2.悪役令嬢は口が悪い。
昼休みの校舎裏、本来ならば購買部で購入したパンを食べながらソシャゲ周回にいそしむところだがそうはいかない。今日は用事があり、訳あってこんな茂みに隠れているのである。
「三千院さん、一目見た時から好きでした!! よかったら付き合ってください」
熱烈な告白を受けているのは長身の黒髪の美少女だ。モデルのようなスタイルの良い体系に、つり目の美しい少女だ。街ですれちがったらほとんどの人は振り返るであろう。そんな彼女は告白を受けて唇を歪めた。
「一目見てね……あなたは私の容姿しか見ていないの? そんな人と付き合うわけがないでしょう。少女漫画でも読んで勉強した方がいいんじゃない?」
黒薔薇こと三千院黒薔薇の冷たい一言に告白した男子生徒の表情が固まる。うわぁ、一目惚れを全否定しやがった。俺だったら立ち直れないよ。本当にこいつは容姿だけは最高なんだけどなぁ……まあ、二次元キャラの方が美しいんだけど。
「でも、これからお互いを知って……」
「悪いけれど私はあなたに欠片も興味ないし、あなたの事を知る気もないの。ごめんなさいね」
更なる追撃に男子生徒は泣きそうな顔をしてトボトボと歩いて去っていった。オーバーキルだよな。これだから三次元の女は容赦がない。二次元の嫁メルトちゃんだったら優しく愛してくれるだろうに。
「黒薔薇よ、断るにももっと言い方あるだろ、あんなん腹いせに襲われたって文句は言えんぞ」
「それを言うなら告白するにも言い方があるでしょう、あんなの私の外見しかみていないじゃない」
「そりゃあ、そーだけどもっと言い方があるだろうよ、そんなんだから『悪役令嬢』なんて呼ばれるんだよ」
「は? 『鈍感クソ野郎』ってクラスの女子に密かに言われているあなたに言われたくはないわね」
黒薔薇がまるで殺人鬼のような目で俺を睨みつけた。おーこわいこわい。目の前のお嬢様はどうやら悪役令嬢とよばれるのがお気に召さないらしい。、ポケ〇ンだったらむっちゃぼうぎょが下がりそう。でも俺はポ〇モンではないし、そもそも三次元の女に嫌われようが好かれようが興味はない。故に通じない……いや、待ってこいつ今なんていった?
「待って、俺そんな風に呼ばれてんの? つけるならもっとかっこいいあだ名がいいんだけど!! お前の『悪役令嬢』と交換してよ。なんかラスボスっぽくてかっこいいじゃん」
「嫌に決まってるでしょ、でもどっちもどっちよね……大体何なのよ、この現代で悪役令嬢って……」
俺の言葉に黒薔薇は溜息をつく。まあ、確かに乙女ゲーの主人公のライバルキャラみたいだよな『悪役令嬢』って……でもつけたやつの気持ちはわからなくはない。こいつは……三千院黒薔薇の家はお金持ちで、彼女も社長令嬢である。そして優れた容姿であり、成績優秀、運動神経も抜群ときたもんだ。入学当初はかなり告白などもされたらしいが、断り方がこれである。いや、今回のはまだマシともいえる。ぶっちゃけ口が悪すぎるのだ。そのうえ人間づきあいもあまり得意とは言えない。俺も部活が同じじゃなければ一緒に行動はしていなかったと思う。ていうか三次元の女子とあんまり話さないしね。
「飲み物はファンタグレープでいいのよね。はい、どうぞ」
「今回は何にもなかったから別にいいのに……」
「そういうわけにはいかないでしょう、労働には対価が必要ですもの」
そう言って、彼女は自販機から買った缶ジュースを俺に渡す。まあ、あれだよな。貸しは作りたくないってことかね。今回は俺が校舎裏にいたのは別に覗き見が趣味だからではない。黒薔薇に告白を断られたやつが逆上しないか心配だったからだ。黒薔薇は口が悪いからね、まあ、杞憂だったみたいだけど。
「それで、大地は放課後部室には来るのかしら。鍵は私が持っているわよ」
「いや、今日は予定があるからまっすぐ家に帰るわ」
「じゃあ、また明日」
そう言って黒薔薇は部室へと向かっていった。俺はここでお昼の続きを楽しむことにする。俺と黒薔薇は同じ部活の部員ではあるが、友達ではない。だから別にお昼を一緒に食べたりはしないのだ。一人の方が気楽ってのもあるしな。用事の終わった俺はアークナイツを起動する。理性と金が足りねぇ……
自己紹介が遅れた俺の名前は中野大地。二次元にしか恋をしないし興奮しないごく普通の高校生だ。そして冒頭へとさかのぼる。
予定を変えて二話目投稿します。三話目は夕方に投稿予定です。
三話目で一旦キリがよくなると思います。よろしくですー。
プロローグ追加いたしました。
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