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破天の雷霆  作者: F.ニコラス
第2章 新生:悪を断ち斬る刃
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58話 城内突入

 モンシュが開いた道を、ライルたちは一直線に走り出した。


 数秒もすると新たな茨人形が城の方から湧いて来るが、その傍から強風にさらわれて消えて行く。

 姿こそ視界に無いが、モンシュが援護してくれていることは明白だった。


「城にはどうやって入る?」


 ライルはカアラに尋ねる。


「正面突破です! 扉を破ってください」


「よしきた」


 愛用の槍を手に取り、彼は立ち止まった。

 ぐっと体に力を入れて投擲の構えをとる。


「天命槍術、《雷霆》!」


 目にも止まらぬ速さで槍が飛ぶ。

 空を切り裂き、一直線に前方へ。


 瞬きひとつの後には、槍はとうに城の正面扉に風穴を開けていた。


 次いでその穴から放射線状にひびが広がり、あれよあれよという間に重厚な扉は土煙を上げて瓦礫と化す。


「これで進めるな!」


「ちょ、ちょっと待ってください、今のは何ですか!? ライルさん、人間族ですよね?」


 平然とまた歩を進めようとするライルに、カアラが目を白黒させながら問うた。


「それにその槍、さっきまで無かっ……」


「さーさー行くぞ! 指揮は頼んだぜカアラ!」


 だが、ライルはそれを強引に誤魔化す。


 いやしかし明らかにおかしい、人間離れしているとカアラは追及しかけたが、すぐに「今はそんなことをしている場合ではない」と断念した。


 ライルたち6人はいまだ土煙が残る中、瓦礫を乗り越えて城内に踏み入る。

 するとお出迎えと言わんばかりに、幾体もの茨人形がわらわらと寄って来た。


「こいつらどこから湧いてきてるんだ? やっぱローズのとこか?」


 いささか落ち着きの無い様子で、フゲンは尋ねる。


「いえ、そうとは限りません。出所に関してはいま仲間が探りを入れていますから、私たちはひとまず先へ進みましょう」


「ン、わかった。……つっても、また道が塞がっちまってるな」


 現在、彼らが位置するのは玄関ホール。

 おそらくローズが居るであろう上の階を目指すにあたっては、まだ序の口もいいところだ。


 しかしローズの使い魔たちは遠慮なしにひしめき合い、まるきり通り道が無くなっている。


 2階へと続く階段には茨人形がいないものの、そこに辿り着いたとして、すぐに追って来るであろう人形をどう振り切るかが問題だ。


 さてこの状況をどうするか、とその時。


「そういうことなら、任せてちょうだい」


 カシャが双剣を抜いて、大きく一歩を踏み込んだ。


「有角双剣術」


 茨人形に肉薄し、刃を閃かせる。


「《大鎌鼬》!」


 無数の軌跡を描いて斬撃が繰り出された。

 瞬間、カシャの前にいた数体の人形がバラバラと切り刻まれ、形を失う。


「ここは私が押さえるわ。外のみたいな大群は手に余るけど、これくらいの量なら捌ける」


 言って、彼女はにこりと笑った。


 と、その死角からまた新たな茨人形が襲い来る。


「硝子魔法戦闘術、《断頭》っ!」


 一番早く動いたのは、カシャから最も近くにいたグラス。

 彼女が両手を前に突き出すと、鋭い硝子板が現れて人形の首を切り落とした。


「シタ!」


 さらにすかさず硝子でできた剣を作り出し、シタに投げて寄越す。


「はいはあい」


 難なくそれを受け取ったシタは、慣れたふうにくるくると回し、構えた。


「茨と硝子の人形対決ですねえ。まあ勝たせてもらいますけどー」


 間延びした声は相変わらずだが、そこに籠った戦意は確かなものだ。


「私たちも残るわ、カシャ。……よ、余計なお世話かもしれないけど……」


「いいえ、心強いわ。ありがとうグラス、シタも」


 自身なさげなグラス、そしてシタにもはっきりと礼を言い、カシャはライルたちに「そういうわけだから、みんなは先へ!」と促す。


「わかった! 任せたぜ!」


 そう言うや否や、フゲンはライルを右肩に、カアラを左肩に担いだ。


「あ」


「えっ」


 ライルとカアラは思わず間の抜けた声を出す。

 唐突な行動の意味を2人が理解すると同時に、彼はそのまま力強く地面を蹴った。


「頑張れよ、3人とも!」


 茨人形の頭上を軽々飛び越える跳躍。

 フゲンはきれいな放物線を描き、階段の中ほどに着地した。


「よしっ」


「『よし』じゃないが」


 上手くいったと言わんばかりの満足げな表情を見せるフゲンに、肩から下ろされたライルはツッコミを入れる。


「だから急にこういうことするなって! びっくりするだろ!」


「細けえこと言うなって。早く行くぞ」


「クソ、有耶無耶にしやがったこいつ……」


「お前もさっきしてたろ」


「お、お2人とも、こちらです」


 軽口を叩き合うライルたちを、カアラは心臓をバクバク言わせながら先導する。


 フゲンの規格外っぷりと粗雑さは話に聞いていたし、ここまで行動を共にしていて想像はついていた。

 ついていたのだが、実際に我が身にくらうのはさすがに心臓に悪かった。


「あちらから出向いて来ないということは、ローズはおそらく自室かその付近にいます。最短経路で向かいましょう」


 けれども彼女は、あくまで冷静に振舞う。


 先導者として、悠長に心を乱されている時間は無いのだ。

 そういう重圧とも言える責任感が、カアラには満ち満ちていた。


「! 誰だ!」


 通路を走ることしばらく、不意にライルが前方に槍を投げた。

 槍は、今度は常識的な速度で飛び、突き当りの壁に突き刺さる。


 数秒の間を置き、曲がり角から何者かが姿を現わした。


「あ! お前は……ディーヴァ!」


 ライルは驚き、声を上げる。


 片眼鏡の物腰柔らかなメイド、ディーヴァはゆったりとした微笑みと共に会釈をした。


「はい。お久しぶりですね、ライルさん」


「攻撃して悪かった。気配がしたもんで、つい」


「お気になさらず。敵地での判断としては妥当です」


 その言葉通り、ディーヴァ特に気にした様子も無く、ライルの謝罪をやんわりといなす。


「カアラ様、そちらがフゲンさんですね?」


「はい。お2人は初対面でしたね。フゲンさん、彼はディーヴァ。かねてより私と行動していた反乱軍の一員です。ちなみに城内で合流する予定だと言っていたのが、彼のことです」


「ふうん、そうなのか。……『彼』?」


 疑問符を浮かべ、フゲンはディーヴァを見る。

 彼は何でもないことのように、笑顔のまま答えた。


「女装です」


「ああ、ライルと同じ感じか。上手くできてるもんで気付かなかった」


 ぽん、と手を打ちフゲンは納得する。

 それからふとライルの方を見て、思い出したかのように言った。


「そういえばお前、ずっとメイド服のまんまだな」


「着替えるヒマが無かったんだよ」


 ライルは苦々しく答える。

 自分の趣味に合わない格好のままでいるのは、当然ながら本意ではなかった。


「まあ安心しろ、もうこの格好で動くのには慣れた。裾の長い服だからってヘマすることはねえよ」


 軽く足を蹴り上げて見せるライル。

 かの《雷霆》も遺憾なく威力を発揮していたあたり、戦闘に支障が無いのは確からしかった。

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