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 五行の構え、中段、上段、下段、八相、脇構えから木刀を、一つずつ丁寧に振って行く。

 傍らで見てくれている師範は、姿勢、心構え、剣筋に乱れがないかを確認し、少しでも狂いがあればそれを厳しく指摘してくれる。

 一通りの動きを確認した後、下がって良しとの言葉を受けて、俺は道場の隅まで下がって大きく息を吐いた。

 体力的には兎も角、精神的にはモンスターと戦う以上に消耗した気分だ。


 スキルで高めた身体能力任せに剣を振り続けていると、どうしても剣筋に乱れが出て来てしまう。

 その修正の為に、俺はこうして剣術の道場に、七日から十日に一度位のペースで通ってる。


「よっ、今回は大分と厳しく見られてたじゃない。まだ傷が痛む?」

 親し気に声を掛けて来たのは、波浪・累(はろう・るい)

 C級冒険者パーティで前衛を務める若い女剣士で、前回のオークキング討伐で俺が負った傷を癒してくれたのは、彼女のパーティメンバーだ。

 冒険者の中には、刀を得物として選ぶ者が結構多い。


 それは勿論、刀と言う武器がこの国で昔から使われてきて、扱う技法が数多く残っているからと言うのもあるけれど、鋭い刃で切り裂くと言う攻撃がモンスターに対して有用だからでもある。

 基本的に人間よりタフなモンスターを、打撃で仕留めるのは実に大変だ。

 けれども鋭い刃で急所を切り裂けば、幾らタフなモンスターであっても仕留め得る。

 そして刀は、数多く種類のある武器の中でも、有数に鋭さを誇る代物だから。


 故に刀は扱いの難しい武器でもあるけれど、冒険者からは一定の支持を受けて居た。


「あぁ、いや、傷は全く問題ないんだ。高木さんには本当に世話になった。改めて感謝を伝えておいてくれ」

 俺は累にそう返す。

 高木・康義(たかぎ・やすよし)は回復魔法の使い手で、穏やかな性格の男性だ。

 冒険者をしてるのが不思議な位に温厚な人物だが、怪我を治してくれる際に行われる心配混じりの説教には、些か心が削られる。


「あはは、康義は口うるさい事以外は良い奴だからね。OKOK伝えとく。それよりも、体調に問題がないなら打ち合わない? 寸止めで良いわよ」

 累からの御誘いに、俺は頷き木刀を握る。

 パッシヴで効果が出るスキルは仕方ないとして、アクティブスキルは使わない、唯の人間に近しい条件で競い合うなら、累と俺の実力は丁度良い具合に釣り合っていた。

 技量は少しだけ累が上で、パッシヴの身体強化・壱の強化倍率は俺が高いから。



 ここは浸食領域と人の生存圏の境目近くに在る、防衛都市の一つ。

 人類が浸食領域の拡張を何とか食い止めた防衛線を利用し、発展させて都市化させた場所である。


 都市に帰還して治療を済ませた俺は、臨時のパーティを組んだ紅・真緒、渡瀬・六太の二人と成果の山分けを行う。

 残念ながら真緒の望んでいた魔法威力を強化する魔導具はなかったので、得た成果の多くはそのままオークションに流す。

 目玉となったのは、オークキングが背負っていた両手持ちの大剣で、何らかの特殊な効果を秘めた品との事だったので、その解析が終わってからオークションにかける事になる。

 まぁ何と言うか、その剣が俺に向けられる前に倒せて本当に良かった。


 危険を冒した分の見返りは非常に大きく、俺の治療費や六太のトラップで掛かった経費如きでは端数にもならない、一財産になるだろう。

 但し得た物の全てをオークションに流した訳ではなく、オークキングの肉は俺達三人で等分したし、六太はトラップの材料を入れる為の予備のストレージを欲していたので、それを持って行った。

 真緒は俺が怪我した様子を見て怖くなったのか治癒のポーションを欲しがったし、バランスを取る為には俺も何かを取り分とする必要があった。


 その結果手に入れたのが、スキル結晶。

 これは実にゲーム的なのだが、握って砕くとスキルを得る事が出来る非常に貴重なアイテムだ。

 尤も何のスキルを得るかは、そのスキル結晶によってあらかじめ定められている。

 要するに真緒も六太も欲しないスキルが、このスキル結晶には詰まっていた。


 そのスキルとは『精神感応』。

 そう、ギルドのナビゲーター達が使うスキルだ。

 時折パーティリーダーがこれを取得し、仲間達との連携を高める場合もあるのだけれど、真緒も六太も俺も、固定の仲間を持たない半ばソロの冒険者だ。

 あぁ、いや、六太は少し違うかも知れないが、どの道この精神感応スキルが不要である事に変わりはない。


 スキルは取得した数が増える程に、次にスキルを取得出来る可能性が減り、人によっては上限に達して新たなスキルを発現しなくなると言われてる。

 だから当然、俺も精神感応なんてスキルを覚える心算はさらさらなかった。

 現状俺が取得しているスキルは、引力、身体強化・壱、身体強化・弐に加え、パッシヴスキルである姿勢制御と気配察知、最後にアクティブスキルの集中力。

 次は出来る事なら自己再生だの体力回復と言った、生存性を高めるスキルを欲しているから、やっぱり精神感応は不要だろう。


 このスキル結晶を手早く金に換えるなら、ギルドに売るのが一番だ。 

 ナビゲーターは常に不足しているし、精神感応のスキルに関して一番詳しく、また使用者を育てるノウハウや機材などの支援環境を持つのもギルドである。

 故にそれが一番だと頭ではわかっているのだが、どうにも惜しく感じてしまう。

 何せオークションが終われば大金が手に入るのだから、慌ててスキル結晶を換金する必要性は全くない。


 どこかにギルドに就職したがってる者がいて、その人が俺に恩を感じてナビゲーターとして便宜を図ってくれるなら、このスキル結晶を直接提供したって構わない位だ。

 ……どこかにそんな人が、都合良く転がってたりしないだろうか。

 多分こんな事を考えて、精神感応のスキル結晶を売らずに取り置いてる奴は、俺以外にも居るだろう。

 今度情報屋に会ったなら、このスキル結晶の使い道に関して、相談してみても良いかも知れない。





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