良い奴ほど……
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!」
それは本当に衝動的だった。人はそれを必然だと言うし愚かだと言う。
悲劇の物語みたいに誰かの為に犠牲になったりなんてしない。自己犠牲なんて本当に駄目。そう思うと同時にそれを胸に刻む。それで行ける筈だった。
でも、ダメだった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
……昔からアタシは面倒見が良いと言われていた。それをとても誇りに思っていたし、それが出来る自分がとても好きだった。
冒険者になってもそれは変わらなくて、愚かな自分を体験し、先輩冒険者に助けられた後はよりそれが顕著になった。
先輩に助けられたアタシがいつか誰かを助ける。それでいいと思えていたのかもしれない。冒険者は何時だって自己責任なのに。
だからだろう、アタシは巨大スライムに襲われそうになっている銅級冒険者たちを見て自然と身体が動いてしまった。
「アタシがコイツを引きつける!!今のうちにアンタらは逃げな!!」
そう言ってスライムを切りつけた時。やってしまったと思った。話には聞いたことがある。巨大なスライムは物理攻撃が効かないと。
アタシの武器は一度切りつけたたったそれだけでボロボロになってしまった。……スライムになんのダメージも負わせることができずに。
「はぁ、はぁ、はぁ……!!」
アレからどのくらい逃げ続けただろうか。恐らくアタシが助けた冒険者たちは既にギルドに着いただろう。そこから助けが来るとして後どのくらい耐えれば良いんだろうか。
……心の奥底では分かってる。報告を受けたギルドはそこから送り込む人員を選別し招集をかける。そうして冒険者がやってきた頃にはアタシは既にドロドロに溶けて居なくなっているだろう。
「ぁ……!?」
疲れにより足が段々と上がらなくなり、遂に転けてしまった。一度止まってしまうともうダメで、アタシの足は何とも情けないことにまったく動かなくなってしまった。
ズズズ……ズズズズズズ……。
スライムが近付いてくる音が聞こえる。……これからやって来る結末が恐ろしくてアタシは下を向き……震える。
実力が伴わないまま助けようとしか結果がコレだ。愚か者には当然の罰なのかもしれない。このまま死ぬしかない。
でもどうせ死ぬのなら自分を殺すであろうモノをしっかりと目に焼き付けておきたい。
そんな馬鹿げた覚悟を決めて、少し顔を上げた時、そこに見えたのは恐ろしいものだった。
そこにあるのは何かの顔、何かの足、何かの身体だった。顔はどれも歪み、足と身体は骨が見え始めている。
……それらはスライムの中に取り込まれてしまったモンスターや人の成れの果てだった。
怖い。怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
アレの一部になるのが怖いこれから苦しむのが怖い怖い怖い怖い全部怖い。
だからだろう、どうせ無駄なのに、アタシは叫んだ。
「助けて……!!」
「姐さぁぁぁぁぁぁん!!!!!!」
その時、やる気はあるけど覚えの悪い、どこか不思議な新人の声が聞こえた気がした。