2P 異世界パチ勝負
白熱する。
世紀の戦いが今まさにはじまろうとしていた。
「ちょっと店長・・・どういうことなんですか?」
舞は岸の真意を尋ねる。
「ま・・・成り行きというか、だけど、このままじゃ、パチ屋ごと燃やされそうな勢いだったろ?」
岸は行き当たりばったりの策を正当化しようとする。
「それはそうなんですけど・・・」
「でしょ」
パチ屋にいる面々はおのおの話し合い代表者を決めた。
銀色の銃弾に魂を捧げた戦士・・・365日いるパチンカー常連のだいたい負けているジグマ加藤。
銀貨を巧みに操る錬金術師、スロプロ、愛称ガリけん。
声を自在操り心惑わす魔導士、通称マイクハナサーズ、平バイト山本。
からくり機工を従える白き魔術師、神出鬼没店長岸。
黒き髪の女神、舞となった。
かたやエルフ族からは、殺戮兄妹の名を持つ幼い双子の兄妹ニケとニーナ。
副長の通称鬼の風見鶏モロ。
エルフの祖神、エルフィン性別不詳。
そして、エルフ族の姫エメロード。
各代表者は、パチ屋へと入った。
密閉された大人の娯楽場は爆音を響かせる。
「なんだ!この爆音はっ!」とニケ。
「耳がつんざく」とニーナ。
「誰かが叫んでいるのかっ、泣いているのか」とモロ。
「ふむ、知らぬ音だ」とエルフィン。
「これが神と呼ばれる英雄たちの所業なのか」とエメロード。
第一戦 羽根物「キャンタマ(玉ちゃん)ファイト!※具体的に機種名を書くとアレでアレそうなので」 ジグマ加藤VSニケ&ミーナ 10ラウンド早当て勝負
副店長の島がルールを説明する。
「こちらは羽根物とよばれる機種です。このハンドルで玉を打ち出し、指定のポケットに玉を入れると、羽根が開きます。その玉がキャンタマちゃんのポケットに入ったら、大当たりとなります。が、最大出玉が獲得できる10ラウンドは早当てした者が勝ちとなります」
「分かっとるわい」と、ジグマ加藤。
「なんとなく分かったような気がする」とニケ。
「うん」とニーナ。
「ちょっと待った」
岸が手をあげる。
「どうしました。店長」
島が訝しがる。
「対戦者の双子のぼーやとお嬢ちゃんは、まだ子どもなんじゃないのかな。このパチンコという遊戯は、未成年・・・つまりお子様は遊戯禁止となっています。かなわち、この勝負は我々の不戦勝・・・」
岸は薄っすらと笑う。
「それは、そちら側のルールなのか」
エメロードは尋ねた。
「ええ、そういう決まりですので、いくら異世界とはいえ、コンプライアンスは順守すべきかと」
「ふむ」
姫は頷いた。
「では・・・」
「待て」
「何か」
「貴公らの言うこの魔法遊技台の年齢はいくつなのだ?」
「18歳となります」
「ははははは」
「なにが、おかしいので?」
「エルフ族は人間と比べると長生きな種族でな。ニケ、ニーナいくつになった」
「100さいっ!」
双子は同時に言った。
「なっ!」
岸は驚きを隠せない。
「以上だ。勝負をはじめよ」
島は改めて周りを見渡す。
「それでは双方とも異論はなしということで・・・勝負はじめっ!」
「キャンタマ(玉ちゃん)ファイト!」は全10台設置してあり、ジグマ加藤は一台一台入念に釘の開きを見極め、端の台に座わった。
彼は足を組み、打ち出しを開始する。
一方、ニケとミーナは、
「ぼくが先に打つんだい」
「私が先っ」
と喧嘩をしていた。
「ふっ、おいおい餓鬼の遊びじゃないんだぜい」
加藤は鼻で笑い、玉の動きに注視する。
ポケットに球が入る「ガンバレ、ガンバレ」のキャンタマちゃんの声で羽根が開く。
するっと球が役物に吸い込まれる。
その瞬間、加藤はぐーんと力業でハンドルを押し込み、タマちゃんのポケットに球を入れた。
「店長・・・あれゴト」
舞が指さす。
「しっ」
岸は人差し指を立てる。
「だって・・・」
舞は不服そう顔を見せる。
「大人の世界には、目をつぶるって時も必要だ」
岸は腕を組み、デジタルの表示するラウンド数に注目する。
山本がマイクで状況を伝える。
「さあ、早くも決着か~残念っ、表示は2Rっ!」
加藤は舌打ちをする。
「ちっ!」
子どもの喧嘩以上に、ド派手に殴り合いを繰り返したエルフ兄妹だったが、失神した兄ニケをおしのけニーナが打ち始める。
しかし、全開で捻っている為、ストロークがてんで駄目で、球は右へと流れていく。
「ふん。子どもの遊びじゃないんだよ」
加藤はそう呟くと、球が羽根に入り、役物のポケットが開いた瞬間、
「うりゃあ!」
気合一発、台を揺らし、ねじ込んだ。
「おおおおっと!ジグマ加藤、早くも2回目の大当たりだっ!ラウンド数は・・・」
ファンファーレ音が鳴り響く。
「10Rっ!この勝負っ!加藤の勝利だ~!エルフの双子ニケ&ニーナ敗退っ!」
すると、ニーナが笑い、さっきまで失神していたニケはゆらりと立ち上がる。
「まだよ」
「まだだ」
彼らはダガーを取り出すと、加藤に襲いかかった。
「殺っちまえば、ボクラの勝ち」
殺戮兄妹の異名は伊達じゃなかった。
「やめれ~」
加藤はうずくまり身を固める。
ドスッ!
ホール爆音にかき消される中、乾いた音が聞こえる。
エルフィンが2人の攻撃を手の平で受け止めた。
「つーか、刺さっとる」と、島。
「貫通しとる」と、岸。
「問題ない。かすり傷じゃ」
エルフィンは血を流しながら涼しい顔で続ける。
「2人ともおイタが過ぎたな下がりなさい」
「・・・はい」
双子はしゅんとなり、その場をさがった。
「ジグマ加藤殿」
「・・・はい」
「今度はワシが相手じゃ」
山本は高らかに宣言する。
「おっとぉ!次の対戦相手が決定!ジグマ加藤VSエルフの祖神エルフィンっ!」
第二戦 「Pセイ物語」 ジグマ加藤VSエルフィン 一時間出玉勝負
島は第二戦の開始を宣言した。
「それでは、第二戦、パチンコ大人気機種ジジババ大好きセイ物語。1時間出玉勝負っ!ルールは簡単、多くの当たりを引いて玉を増やし、差玉の大きい者が勝者となります・・・それでは、はじめっ!」
ジグマ加藤はマッハのスピードで、一シマ44台あるセイ物語をしらみつぶしに吟味していく。
エルフィンは、目の前の台に座った。
「こいつだ。1K=22回は回る・・・この店にしてはかなり上等な台だ」
加藤は口元を歪め呟き、鼻歌まじりに打ち始める。
「これは・・・困った」
スロプロのガリけんがぼそっと言う。
「どうしたんですか?」
舞は思わず尋ねた。
「いや、加藤さんの得意技・・・ね」
「あ」
ガリけんの言葉に舞は察する。
「必殺1000ハマリの加藤。あざっす」
岸は彼に向かって最敬礼した。
「店長~それじゃ、この戦いは・・・」
「多分、詰んだな」
一方、エルフィンは固く目を閉じたまま、椅子の上に胡坐をかいて瞑想し、ハンドルを握ろうともしない。
「エルフィン様っ!早く、玉を打って勝負しないと」
エメロードは奮起を促す。
しかし、
「まだ時ではない」
エルフィンは堂々と言った。
そうこうしている内に時間は経過していき、残り5分を切りはじめる。
加藤は700ハマリを越え、当たる気配は一切見えない。
すると、
「ここじゃ、風舞揺」
エルフィンはかっと目を開き数発打ち込む。
チャッカーに入った玉はデジタルを回転させる。
山本がマイクを持ち、叫んだ。
「おっとぉ、エルフィン選手、最初の一発で、魚群を呼んだっ!ダブルリーチでマネンちゃん登場と同時にロングバールフラッシュ炸裂、確変ゲットぉ!」
「なんだと、くそおぅ!」
加藤は信じられないとばかりに、台を強打し群を呼びもうとする。
そんな彼に、岸が肩に手を乗せる。
すなわち強制終了からのパチ屋裏の事務所に連れられるテクニカル・ノックアウト負けとなった。
「勝者!エルフィン選手!」
山本が声高に勝者の名を呼びあげる。
パチバトル。