1.暗闇と冥界
こんばんは〜
俺は誰だ?
こんな疑問が浮かんだのはつい先程だ。
おかしな話だと思うだろう。
自分の存在自体を疑問に思う機会なんて滅多に訪れないだろうから。
俺が目を覚ますとそこは暗闇の中だった。
何も見えず何も聞こえない。
足元の感覚がなくまるでプカプカ浮かんでるようだ。
水の中で浮いているときのような浮力を感じるわけでもない。
風圧も重力も何も感じてないだけで俺はずっとどこかで落下し続けているのかもしれない。
まぁ本当はどうかなんていくら考えたところでわかるはずもないが。
アハハ……。
俺がここにいる理由はわからない。
ここに来る前のことを思い出そうとしてもほとんどの記憶が霞がかかったように思い出せない。
自分が誰でどこで何をしていたのかもわからない。
けれど何故かこの状況に恐怖も感じてないし不思議と冷静だ。
逆にそれが俺を混乱させる。
1人で狼狽している間も周りの状況は何も変わらない。
ただ1人孤独な時間が流れている。
地獄ってのは鬼に永久にいたぶられ続けるところだと思ってたけど案外こんなところなのかな〜なんて呑気に考えている。
今はまだ大丈夫だけどこれが永遠に続くって考えたらかなり苦しそうだしこんな地獄があっても不思議じゃないだろう。
暇なせいでいろんなことを考える。
いつからここにいたのだろう。
ずっとここにいたのかもしれないし、俺が起きる少し前にここに来たのかもしれない。
この疑問にいくら向き合ったところで最初に出た疑問と同じように答えがわかることもないが……。
何も変わらない現状に口の感覚もないが思わずため息をこぼしたくった。
その時、感覚のなかったはずの右腕がグイッと引っ張られる感じがした。
えっ?と混乱してるけどさらに俺に追い打ちをかける出来事が起こる。
あれは空?えっ空が見えている?
俺の目に光り輝く満天の星空が広がっていた。
目が見えるようになっていた。
いやここはさっきいたところとは違う場所なのかもしれない。
さっきいた場所と違ってここは全体的に少し明るい。
足元も見えるし自分の体も見える。
俺は引っ張られた方の腕を見る。
淡く黄色に光り輝く半透明の腕が俺の腕を掴んでいた。
しなやかな細い指をした小さな手。
美しい女性を想起させる。
その手は肘から先がなく宙に浮かびながら俺の手を掴んでいた。
この腕に触れられてから急に今まで感じなかった体の感覚が戻ってきた。
俺はこの光る腕に恐怖を感じた。
さっきまであんな暗闇の中でも恐怖なんて微塵も感じていなかったのに。
全力で振り払うと案外簡単に振りほどけたがあることに気がついた。
え?俺の腕光ってる?
俺の腕は、いや体は淡く青く輝いていた。
しかも半透明で体は透けていて腕越しに向こうの景色が見えた。
ハハハ……なんだこれ……?
頭が全くついていけない。
だけど振り払った手は待ってくれなかった。
宙に浮かんだ状態のままロケットパンチのように腕を飛ばし掴みかかってくる。
俺はそれを全力のサイドステップで右に避ける。
軌道が直線的で案外避けやすい。
けどすぐに方向転換して俺に向かってくる。
俺は走って逃げた。
この手に得体のしれない恐怖を感じていたから。
触れられる事に何かが流し込まれる感じがする。
多分最初は感覚で次は感情、もう一度触られると何が流し込まれるかわかったもんじゃない。
自分の体に疲れが訪れないことに驚きながら全速力で走っていると俺のように青く光る半透明な人間が歩いていた。
その顔は虚ろで目は開いていているがどこをみているのかわからない。
服装は中世ヨーロッパを思い起こされる使い古された傷だらけのフルプレートアーマーにハルバードのような武器を持っていた。
この時点で俺の頭はパンクしそうだったが、この後もまるでたちの悪い悪夢のようなこの異常な現象は終わらなかった。
背中に追いかけてくる手の存在を感じながら走り続けているとほかにもたくさんの俺と同じ様に青く光る存在をみた。
さっきみたいな人間や猫や犬等の動物。
アニメや漫画の世界でしか見ないようなドワーフやエルフ、ドラゴンのようなものまでいた。
「ほんとに何なんだこの場所は。」
この問いに答えてくれる者はいない。
そしてもう一つ気になることがある。
さっきから遭遇するやつが全員同じ方向に進んでいることだ。
俺は彼らと同じ方向に走ってる。
だんだん俺の周りは青く光る存在が密集してきていた。
ゴールが近いのだろう。
少し奥にでかくゴツい門のようなものが見え始めていた。
恐らくあれがゴールだろう。
だが俺がその門にたどり着くことはなかった。
スカッ
「ダニィィィ。」
俺は急激な浮遊感を感じ足元をみた。
地面が無い。
巨大な穴が口を開けるように門の少し前で構えていた。
オワッタ
周りを見ると他の奴も俺と同じように落ちている。
初見トラップだろこれ。
「アァァァァァァァジヌぅぅぅ。」
ガシッ
「グエッッ。」
だが俺は神に見捨てられていなかったようだ。
誰かが俺の服の襟を掴んで止めてくれた。
俺が一目救世主を見ようと軽く咳き込みながら首を後ろに回すとそこには光る手が俺の襟を掴んでいた。
最悪だ!
こいつから逃げるために走ってたのによりにもよってこいつに助けられた。
だがこのまま落ちるよりは、まだいいかととりあえずこの状況を受け入れようとしたときに光る手の後ろに不穏なものが見えた。
まずい!
いかにもゲートぽい光の渦のようなものができてる。
光る腕はゆっくりと俺をその神々しい渦の中に引きずり込もうとする。
ギャーーー!!やめろ!!
そのいかにもヤバそうなもんを俺に近づけんじゃねぇ!
プロローグの補足
魔法技術は魔法、魔導技術は魔導具の技術となります。
なんか終わらせ方って難しいです。