9.悪役令嬢と友達
気づけば夕暮れである。買い物を終えた俺達は帰路へと向かっていた。今日あったことをしゃべりながら一緒に帰り道を歩く。ふとした瞬間に会話が途切れ、次の話題を探していると黒薔薇が少し緊張した表情で俺を見つめていた。何かいいたいことでもあるのだろうか? 俺は黙って彼女の言葉を待つ。
「私ね、何であなたに噂の誤解を解こうと思ったのかとか色々考えたのよ、誰かに何と思われてもどうでもいい思ってたのに、何故かあなたには誤解されたままでは嫌だったの……なんでかわかるかしら」
「なんでだろうな……」
真剣な表情の彼女に俺は嫌な予感を感じた。え、まさか告白とかされるの? 二次元以外の彼女とか無理なんだが……せっかく仲良くなれたと思ったが仲良くなりすぎてしまったのだろうか?
「その……私と友達になってくれないかしら?」
あぶねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ、先走ってカッコ悪い思いをするところだった。でもこいつは本当に何にもわかっていないんだなと思う。俺はあきれて溜息しかでない。
「何言ってんだ、お前?」
「そうよね……あなたは美琴さんの命令で、私に付き合ってくれただけだもんね……」
「いやいや、うちに遊びに来て、お菓子食って、くだらない話をして、あげくのはてに休日にショッピングまでして……それって他人とはしねーだろ。俺達はもう友達だろ?」
「え……そういうものなの……?」
こいつはどうやら友達がいない時期が多すぎて感覚がバグっているらしい。俺は呆れた顔で彼女に疑問を投げかける。
「むしろお前は俺との関係を何だと思ってたんだよ……お前は、ただの部員でしかないやつと部活でもないのに休日を一緒に過ごすのかよ。俺だって本当に嫌だったら断ってるっての」
黒薔薇は一瞬目を見開いて薔薇が咲くよな満面の笑みを浮かべた。その瞳にさきほどまでの緊張はない。代わりに彼女は意地悪く唇をゆがめて行った。その顔はまさしく悪役そのものである。
「そうね……悪役令嬢とその下僕かしら?」
「おい!! お前な……」
「冗談よ……その……ありがとう。そしてこれからもよろしくね」
嬉しそうに笑う彼女はとても可愛らしく、俺はこれが二次元のキャラだったらなぁと思わずにはいられないほど美しかった。そして俺は先ほどからかわれた反撃を試みる。
「どういたしまして。せっかくだから友達っぽいこと言ってみてよ」
「ヘイブラザー、今日も催眠術の同人誌読みながら、哀しい妄想やってるの?」
「距離感ーー!! お前いきなり何言ってんの? しかも下ネタかよ!! 友達いなさすぎて頭バグってんの?」
「ジョークよ」
「わかりにくいんだよ、あほか!!」
「英語はむずかしかったかしら……ごめんなさいね、冗談って意味よ、わかる?」
「そういう意味じゃねえ!! 馬鹿にしてんのか!? 俺はお前と同じ偏差値の学校受かってるんだからな!!」
実は俺の学校は進学校なのである。俺のつっこみに彼女は笑う。そうして俺達はこれまでとは違う、ちょっと踏み込んだ話をする。例えば好きな食べ物だったり、好きな漫画だったり、それは、これまでのただの部員同士ではない距離であり友達としての会話だ。これまでは下手したら「ああ」とか「そうね」で会話が終わってたしな。
そうして俺達はそれぞれの帰路につく。こうして孤高の悪役令嬢と俺の交流は始まるのであった。そして俺は胸に一つの誓いを立てることにした。あいつはこういったのだ。
---私がどう思われているかなんて私が一番よく知っているわよ、でもね。だからと言って他人に媚びるのは違うと思うのよね……
どこか悲しい顔で彼女はそう言っていた。
---ええ、覚悟の上よ。だって本当の私を偽ってできた友達は、本当の友達と言えるのかしら。偽物何て私はいらないもの
何かを羨む顔で下校する生徒たちをみて言っていた。
媚びて手に入る友達なんていらないと彼女は言っていた。……でも、それは友達がいらないという事ではない。彼女は本当は友達が欲しかったのだろう。誰かと一緒に語りたかったのだろう。だから今日彼女はあんなに楽しそうだったのだ。そして、あいつが勇気をもって友達になってくれと言った言葉に俺は了承したのだ。ならば俺も行動で示さないとな。それが友達だと思うから。
個人的に山場なのですがいかがでしたでしょうか?
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