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ドラゴニックメイド  作者: ふーろう/風楼


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森の中での対決


 輝く金の髪を鉢巻でもって逆立たせ、金の瞳をぎろりと動かし、背負った大剣でドラゴンを殺そうと企むその男は、こっそりと侵入したハーネット領内の不穏な空気を敏感に感じ取っていた。


 領民一人一人が殺気立っていて、その懐に武器を隠し持っていて。


 それなりに心得のある人間であれば、そのことは一目見れば丸わかりで……男はそんな領民達に見つからないようにと、目立たないようにと行動を取っていた。


 とは言えこんな田舎で……農村としか言えないような場で隠れられる場所は限られていて、目的地に向かって移動をしなければならないこともあって男は、他に選択肢はないなと森の中へと身を潜めていた。


 木々が密集し、春ということもあって葉が青々と茂り、草花が元気にその背を伸ばし……食料も水も余る程にある。


 男にとって何もかも都合が良い森の中を、それでも慎重に、身を隠しながらゆっくりと進んでいると……男の背後に突如大きな黒い影が現れるのだった。




 その黒い影にとって、森の中にその男が居てくれたことはありがたいことだった。

 森の中は彼の本領……歩くも身を隠すも、戦うのもすっかりと慣れている。

 

 木々が密集していようが、枝葉が目の前にあろうが、地面がでこぼことしていようが全く問題なく戦えるし、まるで呼吸をするかのように自然に、あるがままにその身を動かすことが出来る最高の戦いの場であったのだ。


(食らえ……!)


 声には出さず、心中でそう叫んだ黒い影……森番のヘリワードが、鉈のような大剣を振り下ろす。


 それは人を斬るためのものではなく、木や枝を切り払うためのものだったが、それでも切れ味と威力は十分で……直撃したならば鉄の鎧であってもその刃を防ぎ切ることは不可能だろう。


 それ程にその剣は大きく、ヘリワードの力は強く、凄まじい勢いでもって男に……ドラゴン殺しの背へと迫る。


 だが、ドラゴン殺しも只者ではなかったようで、音で気付いたのか気配で気付いたのか、すぐさまに身を翻し、地面を転がり、その一撃を避ける。


 するとヘリワードは振り下ろした大剣を再度振り上げながら……地面を転がるドラゴン殺しへと蹴りを放つ。


「ふんっ、背中から奇襲とは卑怯者の剣だな!」


 その蹴りを立ち上がりながら回避し、背中の鞘から大剣を引き抜きながらドラゴン殺しがそう言うと、ヘリワードは険しい顔になりながら言葉を返す。


「女子供を付け狙うお前に卑怯者だのと言われる筋合いはない!!」


 言葉を返したなら振り上げた鉈剣を振り下ろす……が、ドラゴン殺しはそれをまたも見事に回避してみせて、両手で構えた大剣を横薙ぎに払ってくる。


 だが、負けず劣らずそれを読んでいたヘリワードはさっと飛び退くことで回避し、回避ついでに側にあった木を盾にする位置に移動し、そこで体勢を整える。


「逃げるか! やはり卑怯者だな!」


 そんな声を上げながらドラゴン殺しが二度三度と大剣を振るってくるが、その全てを森の木々の力を借りながら回避したヘリワードは……回避しながら、ドラゴン殺しから適度に距離を取りながら木々の根で地面がうねり上がっている、足場の悪い場所へとドラゴン殺しを誘導していく。


 ドラゴン殺しの剣の腕と体捌きは中々のもので、あるいは平地での戦いであったならヘリワードに勝ち目は無かったかもしれないが、ここは森の中……その環境全てがヘリワードに味方してくれる。


 薄暗い視界も、じめっとした空気も。

 そこら中にいる虫達も、地面を這う毒蛇すらもヘリワードの味方で……最初の一撃以外、ヘリワードはただ相手の攻撃を回避しているだけだったのだが……それでも効果は十分で、ドラゴン殺しの息が上がり、その顔を大量の汗が覆い始める。


 そうして動きが鈍くなり、大剣の振りが甘くなり……隙が大きくなってきた所を狙って、ヘリワードの鉈剣が振り下ろされる。


「ぐぬ!? ひ、卑怯だぞ!

 男ならば正面から打ち合え!!」


 その一撃を回避しながらドラゴン殺しが絶叫するが、ヘリワードは取り合わない。


 まだトドメには早かったかと、逸る気を抑えて……細めた目で、獲物を狙う猛禽類のような目で、ドラゴン殺しのことをじぃっと睨みつける。


 息は乱れておらず、うねる木の根の上でも体幹は崩れておらず……ドラゴン殺しよりもかなりの余裕がある。


 そんなヘリワードを前にしてドラゴン殺しは……顔を歪めて舌打ちをする。


「こんな所で魔力を消費したくはなかったが……仕方ない。

 貴様のような凡夫には惜しい魔法だが、これ以上無駄な時間を過ごす訳にはいかんのでな! これでも食らうが良い!!」


 魔力、魔法。


 それは限られた人間にだけ扱える、奇跡にも等しい凄まじいまでの現象を引き起こすもので……ヘリワードはまさかとその表情を歪める。


 こんな男に、こんな愚か者に魔法が使えるなんて……!


 精霊様はなんだってこんな男に、そんな力を与えてしまったのか!!


 魔法に対抗するには魔法を使う必要があり、魔力とも魔法とも縁遠いヘリワードは、その場から大きく飛び退き、鉈のように刃の広いその剣を盾のように構える。


 瞬間、ドラゴン殺しの周囲にいくつもの光弾が浮かび上がる。


 眩く白く光る、その男に全くもって相応しくない、清廉なる光。


 浮かび上がったそれらは、男の周囲をふよふよと漂い始め……それらの光弾が煌めいたかと思った次の瞬間、いくつもの光の槍が周囲の木々や地面に突き刺さり……そしてヘリワードの体をも貫こうとする。


「ぐわっ!!!」


 ヘリワードが直撃を受けることを覚悟して目を瞑りかけたその時だった。


 そんな声が響いてきて、一つの白い影がヘリワードの前へと飛び込んでくる。


「アヒルだと!?」


 ドラゴン殺しがそんな声を上げる中、飛び込んできた白い影はヘリワードへと迫る光の槍をその翼でもって切り払い……白い影の翼の方が強力なのか、光の槍が雲散霧消する。


「ぐわっ!!」


 またも声、そしてまたも白い影。


 ヘリワードの前へと飛び込んできたのとは別の白い影がドラゴン殺しの周囲に漂う光弾を次々に切り払っていく。


『ぐわわわ!!』


 ドラゴン殺しが放った全ての魔法を切り払った白い影達は、その勢いのままに近くの木の枝へと着地して、その上でそんな言葉をクチバシにして……ドラゴン殺しへの宣戦布告とするのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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[一言] アヒル強い!!!
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