子
カン カン カン …
すぐ後ろか前あたりで濡れた路面に金属のカップが転がった音がする。
集中するんだ。右腕から痛みが消えない。
歯を、
下唇を噛みしめても痛みが引かない。
すでに腕から先が無い。
びっしょりとした額からの汗。
暑いのか冷たいのかもわからず叫ぶのもこらえて
裏路地を潜みながら進む。
事が起きて5分くらいか冷静にはなれないが
痛さと興奮を抑えて逃げている。
いつもの帰り道だったはずだ。
職場から商業ビル群、飲み屋街そして夜間預り所を過ぎて駅に。
昼間食堂で不穏なニュースを聞いた。
「保育園の職員がめった刺しになったらしい」
「学校で教師が飛び降りた」
やたら忙しい事務に追われていたので
そんな風なことばかりが耳に届く。
別に子供がいるわけでない独身の自分には関係ないといったくらいの話だったが
気に留めておくべきだったと後悔する。
「ケケケ…」
目の前にビルの壁へ光に照らされた影が映る。
こんな最後であれば仕事なんて命をかけるものでないな。
出血がひどい。鉄分の匂いがする。
右腕から先が切り取られてもう夢ではないかとも思うくらい酩酊する。
もう立てない。
このまま彼らに刺されて終わるのだろう。
痛すぎて正気が保てない。
目の前が暗い。
「それは子供たちの反逆です」
「子供たちに近づかないで」
「子供=狂気」
様々なポスターが路地に貼られていた。
意識が保たれないまま男はつぶやいた。
「いつかした俺の仕事だ…」
男はこと切れた。
ニュース「昨日、●●市●●町界隈にて、子鬼集団が一般人を襲う事件がありました」
ニュース「負死傷者は1,000人以上とみられており、まだ全貌が見えておりません」
捜査員A「ここまで逃げ込んだけど出血死かな」
捜査員B「●●市子供対策課だって。皮肉な死に方」
街路のポスターを覗く。
捜査員B「子供は干渉せずに育てる、集団にしない、個別の柵に入れるを徹底できなかった都市
6年ぶりの大惨事。もうこの地域も夜になったらダメなんでしょうね先輩」
捜査員Aがタバコを吸う。
捜査員A「ザ・チャイルド…」
捜査員B「なんですか、それ」
捜査員A「昔観たんだ、理不尽に大人が殺される子供の集団が主役の映画」
捜査員B「今となんら変わらない題材の映画ですね」
捜査員A「200年も昔から子供は迫害を受けて復讐を願っていたってこと」
捜査員B「ええっそんな昔の映画よく観る事出来ましたね。違法じゃ…」
捜査員A「知識は必要だ。誰にも言うなよ」
二人は現場検証をして早々に立ち去る。
あと2時間もすれば日も落ちる。
一度子供たちが感染してしまうと取り返しがつかない地域になる。
日が落ちた夜の世界は子供の世界。
ほうぼうに潜む子供が集まって人を殺す。
血に飢えた子供たちが大人をおそうユートピア。
これが今の世界。
大人たちに虐げられた子供たちの夢の世界。
終
今も昔も子供は犠牲者。
大人に復讐を。