ヶ月、まともに寝れないし、食べれないし、外出れないし。毎日締め切りに追われて、常に漫画のこと考えて……。漫画に全てを捧げてるこの生活も嫌いじゃないけど、食事で『うまい』って喜ぶ感覚すら忘れてたなって気付かされました」


 早瀬先生はやつれた顔を綻ばせた。元々線が細いタイプなのだろうが、顎のラインや手足が骨張りすぎている。まともに食事をせず、ひたすら働いてきたのだろう。それがどれほど過酷なことか。西日に照らされたその顔は、疲労困憊といった様子。


 おーい、ボールそっち行ったぞー!


 先程の小学生たちの声が聞こえてくる。そんな牧歌的な日常の裏で、命をすり減らして仕事をしている人がいる。

 

 「漫画描くの楽しいですか?」


 「……楽しそうに見えますか?」


 「うーん……。それ以上にキツそうですね」


 早瀬先生は声を上げて笑った。うんキツいですよ、想像以上に地獄でしたとケロッと続ける。


 その言葉が本当なのだとしたら……。


 「なんでそんなに一生懸命になれるんですか?もっと楽な仕事もありますよね」


 言ってしまってからしまった、と思った。


 早瀬先生の仕事を馬鹿にしてしまったと受け取られてしまうかも。


 ……でも、どうしてなんだろう?


 早瀬先生がどれくらい給料を得ているかは分からないが、これだけ長時間働く仕事はそんなに多くないはずだ。YouTuberが楽だとは全く思わないが、キリンお兄さんが駆け出しの頃だってここまで根を詰めていなかった。


 金銭的報酬以上の何かがきっとあるのだと思う。夢中になれる理由が。


 今の早瀬先生と同じ21歳だった時も、27歳の今でも、風香は何かに夢中になったことがない。やりたくないことはいっぱいあるのに、やりたいことが見つからなかった。


 熱量の高い人に説得された時についつい流されてしまうのも、この長年のコンプレックスが関係しているのだと思う。


 キリンお兄さんは問題ありの人物だったが、料理への情熱は本物だった。風香が彼の元で働いていたのは、待遇面も関係していたが、その情熱の源を知りたいという好奇心があったのも事実だった。


 そして、早瀬先生はそれ以上の熱量の持ち主である。


 情熱を注ぐ対象を見つけられる人と見つけられない人。


 その差はどこにあるのだろう。

 

 早瀬先生は風香の突然の発言にきょとんとした顔をし、何を簡単なことをとでもいうようにふっと笑った。


 「……締め切りがあるからですよ!原稿落としたら林田さんにブチギレられますから。サンドイッチありがとうございました」


 会話はそれで終わりになったが、風香は先生が本音を言ってないような気がした。この人の猛烈な情熱の裏には、何があるんだろう?


 とはいえ、風香はこの日その「締め切り」の重みを身をもって知ることになるのだった。


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