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ドラゴニックメイド  作者: ふーろう/風楼


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35/163

一つの決着と……


 領民達に捕縛され、痛めつけられ、剣を手放し抵抗を諦めた兄ポールは……最終的に、隣国への追放、という処分が科されることになった。


 ポールがやらかしたことは、直ちにその首が断たれてもおかしくはない程の重罪であったのだが……兄を殺したくないという領主の思いと、兄殺しをさせたくないという領民達の思いと、ポールがふいに口にしたその息子と娘の存在が……領主が今の今まで知りもしなかった甥と姪の存在が何よりの決め手となった。


 甥達の存在に驚き、狼狽しながら『甥と姪から父親を奪いたくない』と思わず呟く領主。


 その表情を見てしまった領民達の中に、その意見に反対出来るものは一人もおらず……結果、追放処分が決定してしまったのだった。


 領民達の手によって国境まで連行され、国境の向こうへと投げ捨てられるということになり……そうして連行されていく中でポールが『自分には隣国の王家という味方がいる』『今回の件は王家の手の者から勧められて行ったことだ』と、そんなことを喚いていたが、その言葉に耳を貸すものはその場には一人も居なかった。


 領主もまた全く相手にせず『とにかくポールの処分は任せた』『しかと領外に捨ててきてくれ』と、そんな言葉を口にして……それから領主は一人とぼとぼと、ふらふらと……何も考えずに、完全な無意識でもって自らの屋敷へと向かって歩いていく。


 その心中は千々に乱れ……領主は今自分が何処を歩いているのかも、何をしているのかもよく分かっていなかった。


 兄に剣を向けた、兄に殺されかけた。

 そんな重罪を犯した兄を正しく裁くことが出来なかった。その兄に甥、姪がいた。


 自分はつい先程死にかけたのだぞという動揺と、領主失格の烙印を押されても文句はいえないぞという自らへの落胆と、まさか甥姪が居たなんてという混乱と。


 その渦中で領主は、改めて自らの立場というものの重さを再認識していく。


 こんな調子で領民達を守れるのか、いざ戦争などが起こった際にしっかり対応できるのか……戦争に参陣し、戦うことが出来るのか。

 そうした自問を何度も何度も繰り返し、答えが出せないままただただ自問を繰り返した領主が、無意識のまま屋敷を囲う塀の向こう……屋敷の庭へと足を踏み入れると、屋敷の扉がバタンと開かれて、笑顔のユピテリアが姿を見せる。


「おかえりなさい!」


 笑顔のまま、元気な声で挨拶をしたユピテリアが領主の下へと向かって駆け出す。


 小さな体で短い足で懸命に……そうして領主の下までやってきたユピテリアを見て領主は、手にしたままだった剣を手放し……地面へと落とし、両手を大きく広げてユピテリアのことを優しく抱きしめる。


 鎧を着ているため、しっかりと防具を身に着けているためその温かさを実感することは出来ないが、その存在と笑顔でもって自問の渦から引きずりだされた領主は、笑顔を浮かべてユピテリアの手をしっかりと握り……二人で一緒に屋敷へと向かって歩いていく。


「良い子にしていたかい?」


 と、領主が問いかけるとユピテリアは笑顔で頷く。


「うん、してたよ!」


 色々と混乱し、迷走し、自らの立場すらも見失っていた領主だったが、そんな簡単な会話一つでいつもの自分を取り戻していく。


 兄がなんだ、戦争がなんだ。

 ユピテリアのためなら何だって頑張れると、そう強い決意を抱きながら屋敷へと足を踏み入れた領主は……そこで待っていた女性の姿を見て、大きく口を開けて、顎が外れんばかり大口を開けて驚愕する。


 そこにいたのはアイシリアではなく、近くの農家の奥さん……先程兄ポールを連行していった農夫のトーマスの妻であるリアナだったのだ。


「あ、アイシリアはどうした!?」


 どうにか顎を外さずに済んだ領主が、リアナにそう声をかけると、リアナは首を傾げながら声を返してくる。


「さぁー、私に聞かれてもわかりませんで。

 私はアイシリア様に、ユピテリア様の面倒を見ておいてくれって頼まれたもんで、ここでユピテリア様と一緒に領主様のお帰りをお待ちしてたんですよ。

 ……と、言うわけで領主様、アイシリア様のご命令でお湯も用意しておきましたし、お食事も用意しておきましたんで、まずはそのお鎧を脱いで、いつものお服に着替えましょうか」


 そう言って慣れない手付きでリアナは、領主の鎧を脱がし始める。


「いや、これどういう造りになってるんですか」「アイシリア様から説明は受けましたけんど、難しいもんですねぇ」


 と、そんなことを言うリアナに、呆然とする領主は何も言葉を返すことが出来ない。


 一体何処に行ってしまったのだ。

 アイシリアは一体何処に……何をしに行ってしまったのだ。


 兄に追撃を食らわせる程度のことなら問題ないのだが……兄が口にしていた『隣国の王家が』云々。あれをアイシリアが耳にしていて、真に受けてしまって、報復に行ったとなれば大問題だ。


 すぐにアイシリアを見つけなければ、すぐに止めなければ。

 それこそ戦争の原因になってしまうような、ことはなんとしてでも防がなければならない。


 ……だが領主に、本気でそうしようと決意したアイシリアを止めることなど出来ようはずがなく、そもそも空を飛べるアイシリアを追いかけるだとか追いつくだとか、探し出すだとか、そんなことも出来ようはずがなく……そうして領主はただただ呆然とし続けることになる。

 

 ……そうして呆然とし続けた領主が最終的に、現実逃避としか言えない……全てを諦めてアイシリアのことは完全に忘れ去って、ただただユピテリアとのひとときを楽しむという決断を下したことを一体誰が責められるだろうか。


 ドラゴンという絶対的な、強大な存在を前にした、か弱い人はただただ無力なのである。

 領主の目の前にいる女の子も、実はそのドラゴンであったのだが、そうした現実から……この世の全てから目をそらした領主は、それからの時間を温かで柔らかな微笑みを浮かべながら過ごすのだった。



 

 ――――国境の森の中で 森番



 一方その頃、国境の森で森番は、何処かへと逃げ出してしまった領主を騙る不届き者の捜索を続けていた。


 あんな奴を放っておいたら何をしでかすか分からない。

 もう数日が過ぎてしまった為、とっくに森から脱出しているのかもしれないが、だからといって探さなくて良いという理由にはならない。


 領主様のためにも、森の平穏のためにも、領内の平穏のためにも、絶対にアイツを見つけてやるぞと気合を入れた森番は懸命に、愚直に、ひたすらに森中を歩き回っていた。


 疲れ果てるまで、その脚が動かなくなるまで歩いたなら、何処かに腰掛けて、森の木々の隙間から見える空を眺めながら休んで、また歩く為の活力を養って……。


 と、そんな折……その空を一人の、メイド服姿の女性が駆けていく。


 空の何処をどうやって蹴っているのか、スカートを翻しながら女性は凄まじい勢いでもって……厳しくつり上がった目で睨んだ方向へと真っ直ぐに、物凄い速度でもって国境の向こう、隣国の方へと駆けていく。


 その姿を見た森番は、スカートの中を覗くような行いは失礼過ぎるとさっと目を逸らしながら……ほっと安堵のため息を吐き出す。


 何がなんだか知らないが、何が起こっているのかは知らないが、兎にも角にもアイシリア様が動いてくれたなら安心だ。

 

 アイシリア様が全て綺麗に解決してくれるだろうと再度の安堵のため息を吐き出した森番は……ゆっくりと立ち上がり、自らの小屋へとその足を向けるのだった。

 


お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ユピテリアが支えになってますね。本人にそのつもりはないでしょうけど。 [一言] 隣国の誰かさん、部屋のスミでガタガタふるえて命ごいをする心の準備はOK?
[一言] 領民に棄てられてる元領主(笑)
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