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ドラゴニックメイド  作者: ふーろう/風楼


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書店


 市場通りでの買い物を終えたアイシリアが次に向かったのは、外縁部から中央部……高くそびえる王城の近くにある『書店』だった。


 知識や物語を詰め込んだ……一文字一文字職人の手によって綴られた本を扱うその店は、主に貴族や大金持ちを客としていて……その外装からして豪奢で、精緻な模様が刻まれたタイルや、ステンドグラスがこれでもかと使用されている。


 中に入ってみれば内装も同様に豪奢で……そんな空間の中に煤や埃で汚れてしまわないようにしているのか、一般的なものよりもうんと透明度の高いガラス戸の棚が並べられていて、その棚には本がちょうど一冊納まるような個室が作られている。


 その個室に豪華な作りの表紙を構えた本が1つの個室に1冊ずつ、表紙を見せつけるような格好で納められて……アイシリアはレリア達を伴いながらそんな書店の中をゆっくりと、じっくりと見て回り……小さなため息を吐き出す。


 宝石を散りばめた表紙、金や銀の板を貼り付けた表紙、圧巻とも言える美しい刺繍がされた表紙など、本の内容に関係なくその表紙だけでかなりの値段がつきそうなそれらは、アイシリアが必要としている『知識と学問の為の本』ではなく、どうやら収集趣味の為のものであるようだ。


 こんなものを買って帰ってもあの人は喜ばないだろう、何の役にも立たないだろう。


 ……自分が求めていたのはこんな本ではないのだという意味の込められたアイシリアのため息を……レリアはどう受け取ったのか「仕方ないですよ」とそんな一言をかけてくる。


 それは辺境のメイド程度には買える値段ではないですよという、値札を見てのものだったのだろうか。


 少なくともアイシリアはそう受け取って……メイド服のポケットから自らの財布を、がま口の革財布を取り出して、レリアの手にそっと乗せる。


 中身を見ろという意味なのだろうと受け取り、がま口を開いたレリアは……口の中に広がっていた輝きを見て絶句する。


 何枚かの銀貨と、何枚かの最高純度の金であることを示す刻印入りの王金貨と、見るからに質の高い宝石の数々と。


 自らの給料の10年分はあろうかというその中身を見せつけられたレリアは、何より恐怖が勝ってすぐさまにその口を閉じてメイドの手にそっと戻す。


 こんな大金、メイドの身分ではまず手に入らないはずだが……と、そんなことを一瞬考えてしまうレリアだったが、そもそも相手はただのメイドではなく尋常ならざる存在だ。


 ……稼ごうと思ったならこのくらいの金、あっさりと稼げてしまうのだろう。


 しかしそれだけの財貨があるならば何故……という疑問がレリアの胸中に生まれてきて、周囲を見回し、盗み聞くような者がいないことを確認したレリアは、その疑問を小声で、アイシリアへとぶつける。


「……あの、それだけの財貨があるのなら、それらをそのままパーシーのやつにあげたらどうですか?

 本なんかよりも何倍も役に立つでしょうし……これだけあったら辺境があっという間に開拓され、活気づくと思うのですが……」


 するとアイシリアは半目となって、大きなわざとらしいため息を吐き出してから、聞かれても構わないと、いつも通りの声量で言葉を返す。


「そんな風に甘やかしてどうなるというのですか。

 領主も領民達も、そんな風に甘やかされてしまったならただのロクでなしになってしまうことでしょう。

 ……これはあくまでわたくしの私的な財産で……メイドとして働く前の、父の下で色々とやっていたときに稼いだものですから、公的な意図で使うつもりは微塵もありませんよ。

 そんなことはあの人もこの国も望んではいないはず……あの領地を豊かにするのはあくまであの領地の収益であるべきなのです。

 ……なんですか、その顔は。その私的な財産を使って、お土産という名目で本を買っていくのは良いのかとでも言いたげですね?

 個人的に、ちょっとした値段のものを買うくらいは構わないと思ったのですが……駄目ですね。

 この店の本はどれもこれも……値段も恐らくはその中身も、あの人には相応しくない品ばかりです」


 そんなアイシリアの言葉にレリアがどう返したものかと悩んでいると……店の奥、何人かの警備が立っている精算所の奥から一人の老人が姿を見せて……こちらへとやってくる。


 60か70過ぎと思われる男性で、その豊かな白い髪をきっちりと固めていて、丁寧に手入れされているらしい白髭を構えて小柄で細面で、なんとも高価そうな、光沢を放つ白いローブを身に纏っている。


「これはこれは……貴方様のようなお客様にご来店頂けるとは、光栄の至りに存じます。

 私はこの店の主をさせて頂いているものでして……本日はどのようなご用向きでございましょうか?」


 にこやかに微笑み、静かにささやくように言葉を発し……その仕草一つ一つでもって最大限の敬意を示してくる店主に、メイドもまた最大限の敬意を示し、美しく整えた声を返す。


「今日はいくつか、農に関する本を求めてここまで足を運んだのですが……どうやらこの棚には置いていないようですね」


「えぇ、えぇ、これらの棚にございますのは宝石本……所有することに意味がある本ばかりでして、そういった実用的なものに関しましては店の奥にて大事に保管させて頂いております。

 農、と一言に言いましても多岐に渡るものですが、具体的にどういった知識をお求めでしょうか?」


「そうですね……小麦や開拓、それと豆についての本があれば嬉しいのですが」


 と、メイドがそう言うと店主は満面の笑みでこくりと頷いて「少々お待ちください」との一言を残し、店の奥へと戻っていく。


 それから少しの間があってから店主が、三冊の本をまるで宝石をそうしているかのように、銀製のトレイの上に置いた状態でメイドの下へと持ってくる。


 それを受けてメイドは、自らの手にしている手袋が汚れていないかの確認をした上で、トレイの上の本を一冊手に取り……革で出来たその表紙を確認し、表紙に刻まれた著者の名前を確認し、表紙をめくってもくじをしっかりと確認する。


 一冊一冊丁寧に、全ての本の確認を終えたメイドは、なんとも満足に頷いて……財布から王金貨を一枚取り出し、優しく響く声を上げる。


「三冊全て頂けますか?

 これで支払いに足りると良いのですが」


 宝石本では無いとしても本というものは元来、高価なものである。

 それにしても王金貨1枚はいくらなんでも高すぎるだろうとレリアが驚く中……店主は「丁度でございます」との言葉を返し……メイドは何の躊躇もなく支払いを済ませる。


 すると店主は金貨をトレイの上に載せた上で、店の奥へと引き返し……それなりの時間が経ってから、輸送を考慮してのことなのだろうか、中に今しがた買った本がしまわれているらしい随分としっかりとした造りの木箱をなんとも重たげに……それでもしっかりと持ってメイドの下へとやってくる。


 その木箱をなんとも軽々と、片手で受け取ったメイドは……優雅な仕草で店主に一礼をしてから……笑顔で踵を返し、そのまま店を後にするのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 二宮金次郎が読んでいた本の写本、くらいな価値かな? 手書きでの写しは大変だし、良い品質の紙も高そう。
[一言] 無駄な本にはお金使えないですよねー。 タイトル買いでどれだけ失敗したか…orz 今は基本なろうで読んだ本を買ってるので外れないですね(笑)
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