これが地球人のチカラだ!
息をひそめ、洞窟からそろりそろりと顔を出す。……危険は見当たらない。上を見るがあの恐ろしいドラゴンもいないようだ。取り敢えず一安心といったところか。
ドラゴンが意味もなくずっと空にいるような、『ゲームでよくある何故ここにいる系つよつよモンスター』じゃなくて良かった。
それだったら本当にスライムを食うことを検討する羽目になってたぞ。
「お!」
洞窟を出てすぐそこに、桃……のようなモノが生っている木があった。見た感じとても熟していそうで美味そうだ。……一つだけしか実ってないけど。
そして更に残念なことに、俺に毒があるかどうかを見抜く様な技能やスキルは備わっていない。少し齧ってみて舌が痺れたりするようなら捨てる……位の対策しか出来ないだろう。
だが!折角の異世界だ!ここで挑戦せずしていつ挑戦すると言うのだ!!勇者と蛮勇は紙一重だ。だが、ここに置いて俺は勇者だ!!俺は食うぞ!!やってやるさ!!
という訳で一つ(というか一つしかないんだけど)拝借させてもら……あ。
俺が桃らしきモノに手を伸ばそうとしたその時、木の向こう側からも誰かの手が伸びてきて、その手と手が触れあった。
キュンキュン♡♡♡♡これが運命の出会い!?
……なんて唐突な異世界ラブストーリーが始まることはなく、俺はただ冷静に努めてその手の持ち主を探るべく、視野をそちらに広げる。
そこにいたのは、リスだった。あぁ、可愛らしいリス。元の世界では老若男女をキャーキャー言わせてきたにっくき……ゴホンゴホン、人気のある生物だった。
それがどうだろう。俺の目の前にいるリスは……ええと……うん、可愛いのは間違いないだろう。愛らしさは地球のリスと変わらないと思う。
ただ、デカい。なんか凄いデカい。生物設計を神様がした時に、縮尺をドジってミスっちゃったのかな?と疑わずにはいられないほどには。
具体的に言うと俺よりデカい。たぶん二メートル超えてるぞこれ。なのに見た目は可愛い。……ダメだ、頭が混乱してきた。
だが、デカくて可愛いからと思考を停止させてはいけない。今の俺とリスはお互いに同じ果実を狙っているハンター、つまりは競争相手ということだ。
二人に対して果実は一つ。どれ、ここは一つ、地球で鍛えられた俺のコミュニケーションスキルを使って交渉してみようではないか。
仮に言葉が通じずとも俺たちには文明開化の伝統、必殺ジェスチャーがある。これらを使って
目指すはWin_Win、仮にそこまでいかずともWin_Win Or NO Dealまでは辿り着いて見せよう。
「ええと、こんにち『グルワァァァァァッァ!!』は……」
いや無理無理無理無理ムリィィィィィィィ!!!!!
Win_Winは両者とも得。Win_Win Or NO Dealは両者とも得を目指すが、無理ならそこで取引を打ち切るという言葉です。
人前で使ってみると、インテリに成れた気分がしていいですよー