表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴニックメイド  作者: ふーろう/風楼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/163

土産を手に


 書店を後にしたアイシリアは、それなりに重いはずの木箱を、まるで紙の箱をそうしているかのように軽々と、手の平に乗せる形で持ちながらスタスタと軽い足取りで噴水広場の方へと足を進めていく。


 今度は一体何処へ向かうのか、何をするつもりなのか……そんなことを考えながら緊張した面持ちで周囲を囲っているレリアに対し……アイシリアは足を進めたままポツリと言葉をかける。


「先程の店主が思いの外優秀だったおかげで、想定よりも早く用事が済みました。

 これであれば一泊する必要もなさそうですので、このまま帰宅させていただきます」


 それを受けてレリア達からは安堵のため息が漏れる。


 このまま帰ってくれるならばありがたい、どんな揉め事が起きようとも対処出来るという自負はあったが、揉め事が起きないでくれるのならばそれに越したことはなく……このまま仕事が片付くのであれば、今日は自宅に帰って落ち着いて休むことが出来るぞと、レリアを始めとした騎士達は二度目の安堵のため息を吐き出す。


 そうして緩んだ空気が一帯に広がり……沈み始めた夕日が王都を真っ赤に染め上げる中、メイドはスタスタと、まっすぐに噴水広場へと向かい……広場についたなら、飛行に耐えられるようにと木箱や腕に下げていたバスケットを氷の箱で包んでいく。


 それはメイドにとっては大したことの無い、いつもの光景であり……レリア達にとっては目を見開く程の凄まじい光景であった。


 そんな光景が広場で繰り広げられる中、何人かの職員達がアイシリアを見送る為だろうか、姿を見せて周囲を囲うようにして並び……彼らなりの敬意と、早く帰ってくれという視線をアイシリアへと送る。


 それらの視線を受け取り、何も言わずに頷き返したアイシリアが、広場から飛び立つ為に翼をその背に生やそうとした―――その時。


「おい、そこの女! お前さては、噂の氷竜の眷属だな!

 まさか本当に実在していたとは驚いたが……ふむ、意外に顔は良いらしい、おい! お前! 儂が雇ってやるから、こっちに来い!」


 と、今しがたの光景を目にしたらしい誰かの、野太く不躾で下品な声が周囲に響き渡る。


 氷竜に対し、よもや氷竜の眷属呼ばわりするとは……と、アイシリアの広い心が僅かに揺れる中……大慌てでレリア達がその声の主の方へと駆け寄っていく。


 その声の主は先程の声に似つかわしい、いかにもな見た目をした人物だった。


 年は50か、60か。禿げ上がった頭で夕日を反射しながらのっしのっしと歩く醜いまでに太った男。

 下品なまでに煌めく金糸と銀糸のシャツと真っ赤なコートを身に纏い……ズボンも靴までが真っ赤という凄まじい服装をしている。


「エリオン侯! そこまでにして頂きましょう!

 彼女は我が家の賓客……無礼な言動は看過できませんな! 陛下からも余計な接触を避けるようにとお達しがあったではないですか!!」


 兜を脱ぎ去り、マントをわざとらしく振り払い……のっしのっしと歩いていくゴート公の長男、レリアがそう言うと……エリオンと呼ばれた男は、周囲に立っていた部下達に……レリア達に比べるとかなり質素な、鎧に身を包んだ男達に「おい!」と声をかけ、指示を出す。


 それを受けて部下達がレリアの行く手を塞ごうとし始め……それらともみ合う形になったレリアは、エリオンに釣り上げた目でもって鋭い視線を送る。


「お、お達しがあったのは氷竜に関わるなという話で……氷竜の眷属に関わるなとまでは儂は聞いておらん、聞いておらんぞ!!

 氷竜があのような田舎者に仕えるなど有りえん話だし、そこな女は眷属に違いないわ!!」


 その目を受けて僅かに怯んだエリオンは、視線をそらし顔をそらしながら、そんな声を上げる。


「そのような理屈が通ると思っているのですか!

 ゴート家の嫡男として宣言します、彼女は氷竜そのものであり、貴殿の言動は陛下のお心に反するものであると!」


 それを受けてレリアがそう返すと、エリオンはそんな都合の悪い言葉聞きたくないとばかりに己の両耳を塞ぎ……そしてそのまま、レリアの横をすり抜けてアイシリアの下へと向かおうとする。


 他の騎士達や職員達がそうはさせまいと立ちはだかると「エリオン家に逆らうのか!!」とそんな声を上げて、その言葉を迫力と……醜い表情でもって騎士達と職員達を押しのけてずんずんと足を進めていく。


「えぇい、何を黙っているのか、そこな眷属め!

 この儂が目をかけ、声をかけてやっているというのに、全く言葉を返さないなど無礼にも程が―――」


 そんな声を上げながらアイシリアの下へと向かい、その手を伸ばそうとしたエリオンだったが……どうしたことか、あと数歩で手が届くというところで動きを止めて、声を上げるのをやめてピクリとも動かなくなる。


 片手をアイシリアへと延ばしたまま、片足を振り上げたまま……醜い口を大きく開けたまま動かなくなったエリオンを、特に何の感慨も無く、関心も無く、一瞥だけしたアイシリアは……その背に翼を開きばさりと羽ばたき……そのまま一気に上空へと飛び去ってしまう。


 アイシリアがいなくなってしまい、エリオンからの指示も停止してしまい……エリオンの部下達はこれ以上レリアを押し止める理由は無いとばかりにレリアのことを解放し……開放されたレリアは大慌てでエリオンの下へと駆け寄っていく。


 そうして彼の手に……差し伸ばされたままの手に、手甲を外した素手でもって……恐る恐る慎重にそっと振れるレリア。


「つ、冷たい!? こ、凍っているのか!? 

 だ、だが、死んではいない、確かな魔力の鼓動を感じるぞ!?

 だ、誰か、湯を湯を用意してくれ! エリオン侯を至急解凍しなければ!!」


 手を触れ、その指から魔力をそっと流し……エリオンがまだ生きていることを確認したレリアがそんな声を上げると、騎士達も職員達も、エリオンの部下達も大慌てで駆け出し、どうにか湯を手に入れようと奔走し始める。

  

 そうして騎士達と職員達と部下達は、どうにかこうにか民家や行政施設から湯を入れた器なり、ポットなりを貰ってきて……大慌てで氷像と化しているエリオンへと、その湯をぶちまけるのだった。



 ――――ユピテリアの寝室で パーシヴァル



 空を飛んでしまったユピテリアをどうにか捕まえて、飛ぶのはアイシリアが側にいる時だけと言いつけて……そうしてユピテリアの体力が尽き果てるまで遊んでやったパーシヴァルは、疲れ切ったユピテリアをベッドに寝かしつけてやりながらぼんやりと窓の外を眺めていた。


 ぽんぽんとリズムよく、ユピテリアを包む毛布の上にその手を置きながら、優しく静かな物語を語りながら、ぼんやりと……。


 すると窓の外に上空を舞い飛ぶ、何者かの影が一瞬映り込み……それを受けてアイシリアの帰還を確信したパーシヴァルは音を立てずに椅子から立ち上がり、音を立てずにユピテリアの寝室から出ていって……アイシリアが降り立つだろう、屋敷の庭へと静かに駆けて向かう。


 そうして庭に降り立つアイシリアを、ギリギリのタイミングで出迎えることが出来た領主は、アイシリアへまずは「お疲れ様」と労いの言葉をかけてから……、


「どうだった? 王都は?

 何か変わったことでもあったかい?」


 と、尋ねる。


 するとアイシリアは、氷の中から取り出した木箱をそっと差し出しながら……、


「いえ、特に何も有りませんでした。

 強いて何か報告することがあるとするなら……そうですね、貴方の友人のレリアに会ったことくらいでしょうか。

 こちらは王都土産です、それなりの品なので大事に扱ってくださいね」


 と、さらりとした態度でそんなことを言ってしまう。


 その言葉を素直に、何も疑うことなく受け入れた領主は、差し出された木箱も一緒に受け取って……一体何が木箱に入っているのだろうと、ワクワクと胸を躍らせながら、早速とばかりにその場で木箱を開封するのだった。


お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 反射するところ! [一言] ひょうぞうにおゆをぶっかけると われちゃうよ!(なかみも) 魔力で脈が測れるのは便利~
[気になる点] 飛ぶのはアイシリアが側にいるだけ 側にいる「時」だけでしょうか? [一言] 毎回楽しみにしてます、まだまだ暑い日が続きますが体調にはお気をつけください。
[一言] またパーシヴァルは青くなりますね(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ