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 灰色の布を被りながら、雑居ビルの屋上で双眼鏡を覗く。

 すると遥か向こうの大きな建物、かつては駅横の百貨店であっただろう場所を、オーク達が周辺の廃墟より引っぺがした廃材でせっせと補修しているのが見える。

 単なる巣作りと言うには、規模の大き過ぎるその行動。


「城の心算かしらねー?」

 軽い口調で俺と同じ考えを言葉にしたのは、B級冒険者の紅・真緒(くれない・まお)

 仮にそうだとするならば、その城に住まうのは彼等の王たる存在だろう。

 二体のオークジェネラルが率いる二つの軍勢は、まるでこの周辺の勢力圏を確保するかの様に、周辺のモンスターを蹴散らしていた。

 モンスター同士の争いは決して珍しい事じゃないけれど、今のオーク達は些か戦意が過剰に見える。

 王の存在とはそれ程にオークと言う種を滾らせるのだろうか?


 ここは嘗ては高槻と呼ばれたらしい、今ではC級浸食領域となった場所。

 大きな駅と繁華街、広い住宅地に加え、山地も存在する複雑で、正面から攻め落とすには厄介な地形だ。

 上位種であるハイオークは兎も角、並のオークでは周辺に出現するC級モンスターに勝つ事は難しい筈なのに、数の力と戦意の高さで相手を圧倒している。


「有り難い話じゃねえか。真正面から攻めるなら兎も角、暗殺するなら軍勢の中央で守られた王様よりも、城に籠った王様の方が殺し易いだろ?」

 クツクツと笑いながら言ったのは、同じくB級冒険者の渡瀬・六太(わたせ・ろくた)

 まぁその城に潜り込む役割を果たすのが六太でなく俺である事さえ気にしなければ、その意見は尤もだ。

 この二人が今回のオークキング討伐に誘った、俺の知人の冒険者である。

 真緒は俺より二つ、三つ上の、若手の実力者として知られる女で、六太は三十代前半のベテランの男。


 二人とも、俺と同じでソロ、或いは臨時パーティを組んでダンジョンに挑む事を繰り返している癖の強い冒険者だ。

 何でも真緒は、以前は所属していたパーティがあったそうだが、そこのメンバーと恋仲で、しかし冒険者としての成長速度が互いに違い過ぎ、気まずくなって破局した経験から固定のパーティを組む事を止めたらしい。

 六太は妻が居て、また子沢山である為、これ以上先に進む心算はないからと、C級~B級のパーティに臨時での参加を繰り返している。

 確かに固定のパーティを組んでいると、仲間達と先に進むのが楽しくて仕方なくなる、どんどんと先に挑みたくなる物だから、六太がそうする気持ちも理解は出来た。


 さて、そんな癖の強い二人と組むからこそ、はっきりと確認しておかなければいけない事が、ある。

「城に切り込むのは俺だから、危険度を考えて報酬は4:3:3だ。後、オークキングの味は少し気になるから、肉は全部は売らない」

 そう、事後の報酬の話だ。

 捕らぬ狸の皮算用と言う言葉はあるが、捕った後は誰しも欲が出るから、後で決める方が絶対に揉める。

 真緒と六太の二人は有能で、つまらない事で関係を壊したくないからこそ、報酬に関しては予め確りと納得しておく事が重要だった。


「わかってるわよー。でも杖の類が出たらアタシに優先権を頂戴よ。今回はちょっと期待してるんだから」

 頷き、そう言ったのは真緒。

 この杖と言うのは、使用者の魔法を強化する魔導具だ。

 彼女は固有スキルこそ所持していないが、時にそれ等を凌駕するスキル、魔法の使い手だった。

 他の冒険者のスキルを全て知る訳ではないが、少なくとも火魔法と風魔法を所持している事は知っている。


 因みに優先権と言うのは、彼女の望む魔導具が出ればくれって話じゃなく、評価額を彼女が出すからそれで譲ってくれと言う話だ。

 性能の良い魔導具は、オークションにかけると場合によっては値が跳ね上がるし、更に確実に手に入れられる訳ではないから、それより先に売って欲しいと言っていた。

 勿論俺に異存はない。


「あー、経費は別にしてくれよ? お前さん等と違って俺の仕掛けは材料がなきゃ出来ないんだよ」

 六太も口を挟むが、彼の言い分も尤もだ。

 彼はトラップマスター。

 罠を発見し、解除するだけでなく、仕掛ける方も出来る。

 今回は六太のトラップもオークキング討伐の大事な要素だから、経費を惜しんで十分な効果が発揮されなければ困るのは俺だ。


 俺が頷くと、六太は安堵の息を吐き、

「なら文句はないぜ。ただし死ぬなよ。お前さんがオークキングを持ち帰らなきゃ、俺等は無駄足を踏んだだけで終わっちまうからな。あぁ、後、オークキングの肉は俺にも少し分けてくれ。カミさんとガキ共に少しだけでも食わしてやりてぇ」

 そう言った。

 金勘定には厳しいが、冒険者としては情に厚く、また家族を大事にする男である六太。

 ……あまり子供に美味過ぎる物を喰わせると、俺の様な冒険者になってしまうかも知れないと思うのだけれど、そこは他人が口を挟む事でもないだろう。



 襲撃、暗殺は、日が落ちてから決行された。

 作業をしていたオークの目を盗んで仕掛けられた六太のトラップ、複数の発火装置が火の手を上げて、彼等の城に燃え移って行く。

 更に突然風が吹き始め、それによって運ばれた酸素が火の手を更に拡大させ、オークの城はあっと言う間に業火に包まれる。

 まぁ当然ながら真緒の魔法の仕業なんだが。


 火魔法と風魔法の二つの魔法スキルを所持する彼女は、炎を燃え広がらせるのに丁度良い風を操れた。

 また六太でなければオークに気付かれずに発火装置を幾つも仕掛けるのは難しかっただろう。


 さて、お膳立ては仲間達が整えてくれた。

 後は、そう、俺が上空から突っ込み、混乱するオーク達の隙を突いてキングの首を掻き切るのみ。





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