表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/163

ちょっとしたお出かけ


 翌朝、早朝。


 領主とメイドは、南東の多部族連合地域へと向けていくつかの荷物を手に旅立った。


 通常、馬車などであれば行き来で一ヶ月程度の行程となるのだが……メイドも領主も着替えすらもない、日帰り程度の準備しかしておらず、もちろん馬車の手配もしておらず……ではどうやって連合地域まで向かうのかというと、その答えは『徒歩』となる。


「……いや、これは、徒歩と言って良いのだろうかなぁ」


 メイドの両腕に横抱きに抱かれ、腹の上に置かれた荷物をしっかりと抱きかかえる領主がそんなことを呟くと、すかさずメイドが、


「いいから、アナタはしっかり荷物を持っていてください」


 と、返す。


「まぁ……うん、早く解決するにこしたことはないし、ありがたい話ではあるのだが……この移動手段はどうだろうなぁ」


「馬車なんかで向かっていたら、何もかもが手遅れになる上に、その間に領内も荒れ放題になるに違い有りません。

 どこぞの無能も手を出してくることでしょうし……日帰りの、半日程度のことでも心配すぎて胃に穴が空きそうですよ」


 ぼやき続ける領主に向かってそう返したメイドは、スカートをバサバサと鳴らしながら地面へと落下し……地面に足が付つくなり凄まじい力でもって蹴りつけ、その力でもってふんわりと……地面から響き聞こえてくる破壊的な音からは想像も出来ない程に優雅に、柔らかに宙を舞い飛ぶ。


 力ずくの強引な方法でありながら優雅に、スカートを揺らしながらハイヒールでもってそうするメイドの姿は、傍目にはとても美しく、見るものがいたら思わず見惚れることだろう。


 足を振り上げる時も仕草にしっかりと気をつけて、足を地面に突く時はきちんと足の先を伸ばしてつま先から美しく着地し……そこかしこに竜の足跡と呼ぶに相応しい大穴を開けていること以外は本当に可憐で洗練されていて、メイドというよりも何処かの貴族令嬢のようでもある。


「……こんなに何個も何個も穴を開けてしまって、後で絶対に怒られるよなぁ」


 メイドの肩越しに後方を眺めながら領主がそう嘆くと、メイドはふぅと小さくため息を吐き出してから言葉を返す。


「経費のようなものです、このわたくしを行かせるからにはこの程度は覚悟してもらわないといけません。

 街道や町、畑や牧場をふみつけていないだけ感謝して欲しいものです。

 王都と王城を踏んで良いのなら、もっと近道できたんですよ?」


「……や、やめてくれよ? 王都も王城もシャレにならないからな?

 と、言うか普段出かけている時も、こんな風にと……徒歩しているのか?」


「まさか。普通に街道を走っていますよ。

 今日は例外中の例外、目的地が遠方だから仕方なくこうしているだけです。

 いっそのこと空を飛べたなら良かったんですが……その場合は多分、アナタが呼吸できなくなって、凍りついて死んじゃうので、こうする他に手はないのです」


「こ、呼吸ができなくなるって……空を飛ぶとはそこまで過酷なことなのか」


「過酷と言いますか……わたくし達の普段飛び交っている領域には、呼吸するための空気が存在していないんですよ」


 その言葉を受けて領主はぐいと首を傾げる。


 この世界において、空気が存在しない場所なんて本当にあるのだろうか?

 空気はどこにでもあるもので、そこら中にあるもので……洞窟の奥や、水の中ならともかく……と、そこまで考えて領主は、ハッとなってその瞳を輝かせる。


「なるほど!

 空の上には水がたくさんあるのだな! そうだよな、そうだよな。雨として降ってくるくらいだからなぁ……。

 確かに水の中であれば呼吸はできないものなぁ」


 その言葉に半目になって、大きなため息を吐き出したメイドは、


「柔軟と言いますか、なんと言いますか……自由な発想が出来てよろしゅうございますね」


 そんな皮肉を込めた言葉を返して……脚に力を込め、魔力を込め、今までとは段違いの力でもって、凄まじい勢いでもって、雲を貫かんばかりに地面を蹴り飛ぶ。


 そうして実際に雲を貫き、普段竜達が飛び交っている領域に至り……実際に体験してみてどうだと、領主の表情を見やるが、領主は空気どころでは、呼吸どころではなく、いきなりの未知の領域、おそらく王国中……いや、世界中の誰もが知らない雲の上の世界に至れたことを喜び、上気し顔を赤く染めながら……ただただ周囲の光景に見入ってしまう。


 その表情を見たメイドは、何度目かもわからないため息を吐き出しながらもう少しこの光景を見せてやろうかと悩むが……赤くなっていたはずの顔が青くなりつつあるのを見て、すぐさまに落下し……目的地である、連合地域の荒野へと凄まじい爆音と共に着地する。


 着地によって発生する衝撃や、飛び交う粉塵など、自らと領主を害するありとあらゆるものを魔力で弾き飛ばしたメイドは、そこから数歩スタスタと進み……顔色を赤くするやら青くするやらすっかりと混乱している領主を、どかりと地面の上へと落とす。


「今ので国境は超えました。

 目的地まで後少し……ここからは普通の徒歩で向かいますよ」


 そんなメイドの言葉の言葉を受けて領主は、メイドを見て、メイドの背後で起きている尋常ではない破壊現象の様子を見て……なんてことをしてしまったんだと驚愕し、そのまま気を失ってしまってガクリと地面に倒れ伏してしまうのだった。


お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] …今回…アイシリアが領主を害してるのが…なんとも言えぬ!
[一言] 領主様、高い山にも登ったことないんだろうなあ…… (温かい目)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ