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ドラゴニックメイド  作者: ふーろう/風楼


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森の中での決着


 冷笑するアイシリアに見つめられて、まるで凍りついたかのように動けなくなるドラゴン殺し。


 その様子を静かに見守っていたヘリワードやパラモン達は……ゆっくりと動き始め、静かにアイシリアの邪魔にならない位置へと移動していく。


 そんな中で一人だけ、クーシーのミクーラだけがアイシリアの側へと足を進め、アイシリアの前に立とうとするが……アイシリアは「大丈夫ですよ」と一声をかけて、優しい微笑みをミクーラへと送る。


 するとミクーラはそんなアイシリアのことを見上げ……そのつぶらな瞳でじっと見つめてから頷いて、そこから離れて他の者達がいる場へと向かう。


 そんなやり取りを受けてドラゴン殺しは、アイシリアの表情が緩んだおかげか冷静さを取り戻し、立ち直り……どうにか大剣を動かそうとするが、アイシリアの二本の指に挟まれた大剣はびくとも動かない。


「……このまま氷漬けにしても良かったのですけれど、ドラゴンとしては一応……挑まんとする者を無下に扱う訳にはいきません。

 わたくし達ドラゴンは他の生物が成長することを歓迎し、ドラゴンを越えようとすることを歓迎し、その時が来たなら全てを受け入れる覚悟をしています。

 ですから渋々ではありますがアナタのような者の挑戦であっても受けて立つつもりです。

 ……さぁ、どうぞ、遠慮することなく攻撃をしてきてください」


 涼しい顔で涼しい態度でそう言うアイシリア。

 大剣を持つ手はまるで鳥の羽をそうしているかのように柔らかく自然に構えられていて……ドラゴン殺しが全力でもって抵抗しても、大剣を動かそうとしても、その態度を崩すことが出来ない。


「ちなみにですが、アナタが敗北した際には氷漬けにした上で、大公の下へと連行する予定となっています。

 ただのメイドであるわたくしはまだしも、大公妃とその娘を害そうとしたとなっては、極刑は避けられないでしょう。

 ……この森に無断で立ち入ったこと、我が家の森番に襲いかかったことに関しては……大公妃の件に比べれば些細なことでしょうから、特別に不問ということにしてあげますよ。

 今回の件に関しては我が主にしてこの地の領主、パーシヴァル・ハーネットより『好きにせよ』と全権を委任されていますので……ハーネット家の名をかけてその点については保証してあげましょう」


 そう言ってアイシリアはにっこりと微笑み……その背からドラゴンの翼を生やし、そのスカートからドラゴンの尻尾をついと押し出す。

 その瞳はまるで宝石を詰め込んだかのようにギラリと……殺気をはらんだ、人のものとは思えないような輝きを放ち……大剣を挟んでいる二本の指の爪がまるで竜の爪であるかのように鋭く、長くなっていく。


 周囲にてその姿を見ることになったヘリワード達の感想はなんと美しいのだろう、というものだった。

 魔力を放ち、冷気を放ち、周囲に漂うチリや空気を凍らせてキラキラと輝くその姿は、人では決して到達出来ないだろう、世界の頂点を思わせる程に美しかった。


 自然の持つ美しさや、領主が手掛けた美術品の持つ美しさとは全く違う……生命の極みとも言える美しさ、確かな力強さを感じる何かがそこにはあった。


 そんな中ドラゴン殺しはその姿を見て、ただただ恐ろしいと、この世の何よりも恐ろしいと、そう考えていた。


 明らかなる人外、容易く人の命を奪えるだろう圧倒的な力。

 人類どころか世界すらも滅ぼしかねない破滅の力。


 こんな化け物がこの世界に居て良いはずなどない、こんな恐怖の塊が世界のどこかに存在していたら、恐ろしさのあまりに夜も眠れなくなってしまう。


 自分の才を見込み、自分にドラゴン殺しの道を教えてくれたあの人の、あの表情、あの言葉の意味は今良く分かった。


 ……そして自分ではない誰かにドラゴン殺しをさせようとしたあの人の意図も、分かりすぎる程に理解してしまった。


 自分では勝てないとかそういう話ではない。

 あまりにも恐ろしすぎて自分では挑みたくないのだ、その前に立ちたくないのだ。


 挑んだ末にどうにか勝ったとしても、きっと自分はこの恐怖を忘れることは出来ないだろう。


 恐怖を忘れる事ができず、恐怖に負けて、人間らしさを失ってしまうことだろう。


 嘘か本当か、この世界の何処かにはドラゴンの巣へと単身で向かい、ドラゴンを前にして、ドラゴンに夢を叶えてくれと願い出て、代償を差し出すことを条件に夢を叶えた者がいるそうだが……よくもまぁ、こんな化け物を前にしてそんなことが出来たものだ。


 仮に殺意がなくとも、敵意がなくとも、目の前にいるこれは、ただそこに居るだけでこんなにも恐ろしい存在ではないか。


 ……と、そんなことを考えた所でドラゴン殺しは、脱力して膝から崩れ落ちる。

 恐怖のあまりに呼吸することを忘れてしまい、呼吸を忘れたことにより脱力してしまったようだ。


 一体いつから自分は呼吸をしていなかったのか、一体自分はどれだけの時間、ドラゴンについて……その恐怖について考えていたのだろうか。


 そんなことを思いながらドラゴン殺しは慌てたように呼吸をするが、いきなりそうしようとしてしまったがためにむせ返り、その痛みや苦しみでもって悶えてしまう。


「……ドラゴンに挑みたいのであれば、正面から礼儀正しい客として来訪し、そう告げたら良かったのですよ。

 そうしてくれたならわたくし達ドラゴンは、その勇気を大いに評価し、最大の敬意と慈悲を持って相対したはずです。

 繰り返しになりますが、わたくし達は挑戦者を歓迎します、ドラゴン以上の存在になろうとする意思を尊重します、何者かがそうなり、対等かそれ以上の隣人となってくれたなら、それはドラゴン達にとって、これ以上ない喜びなのですから……。

 アナタに変な魔力をまとわせている何処ぞの誰かにも……その機会があればですが、そう伝えてください」


 悶えるドラゴン殺しの背中に手をやりながら、そう声をかけたアイシリアは……容赦なくドラゴン殺しを氷漬けにしていく。


 魔力によって造られたその氷は、ドラゴン殺しのことを冷やし、凍りつかせ……その内側の時をその魔力によって完全に停止させる。


 ……そしてその光景を少し離れた場所で見ていた、ミクーラとヴォルフ、スヴトゴールの三人とパラモンとアーサイトの二羽は……自分達こそがいつかドラゴンの隣に立ってみせると、鼻息荒くその手や翼をぐいと構え、意気高く志高く直ぐ側に立つ友と言葉をかわし始める。


 その光景を見て静かに微笑んだアイシリアは、普段の姿へと戻り、氷塊を片手で軽々と持ち上げ……それをそのまま、隣領の大公の下へと持っていくのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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