タイマー
街の中を1人で歩く、すれ違う人々の頭上にはタイマーのように減っていく数字。それは人々の寿命だ。初めてこの数字の意味に気づいたのは小学2年の冬、祖母が亡くなった時だった。祖母のタイマーが赤くなり、数字が少なくなっていくのをただ見ていた。そして祖母が亡くなった時、タイマーが消えた……。まるで機械が壊れたかのように……。あながちその表現は間違っていないだろう。なにせ私のタイマーも残り少なくなっているのだから……。
唐突だが私には弟が居る。名前は蓮見裕也。裕也は幼い時から心臓が弱くいつまで生きられるかわからないと言われてきた。私は裕也の寿命がそんなに早く来ないとわかっていたため周囲のように、裕也が病院に入院することになろうと発作を起こそうとハラハラする事はなかった。そのお陰で学校ではいじめられ、親はネグレクトになった。時折、暴力もされた。割れたビンで頭を殴られたときは死ぬかと思ったが寿命が縮まらなかったので『あぁ、これもふくめての寿命なんだ』と子供ながらに感心した。
そして意識を失い次に目覚めた時には病院のベットの上。もちろん誰も居ない。医師からは取れるガラス片は取り除いたが、大きなガラス片が神経に近いところにあり、取り除けなかったと言われた。私はそのガラス片の影響で死ぬのだと理解した。さらに医師はこうも言った。両親が私を捨てたと……。それはそうだろうと納得し、私は生きてきた。
そして寿命が半年を切った。だから病院にいったんだ。診察が終わり会計待ちをしていると院内が騒がしくなった。なんでも急患らしい。聞こえた名は蓮見裕也。まさかと思い見てみたんだ。両親が居た、確かに裕也だった。でも寿命はまだ来ていない。ならばなぜ? と思ったがすぐに気づいた。私と裕也は血液型から何から何まで一緒だった。つまり裕也の寿命は私が死んでドナーになる運命であると言うこと……。だが今すぐになんて死んでやらない。最後まで運命に抗って思い出を作ってから死んでやる。
そう意気込んだ半年前、もう私の余命はいくばくかしかない。ならば最後の最後に裕也に伝えたいことがある。たとえ聞こえていなくともかまわなかった。
「裕也……。お前は私よりもずっーと長生きだから私の分までしっかり生きるんだよ……。先生……たぶんもう少しで倒れます。あとのことは……たのみ……ま……」
先生が抱きとめ涙ながらに
「はい、任せてください。蓮見風斗さん。」
蓮見風斗の心臓は蓮見裕也の体内で今も動いている。