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破天の雷霆  作者: F.ニコラス
第2章 新生:悪を断ち斬る刃
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幕間 『箱庭』捜索国際会合

 地上国某所、『箱庭』捜索隊の活動拠点。

 その大会議室にて、8人の男女が集まっていた。


「あれ、今日は黒マスクくんじゃないんだ」


「色々あってな。あいつは療養中だ」


「ヤアおじさん久しぶり。元気?」


「無礼者! 隊長に向かって何ですかその口のきき方は!」


「あらあら、おチビのリンネさんじゃありませんの。ご機嫌いかが?」


「…………」


 彼らは円卓の席に着き、各自あれやこれやと言葉を交わしている。

 中にはリンネとミョウの姿もあった。


 「地上国」「地底国」「海底国」「天上国」と書かれた札の前に、8人は2人ずつ座っている。

 そう、彼らは4つの国それぞれからやって来た者たちなのであった。


「皆さん、お揃いですね」


 と、そこへ新たに部屋へと入って来る者が1人。


 それは淡い紺色の髪をした、有角族の少年だった。

 白を基調としたシンプルな服を着た彼は、1冊の本を携えて円卓の傍までしずしずと歩いて来る。


 すました顔からは何の感情も読み取れず、また仕草からも生気を感じられない。

 まるで人形のようだと、彼を目にした多くの人が思うことだろう。


 好き勝手に喋っていた8人だったが、少年が視界に入った途端、示し合わせたように口を閉じた。


「ではこれから、第5回『箱庭』捜索国際会合を始めます。これより会合終了まで、すべての発言と行動は中立機関事象記録係・サイカによって記録されます。どうぞお忘れなきよう」


 少年、改めサイカは淡々と台詞を述べ、ペンを片手に本を開く。


「まずは各国、現状報告を」


「はーい。じゃあいつも通り、僕たちからだね!」


 サイカに促され、「海底国」の席に座る、青い軍服を着た金髪の少年が手を挙げた。

 にこにこと人懐っこそうな表情しかり、友人と話をするかのような明るい声色しかり、会議の場にはおよそ似つかわしくない。


 だがそれを非難する者はおろか、忌避の目を向ける者すらいなかった。

 おそらく、彼がこういう人間であることをとっくに受け入れているのであろう。


「海底国は進展ナシ! 相変わらず捜索賛成派と反対派が争ってるし、資金もロクに回って来ない。あと例の協会がどんどん調子づいてきてるから、ほんとにヤバかったら支援要請するかも。ま、今はどうしようもないから地道に各地の調査をしてるよ」


 少年は最後に肩をすくめ、「以上、次どうぞー」と「天上国」の席に着く女性に視線を送った。


 女性は亜麻色の髪を上品に纏めており、外見に気を遣っているのだろう、化粧もしっかり施している。

 茶色の軍服の彼女は、少し身を乗り出して口を開いた。


「天上国も進展はありませんわ。知っての通り、隊の人員・資金も削減されたまま……。少ない隊員たちで駆け回っているのが現状です。が、少しずつ内政の混乱が収束に向かっていますから、来年には人員も資金も多少は戻って来るかもしれません」


 小さく息を吐く女性。

 話が終わったと判断し、次は「地底国」の席の男性が話し出す。


「地底国は進展有りだ。新たな手がかりを入手した。また隊員を1名、とある組織に潜入させている。収穫があるかは未だ不明だが、この調子なら情報を得られずとも敵対勢力をひとつ潰せる」


 男性は黒髪をオールバックにし、露出した額からは白磁の角が生えている。

 黒に赤が添えられた軍服、さらに左目を覆う眼帯は、場の中でも特に威圧感を放っていた。


「新たな手がかりって何さ」


「黙りなさい。隊長が発言しておられるでしょう」


 金髪の少年が口を挟むと、男性の横に座る三つ編みの女性が制する。

 彼女もまた、黒と赤の軍服、すなわち地底国の者だ。


「僕も隊長だよ、国違うけど」


 あはは、と笑う少年に、男は咳払いをひとつする。


「こちらからは以上だ」


 彼は少年のペースに乗って話が脱線する前に軌道修正を行い、進行を促した。


 残るは地上国。

 リンネは相変わらずの微笑みと共に、話を始める。


「地上国は少々厄介なことになっています」


「いつものことじゃん」


 すかさず金髪の少年が茶々を入れると、今度はサイカが「海底国、お静かに」と諫める。

 当のリンネはというと特段怒った様子もなく、少年が黙ったのを認めてから続けた。


「第一に執行団。直近ですと、カラバン公国の遺跡占拠を目論んで行動を起こしました。結局未遂に終わりましたが、今後も同様の事案が起こる可能性があります」


 「執行団」の名に場のほとんどが苦い顔をする。

 彼らの活動の中心地は地上国だが、地底国にも海底国にも天上国にも、その魔の手は伸びているのだ。


「第二に……雷霆冒険団。最近結成されたと思しき冒険団です」


 リンネの声に少しの悔恨が混じる。


「構成員は3名、人間族のライルと、同じく人間族のフゲン、そして天竜族のモンシュ。私たちは先日、彼らと交戦しました。途中までは互角でしたが突如として全隊員が魔法で意識を奪われ、結果、取り逃がしてしまいました」


「互角?」


 しかし努めて冷静に語る彼女に、天上国軍の女性が声を上げた。


「アナタ率いる隊と、その3人が? 冗談はよしてくださいな」


「私が冗談を言う人間に見えますか」


「……いえ、失礼。続けてくださいまし」


 渋々といった顔で女性は黙る。

 明らかに物言いたげな様子だったが、時分をわきまえて退いたようだった。


「3名のうち、モンシュは取るに足りません。戦闘経験の無いただの子どもでした。問題はライルとフゲンです。フゲンは『乱暴者』と名高い荒くれ者で、身体能力もおよそ人間族の域を超えています」


 リンネの話を、一同は興味深く聴く。

 かなりの実力者である彼女にこうまで言わせるのだ、よほど強いのだろう。


 ある者は剣を交えることを想像して口角を上げ、ある者は遭遇するのは御免だとこっそり溜め息を吐いた。


「ライルもフゲンには及ばずとも、戦闘経験が豊富であるように感じました。実際、無傷でうちの新兵を倒しています。早いうちに対処しないと、いずれ手に負えなくなるかと」


 ですので、とリンネは続ける。


「皆さんにもご協力をお願いします。彼らは『箱庭』を目指す冒険者。世界中を巡るでしょうから、見かけたらすぐに殺し」


「捕縛! 捕縛してください。よろしくお願いします。人相書きは後ほど配布しますのでね」


 物騒なことを言いかけたリンネを、ミョウが慌てて遮った。

 仮にも軍人、犯罪者とは言え自国民を積極的に殺そうとするのは、当然ながら問題である。


 ともあれ4人の発言が一巡したことで、黙ってペンを走らせていたサイカが再び口を開いた。


「各国の現状、確かに記録しました。では次、交渉を始めてください」


「はいはい! 地底国が見つけた『新たな手がかり』っていうのが知りたいな」


 待ってましたとばかりに、金髪の少年が勢いよく手を挙げる。


「海底国は何を差し出せる?」


「ええと……何かあるっけ。何が良い?」


「例えば、巫女の預言」


「やだ! あの子だけは絶対ダメ! いっつも断ってるでしょ。ねえイハイ、君も何とか言ってやって」


「ヒドイよおじさん、まるでうちの貴族連中だ。あーあ、コレだから大人は汚くていけないや」


「貴様らの行き着く先も大人だ。……ではこういうのはどうだ? こちらが情報を渡す代わりに――」


 こうして、騒がしくも会合は続く。

 自国の利益と損とを天秤にかけ、要求し、あるいは譲歩をして。


 『箱庭』捜索隊の使命は、他国や無法の者より早く『箱庭』に辿り着くこと。


 国を背負う彼らの道は、ともすれば冒険者のそれよりも険しい。

 しかしながら、冒険者が願いのために進むように、彼らは義のために往くのである。


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