プレシャス オブ メモリーズ ~シャヌア~
※ 初めてこの作品を見る方に向けて ※
こちらの主視点である【シャヌア】の過去の話ですが、本編の予備知識は出来るだけ不要なところで作成しました。
20時にさらに次話が投稿される予定です。
よろしければそちらもよろしくお願いします。
生まれた時から私には・・・きっと呪いのような物が掛けられていた。
出会う者全てに不幸を撒き散らしていた。
この人相からなのか、それとも何か誘き寄せているのかわからなかった。
子供の頃からだ、いつもいつも不幸が周りに伝染する。
学者の手も借りることもあった。
が相手にされることはなかった。
呪いなんて・・・最初の頃は私の両親も冗談だと思っていた。
だけど、それは次第に頭角を現してきた。
人が事故に巻き込まれる。
怪我人を出した。
そして・・・それは怪我人で済ますほど、甘くはなかった。
両親の死。
最後まで私の未来を信じてくれた両親もまた、呪いの餌食になってしまった。
なのに・・・。
当の本人は生きている。
どうして・・・。
どうしてこんな・・・。
子供の頃から呪いを呪った。
世界が・・・憎くなった。
だけど、死ぬ勇気も・・・なかった。
何度も何度も死のうとした。
幼いながらも軍隊に配属し最前線に行くことを志願したこともあった。
死ぬために・・・。
だけど、自分の命が出来たら誰かの役に立ってくれれば・・・そんな事を考えてしまった。
北の国・・・ナイクネスの軍隊に入った。
どこでもよかった。
ただ死という物が隣合わせにある戦場なら何処でもよかった。
当時のナイクネスは隣国の火の国のジャパニアと混戦状態だった。
私にはとっては好都合だった。
そして初めての戦場。
多くの兵達が息絶える戦場。
死んでいった兵士達にも友人や家族はいたのだろう。
きっと死んだと通知が来れば悲しむ者が多くいたのだろう。
だけど・・・私にはもういない、作らなかった。
この呪いがある限り必ず人を不幸にする。
だから私は作らなかった・・・。
戦場の最前線でそんな事を考えていた・・・。
ルシュカ
「ほう、戦場でそのような目をした者がまだいるとはな」
一人の敵が、私に話し掛けてきた。
私は彼女を知っていた、作戦会議の時に指揮官からの要注意人物だと挙げられた人。
ルシュカ・コードー。
火の国の四守護家のコードー家の令嬢。
ジャパニア最強の戦士。
私は絶好の機会だと思った。
そんな最強の戦士に殺されるのも悪くない。
ある意味でそんな最後を送れるのも悪くないと考えた。
シャヌア
「うおぉおぉおおお!!!!」
雄叫びと共にジャパニア最強へと掛けた。
だが、一振り、たった一振りで弾き飛ばされた。
言葉なんて出なかった。
もちろん勝つなんて気はなかった、けども力の差をたった一振りで思い知った。
それもそうだ、こんなただの死にたがりが最強の彼女に敵うはずもないのだから。
ルシュカ
「・・・・・・」
大きな太刀を振り上げた。
もう終わりだ。
いやこれで私は解放されるのだ・・・この呪いから。
私の願いは叶ったと目を閉じた・・・。
サナミ
「諦めちゃ駄目だよ!!!」
振り下ろされた太刀を・・・妨げた。
太刀は弾かれ、そのことに驚いたルシュカ・コードーは一度距離を取った。
私の前には両手に剣を握りしめた一人の少女が私を庇っていた。
シャヌア
「・・・・・・」
声が出なかった。
私を助けてくれた・・・?
どうして・・・。
サナミ
「この戦線は私が維持します! そう本部に伝えてください!! 早く!!」
シャヌア
「で、でも・・・」
サナミ
「大丈夫です! 私は・・・諦めてないですから!!!」
彼女は・・・私よりももっと幼い。
なのに、一人であの最強と謳われてる者に対峙している。
なんで・・・どうして・・・。
サナミ
「きっと・・・きっと、ここで頑張ればなんとかなるはずだから!!」
頑張れば・・・?
諦めたくないから・・・?
この子は・・・なんで。
まるで私の境遇を知っているかのように私に呼びかける。
サナミ
「だから・・・お願い・・・行ってください、それがきっと・・・!!」
シャヌア
「は・・・はい!!!」
私は立ち上がった。
脇見を気にせず・・・ただ走り続けた。
自分の涙を気にせず・・・ただ走り続けた・・・。
私は・・・軍を除隊した。
私は途方にくれた。
彼女・・・後に煌煌ノ騎士と呼ばれるようになった彼女の言葉がずっと私の胸に突き刺さっていた。
わからない、どうしてこんなにも苦しいのか。
それでも・・・もう死にたいなんて考えることは無くなっていた。
意味も無く、ただ私は村から町へ街から国へと漂流していたのだ。
ただ一カ所で佇むということをしなかった。
そんな中で私は、一つの街に辿りついてしまった。
現代では採掘市街と言われる・・・ダンズに。
採掘市街という名前の通りこの街は遺跡やダンジョンから取れる物資で経済が回っていた。
だが現代の街ほど大きく無く小さな町だった。
だがその先頭に立って指導をしていたのが、ロエ様のお父様だ。
最高の指導者・・・そう口にするも多くいた。
種族を問うこともなく、街をとにかく愛し・・・そして街もまた彼を愛していたと言っても過言ではない。
とにかく町は活気づいていた・・・みんな笑顔で、みながみなを助け合い、笑顔を絶やさないようにしていた。
そんな街に・・・私は、漂流していたのだ・・・。
私がこの町に抱いた第一印象は・・・。
ただただ、目に映る物全てが眩しかった。
シャヌア
「・・・・・・」
一日。
たった一日で私はこの町を去ろうと決心した。
あれから私の呪いのような物が消えることなんかなかった。
私の知る限りは不幸は続いていた。
だからこの街には居られない。
こんな素敵な街に私の居場所はない・・・。
「大変だぁあ!!! 盗賊の連中が鉱山に!!」
それは突然の喚起だった。
一人の男が息を荒げ広場の人々に告げた。
盗賊の襲撃。
それが今行われていると。
この事はすぐに町中に広がり武器を手に持つ人が後を絶たなかった。
「おい!! あんたも来るんだよ!!」
シャヌア
「えぇ!!? あぁ・・・!!!」
手を引かれ、私は連行されてしまった。
腰にぶら下げてる護身用の剣を見たからなのだろう。
軍隊の訓練は一通り受けているし何度も盗賊の夜襲を撃退したこともある。
けれど、腕に自信があるなんてのはあんな二人を目の当たりにしては口が裂けても言えない。
そんなことなんかお構いなしに私は襲撃の合ったとされる鉱山へと向かった。
ドォオォンッ!!!!
遠くから大きな音が響いた。
それは間違いなく鉱山の方からだった。
更に急いだ。
もう戦いは始まっているから。
・
・
・
鉱山までの道中、何人者負傷者目にした。
ほとんどが町の自警団の者達だ。
「ひ、酷い・・・」
みな足を止めてしまっていた。
この酷い光景を見て竦んでしまっている。
シャヌア
「・・・!!!」
私の脳裏には何故か、あの煌煌ノ騎士の顔が浮かんだ。
口を動かした・・・止めることが出来なかった。
シャヌア
「身を竦めた奴は負傷者を救助!! 戦う者は行くぞ!!!」
私は先導した。
一人山を駆け上がった。
付いてくる者は・・・ほぼ居なかった。
それでも私は走り続けた。
私は・・・戦うと決めたから。
あの最強に立ちはだかった少女のように強くはない・・・けど。
だからと言って・・・諦めてはいけない。
そう思った。
「なんだてめぇえ!!」
シャヌア
「邪魔だぁあ!!」
盗賊の最後尾に追いついた。
もうすぐで・・・追い付く!!!
とにかく迅速に、私は走る速度を落とさずに次々と襲いかかる盗賊達を倒していく。
一人一人は弱い、統率も取れていない。
これならどれだけ来ようと何とかなる。
「しゃらくせぇええ!!!」
シャヌア
「っ!!!」
襲いかかる敵の攻撃を避け一撃で殺していく。
対集団戦は慣れている。
ここまで一人で旅をしてきたのだから常に敵は複数。
それがモンスターだろうと盗賊だろうと変わらない。
「ぐわぁああ!!!」
シャヌア
「・・・っ!?」
私は足を止めてしまった。
悲鳴。
それは敵の物ではなかった。
一緒に付いてきた数少ない仲間・・・。
私は・・・一人、走り過ぎていた。
せっかく一緒に来てくれた人を・・・。
盗賊の攻撃を何とか凌いではいる。
私はすぐ援護へ向かおうと足を動かすが・・・。
「行ってくれ!!!」
一人の言葉にまた動きを止めた。
「俺達に構わず!! あの方達を頼む!! お願いだ!!」
シャヌア
「・・・・・・、っ!!!」
私は・・・前を向き走った。
託されたのか・・・。
また、あの時のように・・・。
違う!
今は違う、これは・・・違う。
涙は流さない。
すぐに・・・助けに戻るから。
だから、私は全力で山を駆け登った。
・
・
・
【鉱山作業場】
ロエ父
「貴様!! ロエを離せ!!」
「へっへへ・・・こんなところにガキを連れてくるのが悪いんだぜ、運がよかったぜ」
子供が一人盗賊に拘束されてしまっている。
護衛についていた者達も動けないでいた。
盗賊と護衛の人数はほぼ互角だが子供が人質に取られてしまっては打つ手がない。
「ご当主、ここは降伏を・・・ご子息が!!」
ロエ父
「だが・・・!」
「はっははは!! さっさとその腕輪、鉱山の瘴気を打ち消すって代物をこっちに渡してもらおうか!」
盗賊の目的はロエの父が今も手にしている腕輪。
ギフト『ピュリファーリング』だ。
これは一族代々から受け継がれている物。
このギフトの力で鉱山地帯の瘴気を取り除くことが出来き採掘作業をすることが出来る。
いわばダンズという町その物の要と言っても過言ではない。
だから、これを渡してしまっては・・・。
ロエ父
「人質には私がなる! 交渉にも応じよう、だから息子には手を出すな!」
「寝ぼけた事言ってんじゃねーよ!! こっちとらその腕輪意外に興味はねーんだよ!! 依頼主がお待ちなんだよ!!」
ロエ父
「ならばその依頼主と会わせてくれ、私が直接!!!」
「ふざけんなぁあ!! ガキを殺されてねーのか!!」
一切聞く耳は持たない。
盗賊はピュリファーリングの譲渡以外に一切の興味を示さない。
これ以上下手に盗賊を刺激するのも危ないと考え口を紡ぐ。
ロエ父
「・・・・・・っ?」
そんな時ふと目に止まった。
ロエを人質に取っている盗賊の背後の茂みに一人の女性が居た。
シャヌア
「・・・・・・」
シャヌアだ。
シャヌアは一人息を潜め手を動かした。
それは軍隊身に付けたハンドサインだった。
一か八かだった。
人質救出のサインが届けばと。
シャヌア
「・・・・・・」
シャヌアも細心の注意を払い、合図する。
ここでバレては元も子もない。
盗賊の動きを全て見極め、疎通を行う。
すると動きがあった。
ロエの父が不自然に瞬きをした。
シャヌア
(あれは・・・)
間違いない、届いた。
一定の間の瞬きと目を伏せる長さ、間違いなく伝わった。
『タイミングはお任せする、合わせる』
そう改めてハンドサインで送った。
無茶な事をしているのはわかるが、私にはわかる。
あの人は軍隊の経験がある人間だ。
だから私のサインにも気が付いた。
なら動きは決まった。
準備は整った。
ロエ父
「ふぅー・・・」
大きな深呼吸。
意志は固まった。
失敗すればロエの命がない。
だが、やるしかなかった。
名も知らぬ女性を信じるしか手はなかった。
この好機を・・・。
ロエ父
「・・・っ!!!」
一気に踏み込んだ。
地面を蹴り上げ突撃する。
「何のつもりだてめぇ!!!」
盗賊の言葉で静止することはなかった。
すぐさまロエを連れ後ろへと下がり後続の仲間達を正面へと動かした。
シャヌア
「っ!!!」
「何!!!?」
シャヌアも一気に動いた。
ロエに突き付けられたナイフを払い捨て、体術で盗賊を撃退。
そのままロエを救出しその場から距離取る。
「貴様ぁああー!!!」
手から落したナイフを拾い上げようとする。
だがナイフは蹴られ何処かへと行ってしまった。
ロエ父
「残念だったな、これで終わりだ」
「くっ・・・!くそぉがぁ!!」
すぐさまロエの父から距離を取り体勢を整える。
「やっちまえ!! こいつらみんなやっちまえ!!!!」
盗賊が一斉に武器を構え交戦の意図を見せる。
玉砕覚悟、死なばもろともなんてことはよくある。
シャヌア
「・・・・・・」
シャヌアもロエを抱えたまま剣を握る。
まだ戦いは終わらない、彼女の勘はそう働いていた・・・。
だが、その勘は外れてしまった・・・。
「ご当主!!!」
「大丈夫ですか!!!」
「救援に来ました!!!」
シャヌアはその声の主たちへ振り返る。
そこには、道中で置き去りにした者だけでなく身を竦めたと罵ってしまった者達も共に武器を持ち現れた。
ロエ父
「お前達!!!」
みな当主、ロエの父の為にここまで来た。
本当なら今にも逃げ出したい気持ちを抑えこんでここまで上り詰めた。
シャヌアにはそれがわからないでいた。
どうしてそこまでして・・・。
どうして・・・?
また、彼女の言葉が過ぎった。
『きっと・・・きっと、ここで頑張ればなんとかなるはずだから!!』
そう。
彼女が特別だから出た言葉じゃない。
彼女のように強いから出た言葉じゃないんだ。
これには、誰にだって秘めているもの。
自分たった一人でも、頑張ることができれば・・・きっと、と。
「くぅぅ・・・撤退だ!!!!」
みなの圧に負けた盗賊は逃げていった。
きっと彼等もわかっていた。
数の暴力だけではない、ここに集まった者達の想いに。
ロエ
「あの・・・」
シャヌア
「・・・?」
ロエ
「助けてくれて・・・ありがとう」
振るえる小さな体。
ずっと怖かった、今でもその恐怖で身が震え続けている。
それなのに・・・たったその一言を言う為だけに恐怖を抑え込み口を開いた。
見ず知らずの私なんかに。
これが・・・私が若に向けた最初の言葉だった・・・。