わすれたゆめ
三題噺もどき―ひゃくごじゅうご。
お題:チャイム・炎・非常識
「―ぇ?」
パチっと、目が覚めた。
?体が、思うように動かない。
どういう状況なのか、分からない。
「……」
唯一、くるりと回る首を動かし、あたりを見渡してみる。―が、真っ暗な空間が広がっているだけだった。
ついで、自分の状態がどうなっているのかと、視線を下ろしてみる。…?なぜか、椅子に縛られているようだ。どうりで動かないわけで。なんとなく、パイプ椅子のようなものだろうか。椅子の脚に、足を結ばれ。両腕は後ろ手に結ばれている。胴回りも縛り付けられているようだ。
「……」
全く持って状況が理解できない。
寝ていたはずなのだが、なぜこんな訳も分からない所に居るのだ。もしや、知らぬ間に拉致でもわれたのか―という、訳も分からぬ妄想が始まり始めた瞬間。
ほんの数メートルほど先に、突然椅子が現れた。そこだけライトアップされている。
「……?」
その椅子の上には、1人の人が座っていた。
「……」
しかし、人?
いや、首から下は人間のそれだ。手だってあるし、長く細い足を組んで座っている。
しかしその首から上は、人間と同じサイズの―ウサギの頭だ。
被り物かなにかだろうか。それにしては、やけにリアルで、リアルすぎて、気味が悪い。耳は本物のように、ピンと張って、こちら側を向いている。小さな鼻は、ひくひく動いている。それに合わせて髭もキラキラ。
瞳は、真っ赤なルビーのようなそれ。しかし宝石ほどの輝きが感じられず、血液が凝固したものと言われた方がすっきりするような。黒さと、どろりとした感じと、赤さ。
その周りを白く柔らかな毛でおおわれているため、その気味悪さが際立っているようにも思える。
「……」
その瞳は、きろりと、こちらを見据えている。
「……」
同じようなパイプ椅子に座ったその人―ウサギ?―は優雅に足を組んだまま。その手には、バインダーのようなものを持っていた。
ちなみに、服装は真黒なスーツのようなもの。ちらりと見える中のシャツも黒、ネクタイも黒、手の先まで黒い手袋をするという徹底ぶりだった。
おかげで、白いウサギ頭が余計に浮いて見える。気味悪さに拍車をかける。
『――』
「―!?」
突然、それから音が聞こえた。
口が開いた様子はなかったが。しかし確かに、それから、名前を呼ばれた。
『――』
「え?」
正直、なんといっているのかはっきりと聞こえなかった。しかし、私が声を発したことを、何かの返事と思ったのか。
それは、ウサギ頭のその人間は、突然息をつく間もなく、次々と話し始めた。
―いや、返事を待つ間は、くれている。
『――?』
「はい」
『――?』
「はい」
『――?』
「はい」
その質問の、意味も意図もわからなかった。
しかし、私の口が私の意志と反対の事を走っているのは分かった。
『――?』
「はい」
あのウサギ頭は、非常識を私に問うている。常識を問うように、非常識を問うてくる。非常識的なことを、これが常識なのでしょう?というように、問うてくる。
私は、“No”を示したいのに、口は“YES”を音に出す。
『――?』
「はい」
何個目かの答えに、それまでと同じように、YESと答える。
それの何が引き金になったのかは、わからない。
突然、目の前に座るウサギの瞳が―燃えた。
(―は?)
ぼっ――という音と共に、あの赤を持っていた瞳は、二つの炎をたたえるそれとなる。ぼうぼうと燃え続けるその炎は―しかしそれ以上燃え広がることはなく、ただ瞳のあった場所でのみ燃え続ける。
『――?』
「はい」
炎の瞳をそのままに。
次の問いを糺してくる。
私はそれに、間髪入れずYESと答える。
ぼっ―!!
次は、口のあたり。口内が燃えているのか、チロチロと炎が漏れている。
『――――?』
「いいえ」
ぼっ――――!!!
足元から炎が沸き上がるように、全身を燃やした。
それと同時に、それの、声は聞こえなくなった。
「――」
なんだったのだろう。全く分からないままに、目の前で人の形をしたものが燃え続ける。息が詰まる。頭がウサギのそれとは言え、見るに堪えない。
ただ茫然と見つめている、私に。いまだ燃え続けるそれから、声が、音がきこえ
『――
キーンコーンカーンコーン
「っつ―!?!!?」
その音をかき消すように、大きなチャイムが鳴り響く。
学校でよくきくような、あれ。
頭が割れそうな程の、その音量に、音圧に、負け。
耳も塞げず。
意識が、遠のき――
―ジリリリリリ!!!
「――っるさい」
頭上で鳴り響く携帯のアラームを止める。
今日も仕事か…。全く。毎日毎日、嫌になる。
「―?」
なぜかやけに、汗ばんでいるのだが。そこまで寝苦しかったということも、ないのに…。
嫌な夢でも見たかな?