一人でお出かけ
春となって日に日に温かくなり、様々な生き物が顔を出し、草花が瑞々しい姿を見せてくれるという素敵な日々の中、それ以上に素敵なペンダントをパーシヴァルに作ってもらってユピテリアはいつになくご機嫌となっていた。
エミーリアという新しいお友達も出来て、家族も友達も近くに住まう皆も元気で笑顔で楽しそうで……こんなに幸せなことがあるだろうかと、屋敷の庭を歩いていたユピテリアは思わずスカートをふんわりと揺らしながらのスキップをしてしまう。
まだまだ幼く少女と言うよりは幼女という風情だが、少しずつ体が大きくなっていて、色々な知識を溜め込んでいて、相応の常識を学び始めていて……そんなユピテリアのことをパーシヴァルもまた認めていて……パーシヴァルに認められた結果、ユピテリアは近所であれば大人の同行無しに出かけることを許されるようになっていた。
とはいえパラモンとアーサイトの同行は必須で、出来ることならエミーリアやクーシー達も連れていくようにと言われていて、一人きりという訳ではなかったのだが……それでもユピテリアはパーシヴァルに認められたことで、自分が一人の人間であることを自覚し、自分が大人になりつつあることを自覚し……相応の責任感と誇らしさと自分らしさ、ユピテリアらしさというものを獲得しつつあった。
「今日は何処にいこっかなー」
スキップをしながらそんな言葉を口にし、屋敷の門へと向かっていって……パラモンとアーサイトがパタパタと追いかけてくるのを尻目で見やり……二羽がちゃんと追いついてくるのを待ってから、門を開き……外へと足を踏み出す。
「今日はー……んー。
タックさんのとこは……昨日行ったしなー、牛さんも最近は寝てばっかりだしー……んー。
そうだ、おばあちゃんのとこにいこう!」
足を踏み出し、再びスキップをしてユピテリアが向かったのは近所の農家の……もう歳だからと、畑に出ることなく椅子に座って編み物をして毎日を穏やかに過ごす老婆がいる家だった。
息子夫婦がいて孫がいて、でも皆畑の方に出かけていて……一人静かに家の中で過ごしている老婆。
そこにユピテリアが遊びに行くと老婆はとても喜んでくれて、色々なことを話してくれて……そんなおばあちゃんの話がとても好きになっていたユピテリアは、満面の笑みを浮かべながらスキップでタンタカと足を進めていく。
「おばあちゃん! 遊びに来たよ!」
老婆の家についたなら、そう声を上げて、玄関のドアをノックして……「どうぞ」という声が返ってくるのを待ってから中に入り……息子が作ってくれたというしっかりとした作りの椅子に腰かけながら編み物をしている老婆の下へと駆け寄り、その膝の上にそっと両手を置く。
「ユピテリア様、いらっしゃいませ。
今日も元気そうで何よりですね」
その両手の上に細く皺だらけになった手をそっと置いた老婆が微笑みながらそう挨拶をしてくれると、ユピテリアは頬を上気させながら微笑み、
「うん! おばあちゃんも元気で良かった!」
と、返してから、近くにあった椅子を引っ張ってきて、そこにちょこんと座る。
するとパラモンとアーサイトはその椅子の両脇に「くわっ」と鳴きながら腰を下ろし……そんなユピテリア達の様子を頷きながら眺めていた老婆がゆっくりと口を開く。
「今日もお話を聞きにきてくれたのですか?
どんなお話をお聞きしたいですか?」
それを受けてユピテリアは、顎に人差し指を当てながら声を返す。
「うーん……今日はお話したいことっていうか、聞きたいことがあるの」
「それはそれは……一体どんなことをお聞きになりたいのですか?」
「えっとね、お父様とお母様って……どういう関係なのかなって思って、それを聞きたかったの!」
お父様とお母様……パーシヴァルとアイシリア。
二人を父、母と呼んでいるのはあくまでユピテリアがそうしたいからという理由であり……正式な養父であるパーシヴァルを父と呼ぶのは良いとしても、アイシリアのことを母と呼ぶのは適切ではない。
二人は夫婦どころか、恋人でも無い訳で……そのことに疑問を持ったらしいユピテリアのそんな一言に、真っ先に反応したのは老婆ではなくパラモンとアーサイトだった。
「ぐわっ!?」
と、声を上げて驚愕の表情を浮かべて……「それをここで聞くのですか!?」と言わんばかりの表情をしている。
そんなパラモンとアーサイトと、ユピテリアのことをゆっくりと見やった老婆は……微笑みを浮かべたまま、一切の動揺もせずに、静かに言葉を返す。
「そうですね……。
お二人がどういう関係なのか、この婆の目で見た関係を、ありのままの言葉にするのであれば『家族』と言う言葉が一番しっくり来るように思えますね。
夫婦でも恋人でもなく家族……もちろんユピテリア様とも家族で、あのお屋敷に住まう皆様が家族で……だからユピテリア様も、お二人をお父様お母様と呼ぶのでしょう。
ご領主様もアイシリア様も、そしてユピテリア様も……本来の家族とは離れてくらしていると聞き及んでいます。
そんな皆様だからこそ、一つのお屋敷の中で家族になることが出来て……毎日を幸せに楽しく暮らすことが出来ているのでしょう。
……そして恐らくですが、ご領主様にとってはアイシリア様とユピテリア様が一番大事な家族で、それだけでなくそこな騎士達も大切な家族で、何であれば領民である婆達も家族だと思っていて……そんなご領主様のおかげでお屋敷もこの婆の家も、領内のどこもかしこもが、平和で幸せな毎日を堪能できているのでしょうね」
その言葉を受けてユピテリアはしばらくの間、黙り込んで考え込む。
考えて考えて言葉の意味を理解して……そうしてから今日一番の微笑みを浮かべる。
「えへへ、ならおばあちゃんと私も家族だ!」
そんな結論を出したらしいユピテリアに老婆は勿論、パラモンもアーサイトも微笑む。
……そして実はこっそりと、ユピテリアの後を追いかけてきて、老婆の家の壁に張り付き、その会話を盗み聞きしていた領主も静かに微笑んでいて……そんな領主の背後で、領主のことを冷たい視線で睨んでいるアイシリア以外の、その場にいる皆が幸せな微笑みに包まれることになるのだった。
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