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21XX、ダンジョンと冒険者  作者: らる鳥


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 四神のダンジョンから広がった浸食領域、その最奥となるA級浸食領域での活動には、守るべきセオリーが存在した。

 即ち、A級浸食領域内を長距離移動する際は、旧京都市営地下鉄と京阪鴨東線、及び阪急京都線の西院から河原町間を走る、地下路線内を通る事。

 これ等の路線は旧京都市を縦横に走っており、その利用によりA級浸食領域内を比較的安全に移動出来る。

 ……と言うよりも、下手に地上を長距離移動すると四神に捕捉される確率が飛躍的に高まる為、地下鉄の路線内や地下街、地下道を通って移動せざる得ないのだ。

 けれども決して広くはないこの地下の通り道にも、そこに現れ守護するモンスターが存在した。



「シャッ!」

 鋭い気迫と共に振るわれる薙刀を、俺は大きく後ろに跳び退って回避する。

 まともに打ち合うには、相手の技量が高過ぎた。

 薙刀を握るのは、青黒い肌に尖った耳を持つ人型モンスター、夜叉。


「グルルルァッ!」

 そしてその後ろから、咆哮と共にダララララッっと短機関銃が火を噴く。

 こちらに向かって飛来する無数の弾丸、D級やC級の人型モンスターが放つ銃弾ならば、俺が纏うロングコートを貫く事は出来ないし、衝撃だって吸収して通さない。

 しかし今放たれた弾丸には、……否、先程振るわれた薙刀もそうだったが、通常の金属以外に数%の特殊金属、ミスリルが混じった合金で出来ており、俺のロングコートを貫き得る威力を秘めている。

 故に、俺はこちらに向かって飛来する弾丸の全てに対して、隣の壁面と引き合う力、引力を発生させて軌道を逸らせた。


 俺に向かって短機関銃を撃ったのは、先程の夜叉とは違い、赤黒い肌に額の角を持つ人型モンスター、羅刹。

 そう、この夜叉と羅刹こそが、地下鉄の路線内や地下街、または廃墟と化した建物内などの閉鎖空間を守護するモンスターだ。



 夜叉と羅刹は、姿形は人間に酷似しており、サイズもほぼ人間に等しい。

 武官束帯を思わせる古めかしい衣装を身に纏い、手には武器を持っている。

 この二種類のモンスターは、他のモンスターの様に極端にタフだったり、防御力が高い訳ではなかった。

 力は強いし動きも早いが、A級浸食領域まで来れる冒険者なら同等以上の身体能力は当たり前に持っているだろう。


 ではこの夜叉と羅刹が、A級モンスターとは名ばかりの弱敵かと言えば、決してそんな事はない。

 寧ろこの二種類のモンスターは、A級浸食領域の洗礼とすら言われる脅威だ。

 夜叉の方が少し動きが早く、羅刹の方が少し力が強いと言う違いはあるが、この二種の強みは共通している。

 この二種類のモンスターがA級たる所以は、その知恵と技量にあった。


 夜叉も羅刹も、まるで人間の部隊と同じ様に隊伍を組み、互いに連携する。

 それは群れでしかないオークやその他の人型モンスターとは次元が違う位に纏まりのある連携で、更に一体一体が達人と呼んでも過言でないレベルの武技を振るう。

 武装の種類も豊富で、、刀、直剣、薙刀、十字槍、金砕棒、弓、のみならず、ナイフ、拳銃、ショットガン、短機関銃等々。

 時折素手の個体が居るかと思えば、柔術やCQCの心得まであったりもするのだ。


 そんな実力の持ち主が、地下の路線内と言う狭い空間で、高度な連携を取りながら襲って来る。

 その恐ろしさは、語るまでもないだろう。

 B級までを力技で突破して来た冒険者の大半は、夜叉と羅刹の連携と、圧倒的な技量の前に鏖殺される。

 火力だけならA級モンスターにも通用する魔法使い、紅・真緒も、この夜叉と羅刹を攻略出来ずに、ソロでのA級昇格を諦めたそうだ。

 何せこの二種類のモンスターを攻略せねば地下を移動する事が出来ず、地上を移動したならばボスである四神に見付かる可能性が高い。


 夜叉と羅刹の部隊を相手にするならば、冒険者側も高い技量と仲間との連携、更に優れた装備が必要となると言われてた。

 ……尤も、我ながら流石に少しズルいと思わなくもないのだけれど、俺の引力スキルは、この手の技量や連携が売りの連中には、天敵と言っても良い程の威力を発揮する。



 短機関銃は効果がないと考えたのか、羅刹はそれを捨てて素手で、薙刀を持つ夜叉とは一呼吸だけタイミングをずらして俺に迫る。

 遠心力を利用した、薙刀の鋭い斬り払い。

 夜叉が繰り出すこれを回避しても、羅刹が飛び掛かって俺を捕まえ、次の薙刀の一撃が羅刹と諸共に俺を切るだろう。

 けれどもそれは、俺が素直にこの攻撃を回避したらの話だ。


 発動した引力スキルは夜叉の薙刀と羅刹を強烈な力で引き寄せ合い、その結果、ずぶりと羅刹の身体に薙刀がめり込む。

 自分の武器が仲間を貫いた事が余程に意外だったのだろうか、夜叉の顔は驚愕に引き攣り、その表情を浮かべたままに俺の刀に首を刎ねられた。


 俺は刀を振って血を払い、布で拭ってから鞘に納め、倒れた夜叉と羅刹の武器を回収してストレージに突っ込む。

 夜叉と羅刹の身体には、素材となる何かはないし、ここまで人に近い姿だと流石に肉も食用に適さない。

 だが彼等の持っていた武器はミスリルが含まれた合金で出来ている為、鋳溶かせばその中からミスリルだけを抽出する事も可能だった。

 俺の刀も、そうやって夜叉と羅刹の落とした武器から抽出したミスリルを集めて鍛えられた物だ。


 因みに夜叉や羅刹が落とす銃器も、やはり人間には扱えない。

 恐らく先程羅刹が短機関銃を撃った時の咆哮は詠唱で、連続した爆発を銃の中で起こして弾丸を飛ばしていたのだろうと思う。

 まぁ理屈は兎も角、俺にとっては然程怖い攻撃ではなかった。


 今回、俺は旧奈良方面からA級浸食領域へと侵入し、朽ちた地下鉄の駅から路線を通って北上している。

 もう地下鉄が通らない路線、光の差し込まぬ地下空洞は真っ暗闇で、俺の持つ高輝度のポータブルランタンのみが光源だ。

 当然ながら、良く目立つ。

 この辺りの路線は、暫く他の冒険者達も通らなかったらしく、敵の気配は無数にあった。

 先程戦った二体は、多分威力偵察だろう。

 その結果、こちらが多少の戦力は物ともせずに屠る事は夜叉と羅刹達も理解しただろうから、次に来るのは大部隊による強襲。

 つまり次こそが本番である。


 取り敢えず今日一日は、地下鉄路線内の夜叉と羅刹を排除し続け、移動経路を確保しよう。

 夜はどこかの駅と繋がった廃ビル辺りで警戒しながら日の出を待って、明日からはまだ未討伐のA級モンスターを、一種類ずつ慎重に探し出して狩る予定だ。

 サラマンダーにコカトリス、カトブレパスにケルベロス等々。

 まだまだ未討伐、かつ未食のモンスターはA級浸食領域には数多い。


 しかし明日に心を馳せる前に、夜叉と羅刹を片付けようか。

 暗闇の向こうから、幾本もの矢が飛来する。

 彼等はモンスターであると同時に、一流の戦士であり武人だ。

 その武技には剣士として敬意すら感じてしまうけれど、それでも俺は彼等を蹂躙するだろう。

 何故なら俺は剣士である以前に冒険者だから。


 必中の矢は、けれども俺に届く前に地に落ちた。

 俺のA級浸食領域での活動は、まだまだ始まったばかりである。



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