表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破天の雷霆  作者: F.ニコラス
第1章 萌芽:春来たるが如く
21/215

20話 多勢に無勢

 少し時を戻して、リンネの号令直後。

 ライルが黒マスクとの交戦を開始すると同時に、フゲンは計26名の軍人の群れに飛び込んだ。


 真っ先に向かって来た男を殴り倒し、その勢いのまま回転し横のもう1人を蹴り飛ばす。

 背後を狙う戦斧を叩き折って、持ち主もついでに殴って昏倒させた。


「軍人ってんなら、その名に恥じねェ戦いを見せてくれよ!」


「何様だお前はっ!」


 吼えるフゲンに、今度はミョウが斬りかかった。

 繰り出される拳や蹴りを大剣の腹で受け止めつつ、手足の1本2本くらい切り落としてやろうと剣を振るう。


 フゲンの攻撃は剣で防がれ、ミョウの斬撃は避けられ弾かれる。


 両者とも一歩も退かない。

 2人が競り合っている隙にと他の軍人が何人かフゲンに襲い掛かるが、ことごとく返り討ちにされる。


「なあ茶髪、お前らの中に魔人族はいるか?」


 ふと、思い出したかのようにフゲンが尋ねる。

 ミョウは彼の言葉に図りの思惑は無いと見、大剣を振るいながら答えた。


「あっちで戦ってる黒マスクの子だけだ」


「お、そりゃ良かった!」


 心の底から嬉しそうに笑い、フゲンは大剣の腹に蹴りを入れる。

 折れはしなかったものの、ミョウの手にビリビリと衝撃が走った。


「良かった、と言うと?」


「オレは弱い奴は殴らねえ主義だからな。弱い奴を殴るとよ、うっかり殺しちまうかもしんねえだろ?」


「……はーん、なるほど」


 ミョウはいたずらっぽく口角を上げる。


「自分が力を加減できないのを棚に上げてるわけか。いやはや、責任転嫁がお上手なことだ」


 ぴくりとフゲンの眉が動く。


 それを見て、ミョウは内心ほくそ笑んだ。


 血の気が多い者には挑発がよく効く。

 いくら腕っぷしが強い相手でも、冷静さを失わせてしまえば打ち負かすに易い。


 さあ痛いところを突かれて腹が立ったろう、怒りに身を任せてしまえ、と待ち構えるミョウ。


「む……それは……そう、か……」


 だがフゲンは彼の予想に反し、決まりが悪そうに目を泳がせ考え込む。

 そして片手間に後ろから斬りかかって来た軍人を回し蹴りで沈めると、「うん、そうだな」と顔を上げた。


「ありがとよ茶髪! 新しい目標ができたぜ」


 嫌味も何も無く礼を言うフゲンに、ミョウは舌打ちをする。

 見た目と言動の割には、なかなかどうして理性的なようだ。


「仲良くお喋りですか。いただけませんね」


 部下たちをやや後ろに下げ、代わりにリンネが斬り込んで来る。


「仲良くはしてませんって」


「おや、そうですか」


 肩を並べる彼女らに、フゲンは密かに歓喜した。

 ミョウが強いことは戦ってわかったし、リンネの方も生半可でない気迫がひしひしと伝わってくる。


 暴れるにはやはり、強者を相手にした方が張り合いがあって良い。


 フゲンはやや後退してリンネの装備を観察する。


 防具は無し、武器は細身の剣のみ。

 軍服にも特に仕掛けは無さそうだ。


 ならばと彼は、彼女の剣の腹めがけていつものように拳を叩き込む。

 普通の剣が折れるのだから細いこれは言わずもがな、と思いきや。


「何ですか?」


 剣は折れないばかりか、ひびのひとつも入らない。

 加えてリンネも平然とフゲンの拳を受けとめており、少しも押される様子が無かった。


「なっ!?」


 驚きたじろぐフゲンに、鋭い突きが繰り出される。


「クソ、何でできてるんだその剣」


「普通の剣ですよ。全ては使い手の技量次第だと、教わりませんでしたか」


「誰に、だよ!」


 怒涛の勢いで放たれる突きを躱すフゲン。

 彼の力量を見切り、1人で十分たと判断したのかリンネは隣のミョウに指示を飛ばした。


「ミョウさん、少女を」


「了解」


 隊長の命を受け、ミョウは一転、モンシュの方へと走り出す。


「させっかよ!」


 フゲンは近くにいた軍人の襟首を引っ掴むと、彼に向かってぶん投げた。


「うわっ」


 ミョウは急いで剣を引っ込め、飛んで来た部下を受け止める。

 重みと勢いが相まって後ろに転倒しそうになるのをこらえ、なんとか踏みとどまった。


「す、すみません副隊長!」


「気にするな」


 謝る部下の背をぽんと叩き、ミョウは剣を構え直す。


「さすが、『乱暴者』と言われるだけはあるな」


 そうひとりごちて標的の少女――正しくは少年だが――の方に向き直るも、そこには既にいなくなっていた。


 ミョウが部下を投げつけられ狼狽している隙に、フゲンがモンシュを連れて場所を移動したらしい。

 先ほどの位置から離れたところで、戦闘を見守っている。


 場にはリンネ・ミョウ除く24名のうち17名が残っており、フゲンにやられて倒れている面々は起き上がる気配が無い。


 この短時間で、ここまでやるか。

 彼の力を改めて認識し、ミョウは少し身震いした。


 武器も無く、防具も無く、魔法の支援も受けてない。

 にもかかわらずあの戦闘力は、まさしく異常だ。


 自分とはおそらく互角でこちらにはリンネもいるが、これは殺す気で対峙しなければ危ういやもしれぬ。


 ひとまずリンネが押さえてくれているうちに、指示通り天竜族の子どもを確保しなくては。

 ミョウが戦場に戻ろうとした、その時。


「隊長、あれ! あっちやられちゃいましたよ!」


 上空で待機する青い竜が叫んだ。

 見れば、向こうの方で戦っていた黒マスクが倒れている。


 それなりに距離があるため、ミョウたちからはライルの表情が見えない。

 しかし、彼が手に持つ槍で黒マスクにとどめを刺せることは明白だ。


「どうしよ、殺される? 殺されちゃいますかね? ちょっと助けに――」


「いけません」


 慌てふためく青竜に、リンネがぴしゃりと言う。


「あなたの役目は牽制です。今そこを動けば犯罪者共が逃げてしまいます。あなたも軍人ならば、わきまえなさい」


「で、でも」


「おい竜の奴! 心配しなくてもライルは人殺さねえぞ!」


 割って入って来た敵対者の声に、2人はそちらを振り向き……目を丸くした。

 そこら中に転がる捜索隊の面々。


 黒マスクに気を取られている間にもフゲンは暴れに暴れたのだろう、残る軍人はリンネとミョウ、それから青竜だけになっていた。


「これは……不覚、ですね」


「すみませんリンネ隊長。俺がすぐ戻っていれば」


「ごめんなさい……」


「いえ、私の指揮が未熟でした。あなたたちに責任はありません」


 壊滅状態の隊を前に、リンネたちは歯噛みする。

 まだ不利とまではいかないものの、戦力差を縮められたのは事実だ。


「だいぶさっぱりしたなあ」


「お、ライル」


 そうこうしている内にライルが戻り、フゲンらと合流する。

 これで数としては3対3、天竜族の2人は戦闘に参加しないため実質2対2だ。


「こっからが本番だな。準備はいいか、フゲン?」


「もちろん。おかげさまでバッチリ温まったからな」


「が、頑張ってください!」


「おう!」


 モンシュの応援を背に受け、彼らは歩み出た。


 あの2人に勝てば、ライルの大技《雷霆》で青竜を退けられる。

 後はモンシュに乗せてもらって離脱だ。


 雷霆冒険団と地上国軍『箱庭』捜索隊。

 予期せずして始まった戦いは、いよいよ最終局面を迎える。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ