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デウス・エクス・マキナを殺せ  作者: ほりえる
第2章 ストレングス・イズ・クリスタライズ
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パラダイム・シフト

 見渡す限りの薄ぼんやりとした闇。


 鉱山に足を運ぶのは初めてだが、こんなに薄暗く、ジメジメして不快な場所で働かなければならない奴隷サラマンダーたちに薄く同情の念すら沸き起こる。


 でもまあ仕方がない。勝ったものが正義だ。敗者に自由はない。


 それはどこの国でも同じ、世界の法則だった。


 リスティンキーラ最大の鉱山、シルスリムは『迷宮』の二つ名の通りひどく入り組んでいる。氷水晶は鉱脈同士が離れた場所に出来る性質があり、鉱脈を探して掘った結果、たくさんの枝分かれた坑道ができてしまったらしい。


 更に、サラマンダーを無理やり働かせているせいか、掘り方は乱雑であり、そこかしこに崩落する危険性がある天井があるという。警戒しながら進まなければ、魔法を使う間もなく崩落に巻き込まれて死んでしまう。


 それを不完全ながら解決するのが、今俺が首から下げているペンダントだ。


 常に微量な氷力マナを使用者から吸い取り、それを使って落盤の危険がないか調べてくれるらしい。通常は白、危険な時は嵌め込まれた氷水晶が赤く染まるとか。今はもちろん、水晶は透明な輝きを放っている。


 時折立ち止まってはデウス・エクス・マキナの氷力マナ反応を調べていく。調査はラウラが一番上手くできるので彼女が行うのだが、調査する時は自分たちの反応が混ざらないように、五メラ程離れなければならない。


 そういえば、先程からサラマンダーないしケット・シーを見かけない。


「フェン、鉱夫はどこにいるんだ?」


「ここはシルスリムの中でも浅い階層だ。恐らくここの鉱石は掘り尽くしたのだろう。作業はもっと下で行われているはずだ」


 言われてみれば、シルスリムはかなり古い鉱山だ。とっくにこの辺りの鉱石は掘り尽くしているのだろう。調査をしながら進んでいるせいで、なかなか奥へ進めていない。


 正直うんざりしていた。地下は氷力マナに接触しにくく、落ち着かない。俺が頼れるものは、皮肉にも忌々しいこの魔法だけなのだ。


「ケット・シーもそこで働いているのか?」


「多分、としか言えないな。シルスリムは、クラドヴィーゼンの管轄ではないからな」


「え?でもクリスタリアは……」


「確かにクリスタリアはクラドヴィーゼンの領地だが、シルスリムは実質例外でな。分家のバルトハルトが管理している」


 バルトハルト。聞いたことの無い名前だ。まあ、長く続く家にはたくさんの分家があってもおかしくないので、聞いたことのない名前もあるだろう。


 そこで丁度ラウラから声が掛かった。


「二人とも、終わった」


 そちらに向けて歩き出した瞬間、踏み出した足先にぱらぱらと石が落下した。


「うわっ……」


 足に落ちなくてよかった、とほっとしかけたが、脳裏に閃くものがあって天井をぱっ、と見る。


 天井から石が落ちてくる、という事は。


 ぐら……と鉱山が揺れた。


「……っ!」


 咄嗟に後ろに飛び退ると同時に、なぜか異常なほどの寒さが広がった。耳が痛くなるほどの轟音とともにこちらを飲み込まんと土砂が押し寄せる。


 これは間に合わないのではないか。


 この後襲う激痛を予想して思わず身体を硬直させた俺の前に、突如巨大な氷の壁がせり上がった。


 フェンだ。後ろに下がりながら振り返ると、彼の右手の爪からぽたぽたと血が垂れていた。恐らく無詠唱の過負荷。


「大丈夫か!?」


「大したことは無い。それよりエルラーン、熱源探知サーモグラフィー使えるか」


 少しは驚いているようだが、異様に落ち着き払ったフェンが手から落ちる血を拭った。そこで遅ばせながら、一番重要な事に気づく。


 こちらは魔法のおかげで助かったがラウラは。ラウラはどうなったのか。すぐに腰に刺した剣を僅かに抜いて、意識を集中させる。


 小規模な崩落とはいえ、かなりの土砂と瓦礫が積み重なっており、氷力マナを通しにくい。叫んでも聞こえないだろう。が、なんとか反応を見つけ出せた。


「……ラウラはまだ生きてる!多分致命傷も負ってない」


「地面がこちらに僅かに傾いている。幸運だったな……ペンダントは?」


 そうだ。崩落の危険がある箇所はペンダントが教えてくれるはずだった。目の前までペンダントを持ち上げると、水晶は未だに透明に輝いている。どうなっているのか。首から外してフェンに放る。


「この前から妙な事が多いな」


「でも今回のは洒落にならない。危うく死ぬところだった……全員」


 彼は顔を顰めた。ペンダントをこちらに投げ返す。


「考えられる可能性は二つ。このペンダントが壊れていたか、もしくは……最初からそんなペンダントはなかったかだ」


 それはつまり。


「誰かに嵌められたってことか? でも、そんな事をしてなんの意味が……?」


「心当たりは幾らでもあるが? お前もそうだろう」


 そう言われるとまったく反論できない。氷力マナの使用を前提として作られた道具は滅多に壊れない。貴重な氷水晶を使っているとなれば尚更だ。


 対して、クラドヴィーゼンの一人息子であるフェン、つい先日もエルドラド家に殺されそうになった俺、その知識の深さから『賢者』という二つ名を持つラウラ。フェンの言う通り、心当たりがありすぎる。


「……決めつけるのは早計じゃないか?」


「勿論ただ魔道具が壊れていた、という可能性もある。しかしこの状況では常に最悪を想像して動くべきだ」


 確かにそうだ。ラウラとも分断されてしまったし、早く合流しなければならない。彼女の戦闘能力は低めなのだ。


「それに……」


「それに?」


「すぐに証拠は手に入りそうだ」


 枝分かれした坑道から近づいてくる、恐ろしい数の足音が反響した。





















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