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21XX、ダンジョンと冒険者  作者: らる鳥


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 オークキングのジャーキーを始めとしたエネルギー摂取効率の良い携帯食料、威力が充分だったので更に二本追加発注した投げ槍、買い込んだポーション類、補修が終わった防具の予備等をストレージに詰め込んで、俺は拠点を出る。

 向かう先は守口のギルド支部。

 今日から最大で五日間は、ギルドからの任務に応じられないとの届け出をする必要がある。

 何故なら俺は、遂にA級浸食領域での長時間の活動に挑む心算になったから。


 俺がそれを決めたのは、前回の琵琶湖防衛戦の後、体力回復と言うスキルが発現した事に気付いた為だった。

 このスキルは、常に微量の体力が回復し続けるパッシヴスキルだ。

 恐らくレイクモンスターの討伐でスタミナが切れた際に、必要に迫られて発現したのだろう。


 別に戦闘力が向上する訳でもないし、傷が勝手に塞がる訳でもない。

 けれども引力と言うアクティブスキルを多用する俺にとって、体力の消耗は深刻な問題だった。

 ましてや俺は基本的にソロなので、休憩中はとても危険な時間となる。

 戦闘で激しく消耗した際や、浸食領域内で夜を過ごさねばならぬ時、俺は建物の影等に隠れてじっと待つ。

 目を閉じたとしても決して眠らず、気配察知に集中しながら時間の経過を待つのだ。

 当然ながら、そんな休憩の仕方では碌に体力は回復しない。

 しかしこの体力回復のスキルがあれば、そんな風に動かずじっとしているだけでも、充分な回復が望めるだろう。


 勿論発現したばかりのスキルの効果は薄いが、それでもあるとないでは大違いである。

 それにスキルの個数が七つと言うのは、その七つのスキルが充分に育てば、A級冒険者として活動出来るに足るとされる、一つの基準にもなっていたから。

 俺は本格的にA級浸食領域の攻略を心に決めた。


 ……のだけれど、届け出を提出する為にギルド支部にやって来た俺を待っていたのは、

「『鴉』頼む! 宗郷さんを、高木さんを、累さんを、助けてくれ!!!」

 泥だらけの姿で縋り付いて来る、水島・智也だった。



 水島・智也は、俺が通う道場の門下生であるC級冒険者、波浪・累のパーティメンバーの一人だ。

 彼等のパーティはB級昇格の為に、B級浸食領域での活動を行っていた筈だが、どうやらそこで事故ったらしい。

「長岡京でさ、最初は良かったんだ。アンタに教えて貰った通りにモンスターも処理できてた。でもキャノンタートルを攻略中にトロールに手間取って、……アーマードワイヴァーンまで出て来やがったんだ」

 呻くように言う智也。

 成る程、確かにそれは相当に運が悪い。

 B級浸食領域では、考える限り最悪の組み合わせかも知れない。


 しかしそもそも、まだB級にも上がっていないのに、B級浸食領域で最も敵が多く出現する長岡京に踏み込んだ事自体が大きな間違いなのだが。

 俺の知人である累は兎も角、年長者である宗郷・藤次と高木・康義は、そんな無謀は冒さない印象があるのだけれど……。

「累さん、……と俺が行きたがったんだ。モンスターの多い長岡京で活動してたら早く実力を認められるって。それに比較的近いから。でも俺がアーマードワイヴァーンを落とし切れなくて、しっちゃかめっちゃかになっちまった」

 あぁ、そうか。

 恐らくその累を庇う様な言い方なら、彼女が強硬に主張したのだろう。

 また周辺のB級浸食領域での活動が思ったよりも上手く行っていたから、他のメンバーもそれに引き摺られたと。


 キャノンタートルにアーマードワイヴァーン。

 どちらも即座に始末を付けねば、俺も手間取るモンスターだ。

 その双方がしっかり戦闘態勢を整えてしまえば、……言っては悪いが所詮C級の冒険者である彼等に勝ち目はなかった。


「宗郷さんが殿に残るから皆に逃げろって言って、高木さんが俺達が逃げるまで耐えるには自分が必要だろうって、……でも逃げてる途中、淀川に置いたボートに辿り着く前に、ハイオークの群れが出て、累さんが俺に逃げろって言って突っ込んだんだ」

 淀川をボートで上り、C級浸食領域に侵入、そこから長岡京へ徒歩で移動していたと。

 そして逃げる際に、そのC級浸食領域でハイオークの群れに捕捉されたと言う訳か。


 いやはや、呆れて物も言えない。

 単独なら兎も角、仮にもB級昇格に挑戦しようと言う冒険者が、前衛の剣士、後衛の魔術師と揃っていながら、ハイオークの群れを相手に無事に切り抜けられないなんて。

 否、本当は無事に切り抜けられる実力があったのだとしても、正確に判断が下せないのなら、そんな実力はないも同然だ。

 累と智也は、年長者の二人にあまりに依存し過ぎていたのだろう。


 こんな話を聞いて、助けに行こうと思う冒険者は、まず居ない。

 そもそも上の領域に挑む場合は何があっても、自己責任であると言うのが常識だ。

 それに言っては悪いが、智也がボートで守口に戻って来る間にもそれなりに時間が経っている。

 助けに行くなら更に時間が経過するだから、藤次も、康義も、累も、生きてる可能性なんて殆どなかった。

 自らのミスで死に掛けた愚者を助ける為に、好んで危険を冒そうなんて冒険者は、殆ど居ないだろう。


 但し、俺が行く場合のみは、他の連中が救助に行くよりも、遥かに早い速度で現場に辿り着く。

 引力スキルによる飛行移動は、ボートの比じゃない。

 それにまぁ、俺は累の知人だし、康義の回復魔法には散々世話になり、その説教も嫌いじゃなかったから。


「わかった、助けに行こう。でも智也、選ぶのはお前だ。宗郷さんと高木さんは、ほぼ絶望的だ。既に死んでる可能性が高い。累は、ハイオークは捕らえた獲物をじわじわ嬲り殺す事が多いから、まだ生命力次第では僅かに生きてる可能性はある。勿論死んでる可能性の方が高い」

 年長者の二人がキャノンタートルにアーマードワイヴァーンから逃げ延びて助けを待ってる可能性は殆どない。

 盾役と回復の二人だけで逃げ延びられるなら、そもそも最初から全員で逃げられる。

 累の場合は戦闘中に殺されず、捕獲されてしまった場合のみ、まだ生きてる可能性があった。

 尤もその場合は死んだ方がマシかも知れない地獄を体験している筈だが。


 俺は智也に問う。

「どちらか片方にしか行けない。例えば累を助けた後、残る二人を探しに長岡京へなんてのは、俺に死ねと言ってるも同然だ。勿論累も死ぬ。わかるな? なら選べ。どっちに俺は行けば良い?」

 別に俺が決めても良いのだけれど、彼等はパーティだったのだから、その決断は最後までパーティのメンバーがすべきだと思ったから。




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