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ホームセンター

 一週間経った頃、砂田との物件探しもひと段落付き、誠二はようやく次の部屋を決めた。

 次の部屋は、結局今の部屋と同じ一ルーム。ただし、ロフト付き。都内から程近い隣県の主要駅から、おおよそ十分の場所にあるアパートだった。


「ありがとうございます。おかげで良い物件に巡り合えた」


「いいえ、そんな。恐縮です」


 契約書にサインを書きながら、誠二は砂田にお礼を言った。それに砂田は、言葉通り恐縮しているようだった。

 そんな一幕の末、誠二は吉報を持って家に帰った。

 と言っても、美空には事前にどんな部屋にするのか相談はしていたし、昨晩もそこにしようと思う、と口走っていたから、今日の話は本当にただの報告だった。


 ただ、誠二が一つ気になったことは、美空に次も一ルームにする気、と言った時の彼女の微妙な顔だった。


「ただいま」


 以前までなら部屋に帰ってきた時、そんな言葉を誠二が言うこともなかった。しかし今ではすっかり、そう挨拶するのにも誠二は慣れ始めていた。

 帰宅した誠二の鼻孔を、香ばしい匂いがくすぐった。


「おかえり」


 料理する手を止めて、美空はわざわざ玄関にまで笑顔でやって来た。と言っても、キッチンから玄関までの間はそこまで遠くはない。間にあるのは、トイレと風呂の部屋一つ分。

 しかし誠二は、毎日そうやって出迎えてくれる美空に嬉しさを感じていた。


「お部屋、決めた?」


「うん。契約も済ませた。即日入居も出来るって」


「そっか。良かった」


 美空は言葉とは裏腹に、また微妙な顔をしていた。誠二は気付いた。


「鍵ももらった。……けど、入居はもう少し買い物とか、業者とかへの連絡を済ませてからしようと思う」


 チャリン、と誠二の手元でキーホルダーに結ばれた鍵が二本、音を鳴らした。


「うん。それが良い」


 美空はまた、微妙な顔で曖昧に微笑んだ。


 誠二はその様子に、何かあったのかと勘繰ったが、生憎勘ぐって正解を導ける程、二人の関係は進んでいなかった。


 それから二人は夕飯を食べて、健康的に夜の十一時には眠りに付いた。


 翌日目を覚ました誠二は、少しばかり家事を手伝って、そうして美空に提案をした。


「今日、一緒に出掛ける?」


「え?」


 突然のお誘いに、美空は間抜けな声を漏らしていた。


「近くのホームセンターに行くつもりなんだ。色々、買い足さなきゃいけない家具もあると思って」


 部屋の中の家具は、誠二がここに入居してきた四年前から一切変わっていなかった。四年も経てば、ある程度経年での劣化も免れない。まして生活必需のアイテムなら、この期に全部取り替えてしまおう、と言うのが誠二の思惑だった。


「……だったら、次のアパートの傍のホームセンターの方が良いんじゃない?」


「どうして?」


「こっちの部屋じゃなくて、向こうの部屋に荷物、置けばいい。もう鍵ももらってるんだし」


「確かに」


 誠二はその通りだと納得した。


「じゃ、そうしようか」


 そして、あの日以来買い出し以外でほぼ部屋に篭りっぱなしな美空にとって、遠出するのも気晴らしになるだろう、とぼんやりと思った。

 だから誠二は、美空の提案に乗っかった。


 二人で家を出た。


 数日前まで、季節外れの雨の日が続いていたが、最近は雲一つない晴天が続き、今日もまたそんな清々しさすら覚えさせる晴天の日だった。

 ただ、そんな晴天のおかげで、まもなく秋になろうか、と言う時期にも関わらず、半袖で生活出来てしまうのが玉に瑕。


 額に薄っすらと汗を掻きながら、誠二達は最寄り駅に向かい、電車を乗り継いで新居の傍までやって来た。


 駅から出た時から、キョロキョロと美空は周辺の景色を見回っていた。


「ここに来るのは初めて?」


 雑音のあまり多くない平日昼間の駅前で、誠二はそんな美空の様子に微笑んで尋ねた。


 美空は、黙って頷いた。


 そうだった。

 美空は大人びた感性を持っているものの、まだ女子高生。子供な立場。隣県の主要駅とは言え、知らない駅からの景観の一つくらい、あるものだろう。

 誠二はそんな事実を思い出した。


 部屋を出てきたのは、十時頃。

 それから電車を乗り継いでここまで来たら、丁度誠二は小腹が空き始めていた。


「まず、お昼にしようか」


「あ、うん」


 駅周辺のファミレスに、二人は入店した。

 お手頃価格な料理に舌鼓を打ち、二人はファミレスを後にした。


 そして、ようやく本題のホームセンターに二人は入店した。途中迷子になり、スマホを頼りに散策する、という場面もあったが、何とかそこに辿り着いたのだった。


 それから誠二は、買い替えようと思っている家具を物色し始めた。


 美空は、誠二が何を買い替えようと思っているかわからないから、誠二の後を黙ってついていった。


 棚。

 ゴミ箱。

 ラック。

 小物類を誠二は買い物かごに次々に押し込んでいった。


 そして、誠二は寝具の前で足を止めた。


 それは、布団。

 そう言えば、ベッドに乗せている布団も洗濯こそすれ、数年使用していた。そろそろ、買い替え時だろう。


「ねえ」


 誠二は、後ろにいた美空に声をかけた。


「何?」


「どの布団が良いと思う?」


 尋ねると、美空はまた微妙な顔をしていた。


「……買うのは、一つ?」


「うん。そうだよ」


「……そっか」


 もし、二人暮らしを継続させるなら……今日買う布団も、二つになるのだろう、と美空は思った。だから、幾つ布団を買うのか、を尋ねた。

 誠二の回答は、一つ。


 それはつまり……。


 邪な感情が浮かび始めている内心に気付いて、美空は顔を横に振った。そもそもが、おかしな話だったのだ。わかっていたじゃないか。

 

 誠二がこれからもずっと、美空を匿い続けるメリットは、何もないのだ。


 わかっていた。

 わかっていた、はずなのに。


「どれかなー?」


 美空は、内心を悟られぬように、作り笑顔を浮かべながら、誠二に交じって布団を物色し始めた。

久々に異世界ファンタジー短編書いたからこっちも読んでね

『勇者を降伏させるため勇者パーティーに取り入ったのに、勇者がクソザコナメクジすぎる』

https://ncode.syosetu.com/n9513hh/

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