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詳しくは忘れたが21世紀のどこかで、世界中でダンジョンが見つかった。
どこの国もそれを秘匿しようとしたのに、本当に一斉に見つかったらしいから、多分ダンジョンはその時に生まれた、或いは姿を現したのだろう。
調査の行われたダンジョンからは、様々な物が発見される。
金や宝石等の財宝のみならず、未知の鉱石、人体に非常に有用な効果を持つ植物や、何よりも魔石が見つかった。
魔石には接触したエネルギーを大幅に増幅する特性があり、それの発見により人類が直面していた大きな問題の一つ、エネルギー問題がほぼ解決したと言って良い。
例えばほんの少しの電気を魔石に流すだけで、何十、何百倍に、否、魔石の質によっては何千、何万、それ以上に増幅されるのだ。
仮に魔石を利用した兵器が完成していたら、地球は滅亡して居たかも知れない。
ダンジョン内にはモンスターが出たけれど、近代兵器で武装した人類はそれを容易く駆除した。
魔狼の群れを銃撃で蜂の巣にし、堅牢なゴーレムをロケットランチャーで吹き飛ばし、人類はダンジョンから資源を搾取し続ける。
当たり前の話だが、こんな重要な場所が民間に開放される筈もなく、ダンジョンには各国が自国の軍を送り込んで居たそうだ。
軍を持たない事になっている日本ですら、調査と言う名目で自衛隊をダンジョンに派遣していたのだから。
更にダンジョン内で一定以上の経験を得た者は、不思議な力に目覚める事も判明する。
後にスキルと呼ばれるそれは、当たり前だが危険視され、その発現者は国から厳重な管理を受けた。
だがその時はまだ、人類は知らなかったのだ。
ダンジョンの本当の恐ろしさを、またダンジョンが、人間の使う兵器を少しずつ学習していた事を。
その日は唐突にやって来る。
本来外側からダンジョンに侵入する者を防ぐ為の検問が、内側から破られたのだ。
襲撃者はダンジョンから溢れ出たモンスター達。
しかもその多くは、これまで人類がモンスターに対して使用して来たのと同じ様な、銃器を始めとする近代兵器が握られていた。
そしてその日、人類とダンジョンの戦争が開始される。
検問を突破したモンスターの群れは近くの人里を襲い、住人を虐殺して行く。
すぐさま軍はそれまでダンジョン内では使用出来なかった兵器、戦車等を用いて鎮圧にあたるが、戦車を用いれば背中に対戦車砲を備えたアーマードタートルが、対戦車ヘリを繰り出せばその火力を弾き返す硬い装甲を纏ったワイヴァーンがダンジョンより出現し、戦列に加わってしまう。
その事に業を煮やした国々は、核兵器を用いてダンジョンへの攻撃を図り、それが破滅の始まりだった。
ダンジョンは、人類が用いた核兵器すらも学習してしまったのだ。
日本が崩壊の危機に晒されながらも何とか踏みとどまれたのは、作製技術は恐らくあったのだろうが、使用出来る核兵器の実物を所持していなかった事と、それ等を使った国々と地続きでなかったから。
他の国々がどうなっているのかは、今となっては知る由もない。
海の向こうは霧に包まれ、その外に踏み出して帰って来た者は居なかった。
勿論日本のダンジョンもモンスターを溢れさせたのだが、兵器の使用には煩雑な手続きが必要で、それに手間取ってる間にダンジョンの学習機能に気付けたのだ。
その結果、多くの犠牲は出た物の、決定的な崩壊は迎えずに何とかダンジョンを抑え込む事に成功する。
但しダンジョンの周囲数十キロは、ダンジョン内部と同質の特性を持った空間と化してしまい、やがて浸食領域と呼ばれる様になって行く。
何とか崩壊を免れた日本だったが、しかし状況は最悪だった。
資源が少なく、食料自給率が低い国だった日本は、諸外国からの輸入がなければ国民の生活は成り立たない。
多くの犠牲者が出たとは言え、生き残った人々の数は多く、食料の備蓄もいずれは尽きてしまうだろう。
魔石の御蔭でエネルギーには余裕があるが、その他の資源も同様にやがては尽きる。
故に日本は、やはりダンジョンから資源を得るより他に道はなかったのだ。
けれども当たり前だが、これ以上ダンジョンに近代兵器を学習させる訳には決して行かない。
だからこそ、生き残った人々の中から冒険者は現れた。
ダンジョンから食料と資源を得て、多くの人を生かす為に。
近代兵器を使えぬ以上、使えるのは剣や槍、弓や盾、鎧と言った、いわゆる中世と言われた時期に用いられていた武具類。
それ等は以前からダンジョン内でも時折発見されていた為、学習される危険性はないと考えられたから。
冒険者達はそんな旧時代の武具と、更にダンジョンに潜って目覚めた力、スキルを武器に戦いに身を投じた。
やがて強力な武力を持つ個人である冒険者を管理、支援する為の組織、冒険者管理庁、通称ギルドが発足して、それから数十年、ダンジョンとの戦いは今でもずっと続いてる。