世の中お金が大事なのです
「おはよう」
目を覚まし、挨拶をしてみる。……が、誰からも挨拶は帰って来ない。しかしこれは決してボッチで周りに無視されている訳では無い。
当然である。今、俺は宿に泊まって居るのだから。持ち帰った薬草を売って手に入れたお金と、姐さんからのちょっとの援助を貰って安宿に止まっているのだ。
雑魚寝じゃなくて個室なのはありがたかった。個室助かる。俺は持っているものこそほとんどないが、雑魚寝だったら同室の誰かに何をされるかは分かんないからな。
……残りのなけなしのお金で宿のそこそこの味の朝ごはんを食べ、ギルドに向かう。
その間俺は考えていた。世の中金であると言うことを。
昨日俺は暗くなるまで必死に薬草を探したにも関わらず、姐さんの援助を受けなければ安宿に泊まりささやかな朝ごはんすら食べられなかったのだ。
その原因は偏に金が無かったことによるものである。金金金。
異世界まで来て何を言ってるのかとおもわれるかもしれないが、金が無いと生きられないのは異世界も同じだったのだ。
世知辛い。悲しい。シクシク……。
「よぉ、新人。お前はパーティとか組まねぇのか?」
俺がギルドに到着すると、厳つい先輩冒険者から声が掛けられた。
決してテンプレとも言える絡まれをしているのでは無く、先輩冒険者さんは俺の事を心配して言ってくれているので無問題、つまりノープロブレムなのである。
「あ、大丈夫です。もう少し自分が何処まで行けるのか確かめたいので。気を使って下さってありがとうございます」
何処まで行けるのか試したい。これは事実だ。後は言ってないけど俺の実力がおそらく高いので、同じ初心者同士組もうものならとんでもない事になりそうだというのもある。
それにしてもこの世界は優しいな。みんな優しくしてくれる。良い人達ばっかりだ。
「なんだよ、丁寧な言葉遣いしやがって。気にすんじゃねぇよ。俺だって昔は先輩にそう言われたんだから返してるだけだ」
そう言う先輩は照れ臭そうで、俺だって笑いたくなってしまった。
「ちっ、笑いやがって。早く行きやがれ、しっしっ!!」
その先輩と周りでニヤニヤしている先輩に見守られ、俺はカウンターへ向かう。
「この依頼を受けたいと思います」
俺は昨日のうちに、明日になったら何を受けるのかじっくりと考えていたんだ。だからわざわざ冒険者ギルドに来てから悩まずに済む。
「あの、こちらの依頼をお一人で、でしょうか?申し訳ありませんが、あまりお勧めは出来ません。私たちもむざむざと新人冒険者を失いたいわけではありませんので」
ところが、受付嬢さんがそう言って止めた。……正直言ってそう言いたいのは分かる。なんてったって俺は周りから見るとただの初心者、新人でしかないのだから。
だが、俺は行く。これは俺が冒険者になるために必要な儀式だからだ!
「冒険者は自己責任……ですよね?」
でもこの言葉を使うのはちょっとズルかったかもしれない。後で謝ろう。
人は一つ先へ進む際に何らかの儀式を乗り越えることが多いです。(成人式や、その他色々)
彼には実力はありますが、心構えやこの先この世界で生きていくための意識というモノがまだ欠けており、それを手に入れるために少し強引にでも頑張ろうとしているわけですね。
……まぁ、それのせいで回りが心配してるのであまり褒められたことじゃないかもしれませんが。




