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破天の雷霆  作者: F.ニコラス
第7章 先導:其が行くは苦悩の道
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190話 再会プラスアルファ

 ピンドーラと双子が別れの時を迎えていた頃、さて一方のフゲンたちはというと。


「おいどうすんだこれ!」


「うーん、どうすっかなあ! 女王はどっか行ったしあいつらは聞く耳持たねえし!」


 相変わらず天上国の軍人たちに追い回され、城の敷地内を逃げ続けていた。


 ライルとモンシュが居ない中、強行突破で脱出するに脱出できず、彼らはしつこく追撃してくる軍人たちをひたすらに躱す。


 とはいえ軍人たちがしつこいのも当然だ。

 国の大事な王族が居る城内で、破壊および暴力行為をはたらく者たちを放っておけるわけがない。


 もし女王が行方知れずになっているとの情報が共有されていれば、追跡の手はいっそう苛烈だったろう。

 いやそれだけならばまだ良い方で、最悪、城中がより混乱に陥っていたかもしれない。


 その点、ケサの判断は正しかったと言える。

 実際のところは、彼女はいま頭を抱えている真っ最中であろうが。


「ねえ、おれたちの処分ってどうなると思う?」


「言うな。それいま考えないようにしてるから」


 フゲンたちと共に足を動かしながら、ツイナとフーマが言葉を交わす。


 現状、最も悲惨なのは彼ら、さらに言えばフーマだろう。

 とばっちりに次ぐとばっちりで、軍人生命どころか普通に命すら危うくなっている。


 犯罪者を見れば即殺しにかかるリンネの耳に、今の彼らの状態が知れたら……と考えるだに恐ろしい。


「ごめんなさい……わたしが加減を間違えたばっかりに……」


 クオウはしょんぼりと肩を落とす。

 どうやら女王を結果的に吹き飛ばしてしまったことを、気に病んでいるようだった。


 確かに、あのままピンドーラと共に居れば、軍人たちの誤解をとくことができていたかもしれない。

 が、そんな「たられば」を払いのけるように、カシャは優しく彼女の背に手を添えた。


「いいのよクオウ。そもそも最初に、フゲンを制御できなかった私にも非があるわ」


「急に飛び出して悪かった!」


「笑顔が隠せてねえぞ」


 ティガルはじとりとフゲンを見る。

 なるほど確かに、そこには不可抗力で暴れることができ、活き活きとしている表情があった。


「一番は人助けのためだ、そこはほんとだぜ」


「どうでもいいから早くここからの逃亡方法を考えてくれ……」


 げんなりとした声で言いながら、フーマは後方からの攻撃魔法を同じく魔法で相殺する。

 その様子は悲惨なほどに、フゲンとは対照的であった。


 それはさておき、彼の言葉は尤もだ。

 いつまでも追いかけっこをしているわけにはいかず、早急に何かしらの打開策が求められる。


 少し間を置いたのち、静かに挙手したのはシュリだった。


「では自分が囮に」


「駄目に決まってんだろ!」


 自己犠牲的な提案をティガルが真っ先に一蹴する。

 食い下がることを許さないその勢いと圧に、シュリはそろりと手を下ろした。


 次に口を開いたのはクオウだ。


「二手に分かれるのはどうかしら?」


「んー、ますます収拾つかなくなりそう」


 と、のんびりとした調子でツイナが首を横に振る。

 お前が言うなと突っ込まれそうなところだが、発言内容に理はある。


「クソ、せめてライルたちと合流できりゃあな……」


「いっそ空から降ってきたりしないかしら」


 カシャは双剣をいったん鞘に納めながらぼやいた。


 すると、その時。


「――い」


 どこからか、微かに声が聞こえてきた。

 空耳かどうかなどと思考がはたらくより先に、自然とカシャの視線が上に向く。


 何を期待したわけでもない。

 ただ単に、何となく、半分無意識にそうしただけだ。


 しかし現実は、文字通り彼女が想像だにしなかった様相を現した。


「おーーーい! みんなーーー!」


 カシャの、フゲンの、皆の視界に、飛び込んできたのは3つの影。

 もとい――ライルとモンシュと、女王だった。


「は!?」


 もはや誰のものかわからない声が上がる。

 ただし、カシャとティガルが交ざっていたのは確実だ。


 月明かりを背に受け、3つの影は見る見る下降してくる。

 魔法を使っている様子は無く、普通に自由落下だ。


 かと思えば、城の2階くらいまでの高さまで来たところで、ライルが他2人を両脇に抱える。

 そのまま器用に、そちこちの出っ張りやら木の枝やらに足を引っかけて勢いを殺し、やがてすとんとカシャたちの目の前に着地した。


「良かった、ようやく会えたな!」


 モンシュと女王ピンドーラを地面に下ろしながら、ライルは朗らかに笑う。


「皆さんご無事で何よりです!」


「うむ、ひとまずは安心だな」


 モンシュもピンドーラも、同じくにこにこと落ち着いたふうだった。


 すなわち、落ち着いていられないのは、彼らの出現を目にした面々の方だ。


「……ッ……ッ……な、なんで女王陛下と一緒に居るわけ!?」


 物凄い数の言葉を呑みこみ、カシャはやっとのことで最も気になったことだけを絞り出す。

 彼女はまだ良い方で、ティガルは驚きと怒りで絶句しているし、フーマに至っては卒倒寸前だ。


 まあ、この3人意外は概ね「ああびっくりした」程度の反応だったが。


「ええと、いろいろありまして……」


 モンシュは眉を八の字にして、申し訳なさそうな表情で言い淀む。

 だがちらりと視線をやった先、ライルとピンドーラが迷いなく頷いたのを見て、ほどなく話を始めた。


 ケサに計画を勘付かれていたこと、詰められている最中にピンドーラの行方不明を知ったこと、彼女を探しに行ったこと、そのあとに起こった様々なこと。


 本人たちが知られたくないであろう、双子の素性だけはぼかして、モンシュは事の次第をかいつまんで説明した。


「……まあ、何というか……不幸中の幸いだったな」


 すべてを聞き終えたのち、先ほどよりも更に疲れた顔をしたフーマがなけなしの感想を吐き出す。

 既に情報過多らしかった。


「ちなみに今だけ、ただのピンドーラだ」


「そなたらも助手に加えてやろうか?」


「事件ほぼ解決してんだから要らねえだろ」


 探偵騎士気分がまだ尾を引いているらしいピンドーラに、ティガルが容赦なく言い放つ。

 が、ピンドーラはその素っ気なさが却って気に入ったようで、「ふふ」と笑い、反論などはしなかった。


「しっかし、そっちはそっちで大変だったんだな」


 自分たちの「大変」を引き起こした自覚があるのか無いのか、フゲンは感心したように言う。


「ああ。悪かったな、合流を後回しにしちまって」


「仕方ないわ。緊急性が違うもの」


 カシャはまるで気にしていないかのように、軽い調子でライルに返答した。

 口にした言葉に嘘は無かったが、ピンドーラを気遣う心も確かにあった。


「ところでそなたら、私を攫った2人はどうした? 逃げたか?」


「殴り倒した。たぶんまだ気絶してんじゃねえかな」


「ほう、やりおるな」


 ピンドーラは満足げに頷く。

 敵が倒されたことよりも、フゲンの威勢の良さが好ましいらしかった。


 雷霆冒険団は再び全員が揃い、行方不明の女王は保護、黒幕だった執行団の者たちも無力化に成功。

 ついさっきまでの混乱ぶりからすれば、まずまずの状況だ。


 しかしこれで一件落着、というわけにもいかず。


「居たぞー! しかも増えている!」


 そんな男の声がするや否や、いくつもの灯りが集まってきた。

 言わずもがな、不届き者を探し回っていた軍人たちである。


「やべ」


「どこまでも追ってきやがるな、あいつら」


「ええと、とりあえず隠れましょうか?」


 再び接近する危機にわちゃわちゃとする一同だったが、そこへピンドーラが割って入った。


「待て待て、もう逃げずともよい。私が直々に話を付けてやろう」


「良いのか?」


 ライルは目を丸くする。


 ピンドーラが軍人たちと話を付けるということは、つまり彼女が女王として振る舞うことに相違無いからだ。

 彼女が「苦しい」とこぼした、女王として。


「うむ、城内の脅威は既に無力化されたからな」


 続ける言葉に詰まるライルに、ピンドーラは明るい表情を見せる。


 それから、ライルとモンシュの手を取り、小さな声で言った。


「……もう満足した。ありがとう」

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