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破天の雷霆  作者: F.ニコラス
第2章 新生:悪を断ち斬る刃
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51話 奇妙な友人

 雷霆冒険団がローズ公国に来てから1週間と少し後。

 手分けして行動していた彼らはこの日、相互に報告をすべく居住地区の指定された家屋に集まっていた。


 いつもの通り炎の魔法で盗聴を防いだ部屋で、5人は顔を突き合わせる。


「ではまず私たちから報告を」


 切り出したのはカアラだった。

 彼女は少し考え、向かいのフゲンに向かって問いかける。


「良い知らせと悪い知らせがありますが、どちらから聞きたいですか?」


「悪い方」


 フゲンは迷わず答え、カアラもすぐそれに応じて口を開いた。


「ライルさんが魔女ローズに目を付けられました。私も少々注目され、奴に直接近付くことが困難になっています」


「……何かやったのね?」


 何かを察し、カシャが苦々しい顔で言う。


「やりましたね。とんでもないことを」


 カアラも同じく苦々しい顔で返すが、当のライルは「ははは」と呑気な様子だ。

 一応反省はしているが、あの行動を後悔はしていない、といったところだろう。


「まあ詳しいことは後で聞くとして……良い方は?」


「城内に『友人』が増えてきています」


「『友人』?」


「ってどういうことだ?」


 聞き返すカシャとフゲン。

 突然話にそぐわぬ単語が出て来たのだ、疑問は尤もである。


「反乱を起こすのに何より必要なのは数、そして人望です。そこでライルさんとモンシュさんには、城内の多くの召使いたちと交流し、着実に信頼と好感を集めてもらっているのです」


 返って来た回答に、2人は「ああそれで」と頷く。


「彼女らも一般市民としてこの国に住んでいる以上、魔女には多かれ少なかれ不満があるはず。この分で行けば、味方を大幅に増やせるでしょう」


「それは心強いわね」


 何かローズに対抗する決め手を獲得したとて、あちらが数――例えば使い魔やそれに類似するもの――で勝っていた場合、押し切られる可能性がある。

 逆に、こちらが数で以て多少優位に立てる可能性もあるのだ。


「こちらからは以上です。フゲンさんたちはどうでしたか?」


「いい感じだぜ」


 カアラに促され、フゲンは自信ありげに口角を上げた。


「東のやつ、グラスってんだけど、あいつから色々聞けたぜ。魔女の弱点とか魔女の生態? とか」


「もう情報を聞き出せたのですか! もっと時間がかかると思っていましたが、これは嬉しい誤算ですね。ありがとうございます」


 思わぬ朗報にカアラは顔を綻ばせる。

 彼らに任せて正解だった、とフゲンたちに感謝すると共に、過去の自分も少しだけ褒めておいた。


「あとあいつ、一緒に戦うってよ」


「えっ」


 カアラ、そしてライルとモンシュの声が重なる。

 聞き間違いだろうか。

 いや、3人共同じ反応をしている以上それは無い。


「あいつ、とは東の……『白の魔女』ですか?」


「おう」


「す、すごいじゃないですか! どうやって説得したんですか?!」


 思わずカアラは身を乗り出して問い、それからハッとして体勢を戻した。


「……すみません、取り乱しました。しかし本当に、どうやったのですか?」


「どうも何も、あいつから言い出したんだよ。『自分も戦力になる』って。あいつもローズのせいで色々大変らしいぜ」


「はあ、なるほど……そうでしたか。いえ、それにしてもお手柄です、お2人とも」


 今までまともな接触すらできなかった『白の魔女』。

 彼女をこうも短期間で味方に付けたフゲンたちの手腕に、カアラは心から感嘆した。


 実際は、彼女の心を開くにはフゲンのような強引さとカシャのような寄り添う姿勢が必要だった、というだけのことなのだが。


 と、そこでライルが「そう言えば」と口を挟む。


「協力者と言えば、俺たちの方にもちょっと気になる人がいるんだ。なんかこう、特殊な人っていうか」


「どの辺が特殊なんだ」


 フゲンが尋ねると、ライルは上手い答えが思いつかないらしく、口に手を当てて黙り込んだ。


「立場……それから雰囲気、でしょうか。とにかく不思議な人です」


 少しあってモンシュが代わりにそう答えるが、彼もまた表現に困っている様子。

 事情を知らないフゲンとカシャは、顔を見合わせて首を傾げた。


「『彼女』に関しては現状、情報が足りなさすぎるのです。しばらくライルさんたちに接触を続けてもらって、味方になってくれそうか見極めることにします」


 結局、カアラがそう締めくくったことにより、『彼女』に関する話は短くもひとまず終わったのである。



* * *



 翌日、城内2階通路にて、ライルは清掃作業に勤しんでいた。


 例の騒動があったものの、その後は問題を起こすことなく無事に仮採用期間を終了。

 彼はモンシュと共に、晴れて清掃係のメイドとして正式採用されたのである。


「そろそろ水換えて来る」


「あ、お願いします」


「よろしくね、ライルさん」


 モンシュと他数名のメイドに見送られ、ライルはバケツを持って下へと降りていく。


 積極的な『友人作り』の成果もあって、彼はすっかりメイドたちに馴染んでおり、ローズに目を付けられている点を除けば極めて順調な生活を送っている。

 モンシュも「妹ちゃん」として可愛がられ、日々の具合はやはり順調だ。


 ライルは階段を降り切り、中庭を横切って水場へと移動する。

 薄黒く汚れた水を捨て、新たな井戸水をバケツに入れようポンプに手をかけたその時。


「こんにちは」


 鈴を転がすような声が右手前方から聞こえて来た。


 そちらに目をやると、壁で死角になっていた向こう側から、淡い橙の髪の女性がひょっこりと顔を出した。

 不意を突かれて目を丸くするライルに、彼女はいたずらっぽく笑う。


「ふふ、また抜け出してきちゃった」


「クオウ……」


 ライルは呆れ気味に彼女の名を零した。


「いいのか? 見つかったらただじゃ済まないだろ」


「大丈夫よ。わたし、認識阻害の魔法は得意なの。魔女様にだって見つからないわ」


 まるで恐れなど持ち合わせていないかのような返答。

 魔法で魔女と張り合おうなど、なかなかの度胸である。


「それよりライル、もうすぐお昼休みでしょう? また旅の話を聞かせてちょうだい! もちろん、モンシュも一緒にね」


「わかった、またいつもの場所に連れて来る」


「ありがとう!」


 クオウは言って、無邪気に笑う。

 ともすれば年不相応にも見えるその笑顔を残し、彼女は足早に去って行った。


 困ったように、しかしどこか楽しそうに軽く息を吐き、ライルはバケツに水を汲み入れ始める。


 ――薄橙の髪の女性、クオウ。

 彼女は数日前に偶然ライルたちと出会って以来、ああして何度も彼らに旅の話をねだるのだ。


 どこからか「抜け出して」来ては、神出鬼没に歩き回る。

 服装からして召使いではなく、働いている様子もまるで無い。


 長い髪は十分に手入れされているのがわかり、服も見るからに上等、しかも毎回異なるものを見に付けている。

 何から何までこの国の民には似つかわしくないクオウ。


 そう、彼女こそが昨日フゲンたちにその存在を伝えた、「特殊な人」なのであった。


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