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ドラゴニックメイド  作者: ふーろう/風楼


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仮に戦争が起きたら


 ユピテリアとパラモンとアーサイトと、ミクーラ、ヴォルフ、スヴトゴールの絵画が飾られた廊下を、メイドが干したてのシーツを抱えながら歩いていると、そこにユピテリアがトトトッと駆けてくる。


「お母様、質問があります」


 足を止めて振り返り、廊下を駆けていることを咎めようかと一瞬悩んだメイドは、まずはその質問を聞こうかと考えて言葉を返す。


「どんな質問ですか?」


「はい、図書室にあったお本を読んでいたら、領主には戦時に出兵する義務があると書いてあったのですが……お父様に出兵なんて大それたこと、出来るのですか?」


 子供らしさを残した子供のようであり、それでいて大人びたことを言うこともあり……最近では自ら進んで本を読むようにもなったユピテリアのその質問に……メイドは少し悩んでから言葉を返す。


「義務ですから、出来る出来ないではなくやらなければならない訳ですが……現実問題としてあのひとにそれを期待するのは難しいでしょう。

 あの人はいざとなれば、剣を振るうことも人を殺すことも領主としてためらわずに行うのでしょうが……結果が伴うかというとそれはまた別問題ですから。

 戦時という特別な環境下での緊張と恐怖でとんでもないことをしでかし、予想もできないようなことをやらかし、敵だけでなく味方にも大混乱を招くことになるでしょう」


「……えっと、それはつまり出来ない、ということでしょうか?」


「出来るけどもやらない方が良い、やらせない方が良い、という所でしょうね。

 やらせたなら最後、敵味方に関係なく戦場にいるもの全てに全く予想外の甚大な被害を及ぼすことになるでしょうから」


「……なるほど」


「えぇ、ですからいざ戦時となっても、王からの出兵命令が出ることはまず無いでしょう」


 と、メイドが説明するとユピテリアは、納得したようなしていないような、なんとも言えない表情をし、顎に人差し指をちょいと当てて……「うーん」と声を上げて悩み始める。


 その様子を見てメイドは小さなため息を吐き出し……シーツをしまうためにと足を進めながら天井を見上げ……いつかにあった出来事を思い出し、そのことを語り始める。


「わたくしがこのお屋敷に仕え始めたばかりの頃に、一度だけ各地の領主を集めての大演習なんてものが行われたこともあったのですが……あの人は、演習用の筋書き、隣国が我が国の領地で略奪しているという、そんな筋書きを真に受けてしまいまして……。

 呆れることに3万人ということになっている300名程の仮想敵兵に対し、この領地でどうにかこうにかかき集めた13名の若者達という兵力で真正面から突撃してしまったのです。

 軍馬もなく、まともな装備もなく、いかにも農民といった風情の木剣を持った13名での突撃を……です。

 それを受けて仮想敵兵役を任じられた300名の騎士団は当惑しました。

 13対3万という戦いにおいてどう動くのが最適解なのか……敵兵として自分達は果たしてどうするべきなのか、予想外過ぎる事態にその辺りが分からなくなってしまったのです。

 そのまま待ち構えて迎撃すべきか、それとも前進して当たりにいくべきか……答えを出さずにいるうちにあの人は……突撃の途中で敵の多さに驚いてしまい、恐怖してしまい……突撃の途中で逃げ出すという暴挙に出ました。

 突撃を途中で立ち止まろうとし、その勢いのままにすっ転んで……起き上がれないまま四つん這いで逃げ出して……なんとか途中で起き上がって逃げて逃げて、近くの森の方へと駆けていって……」


 そんなメイドの話を聞いてメイドの後を静かに追いかけていたユピテリアは、その光景をありありと思い浮かべることに成功し……お父様らしいなと、小さく笑う。


「そんな有様を見た騎士団は追撃を決断しました。

 追撃役は50名の騎兵、つまりはまぁ5000の敵騎兵ということになっている一団に任され……早速追撃を開始し、どうにか森に入る前に捕まえようとしましたが……あの人は逃げ足だけは一流だったようでまさかの逃走に成功。

 森の中にまで追撃するべきではなかったのでしょうが……すぐに捕まえられるだろうと、あの人を甘く見て、甘い判断をしてしまって……そうして騎兵達は森の中へ入っての追撃を続けてしまいました。

 するとあの人は、木の陰に隠れるなんてのは当たり前、葉っぱの中に埋もれてみたり、川の中に飛び込んでみたり、泥の中に潜り込んでみたりと、ありとあらゆる手を使っての逃げ隠れを開始しました。

 それはもうひどい有様と言いますか、演習とは何なのかと問いたくなるような有様で……そうして敵騎兵はあの人達を見失い、あの人達はあの人達で森の中で迷子になり……迷いに迷った挙げ句、森を抜けた先で仮想敵の本拠地を見つけてしまいました。

 演習のルール上、本拠地を制圧したら勝利となる訳で……ほぼ無人に近かった敵本拠地を前にしたあの人は、即座に制圧するとの判断を……恥知らず過ぎる判断を下し、まさかの勝利。

 主力である騎兵を馬鹿な判断で失い、そこを突いてきた他の領主軍相手に苦戦をしてしまっていた騎士団は、その報せを聞いて怒るよりも何よりも唖然としたそうですよ」


 それから領主は、一応勝ったには勝ったということで王から直々のお褒めの言葉を与ることになった。

 木の葉まみれ泥まみれ、見るも無惨な格好で……王の前に立って。


 そして当然の判断として演習は仕切り直しとなり、領主はまた戦場をかき乱されては困ると待機を命じられ……見るも無惨な有様なのもあって、王宮の大浴場へと送られることになり、他の領主達が汗にまみれる中、領民達と共に大浴場を堪能。


 挙句の果てに王宮の客間にて王宮の晩餐に舌鼓をうち、立派なベッドで一晩ぐっすりと眠り……他の領主軍が、二度と負けてたまるかと奮起する騎士団を相手に完敗を喫し、再訓練、再軍備を命じられる中……唯一勝利した軍として堂々の帰還を果たすことになった。


「……以来、あの人に軍事関連の命が下ったことは……全く無いとは言いませんが、ほぼありませんね。

 本当に戦争が起きたとしても、王があの人を頼ることはまず無いでしょう。

 戦時に兵を出さないで何が領主か、貴族かと言われそうですが……まぁ、そもそもとしてあの人は無能ですからね。

 無能にまっとうな成果を求める方が間違っているのですよ」


 丁寧にシーツをたたみ、寝具をしまっておくオーク材の箱にしまい込みながらそう言うメイドに、ユピテリアは「なるほど!」とそんな声を上げて……その時の光景を思い浮かべ、他の領主達が浮かべただろう顔を思い浮かべ……なんとも元気な笑い声を上げるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] うん、 ビビった 逃げた 逃げ惑った先が敵本陣だったから恥知らずにもヤっちゃった … 本人の行動、貴族社会的に当てはめるとそうだろうが 見方を変えれば 大規模が連携取れない森に誘い込…
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