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 赤塚・祥吾と別れた俺は、ギルド支部の地下にある保管庫に向かう。

 彼は俺の発注した武器に興味がある様子だったが、九州での活動報告をギルドに求められて職員に案内されて行った。

 あんな風に見えても祥吾はA級冒険者、それも関西の切り札とすら噂される火力の持ち主だから、何かと忙しいのだ。


 地下に降りた俺が保管庫の受付に用件を話すと、複数の職員が保管庫の中からえっちらおっちらと台車でそれを運び出して来る。


 恐らく、それは一目見ただけではあまり武器には見えないだろう。

 近い物は、昔に競技として行われていた、投擲用の槍。

 何でもその競技が投げた槍の飛距離を競ったらしいが、槍を投げるなら大事なのは命中率だと俺は思う。

 まぁさて置き、この槍の見た目は先端の尖った長い棒だ。

 長さだって二メートルを越える。

 そんな代物が、俺の前には三本並ぶ。


「黒鋼の投げ槍です。形状は発注通りの筈ですが、手に取ってご確認ください」

 保管庫の受付の言葉に、俺は頷く。


 そう、これは黒鋼製の投げ槍。

 投げる事にしか使わないから、形状はシンプルな方が良い。

 黒鋼とは、九州のダンジョン『火ノ国』の浸食領域で得られる、元々はこの世界に存在しなかった金属の一種だ。

 その特性は、硬く丈夫で重く、また金属融点が物凄く高い。

 つまり非常に加工の難しい金属である。


 ダンジョン産の金属はどれも高値で取引されるが、今回は金属の買値以上に、加工費の方が遥かに高く付いてしまった。

 一本手に取り持ってみるが、やはり重い。

 三十キログラム以上はあるだろうか?

 この重さなら、魔物に対しても充分な貫通力を持つ筈だ。

 何より、黒鋼製の投げ槍なら、サラマンダーにも融かされる事なく、その身体に届く。


 ただ幾ら常人離れした膂力を発揮する冒険者とは言え、この重量の槍をまともに投擲出来る者は少ないだろう。

 俺だってこの槍を投げる時は、引力スキルで敵目掛けて引き寄せる心算だから、普通に投げて敵に当てる事が出来るかと問われれば否である。


 まあでも別にそれで良いのだ。

 この槍は、俺がサラマンダーを攻略する為に必要な槍だから、俺が扱えればそれで良い。

 他の誰かがサラマンダーを攻略する時は、また別の方法を自分で考えれば良いだけの話だった。 


 尤も、仮に真似を出来るなら、その時は別に真似して貰っても構わないし、更に知り合いが相手ならば一本位は投げ槍を貸したって良い。

 一つでも多くのサラマンダーの攻略法が広まれば、A級浸食領域の危険度も少しは下がるし、それはとても良い事だろう。

 例えば、元々はあのアーマードワイヴァーンの攻略法だって、誰かの発見したやり方が広まった物だ。

 馴れ合いも過ぎれば冒険者の質の低下にも繋がるだろうが、誰だって同じ場所で戦う同類には、無駄に死んで欲しくはない。

 故に冒険者達は緩やかに、己の得た情報のやり取りを続けてる。


「ご確認いただけましたか? では受領書にサインをお願いします。その投げ槍の使用を試せる施設は当ギルド支部には御座いません。くれぐれも訓練所での使用はご遠慮ください」

 俺は受付の物言いに苦笑いを浮かべ、彼女の差し出す書類にサインをしてから、三本の投げ槍をストレージに仕舞った。



 防衛都市守口からは、淀川を越えれば浸食領域は目と鼻の先だ。

 ここから西、旧吹田の半ば辺りまでがE級浸食領域で、そちらにも一つ防衛都市が存在する。

 逆方向、淀川沿いに北東に向かえば、旧京都中央部に近付くにつれて浸食領域のランクは上昇し、以前にオークキングを討伐したC級浸食領域、旧高槻もその際に通過し、やがては長岡京と呼ばれた場所に辿り着く。


 長岡京は、ごく短い期間だが平城京から遷都され、日本の中心だった事がある土地だ。

 それと関係があるのかどうかは不明だが、旧京都中央部をぐるりと取り囲む形で展開されるB級浸食領域の中でも、旧長岡京は特にモンスターの出現数が多い。

 そんな場所まで引力スキルで空を飛んで辿り着いた俺は、オークキングの肉から作った特別製のジャーキーを齧って体力補給をしながら、朽ちたスーパーらしき建物の屋上に伏せていた。


 俺は四神のダンジョンに属するB級浸食領域に出現するモンスターは、オークキングの様な特殊個体を除いて殆ど全て攻略済みだが、中には未だに手間取る厄介な相手も居る。

 例えばアーマードワイヴァーンと同じく、昔に行われた人類の軍との戦いで、戦車を模して生まれたんだろうとされるキャノンタートルもその一匹だ。

 キャノンタートルが背負う重装甲の甲羅には戦車砲に酷似した砲塔がくっ付いており、そこから砲弾を撃ち出して攻撃を行う。

 射撃の準備動作としてキャノンタートルが大きく息を吸い込む事から、砲弾は空気圧で発射してると予測されるが、威力は本物にも然程引けを取らない。

 但し射撃管制装置なんて物は流石にモンスターには搭載されないので、キャノンタートルが砲弾を放つのは視認出来た目標に対してのみである。


 冒険者としての視点で見た時、キャノンタートルの特徴として厄介なのは、必ず周囲に数十匹のトロールを引き連れている事だろう。

 これは人類側の随伴歩兵を真似た物だろうけれど、キャノンタートルに探知されぬ様に接近して攻撃を仕掛ける際、必ずトロール達が邪魔をして来るのだ。

 トロール自体はC級浸食領域に出現するモンスターなのだが、力が強くタフで、更に自己再生能力も有していた。

 人型に近しい二足歩行のモンスターではあるが、オークの様に武器を扱うだけの知能はない。

 またキャノンタートルに引き連れられて居た場合のみ大勢で群れ、B級浸食領域に現れる。

 

 以前に俺がキャノンタートルを攻略した際は、空中から甲羅と引き合って強襲を掛け、引っ込められる前に一撃で首を落として仕留め、それから惑うトロール達を始末した。

 ……と、これだけを聞けば簡単に仕留めてる風に思われるだろうが、逆に言うと俺はこれ以外の方法ではキャノンタートルを仕留められていない。

 一撃で首を落として始末出来なければ、引っ込んでしまった首が再び出て来る前に周囲のトロール達との戦闘に入り、トロールごとキャノンタートルの砲撃を浴びる羽目になる。


 だからこそ、俺は今回の新しい武器、投げ槍を試す相手に、キャノンタートルを選んだ。



 全長が十メートル程で、高さは四メートル程のキャノンタートルが、視界の先でトロールに囲まれてゆっくり、ゆっくりと歩いてる。

 俺は静かに、深く呼吸を繰り返し、ストレージから取り出した黒鋼の投げ槍を握り締めた。

「身体強化・弐、集中力、オン」

 その文言と共に二つのアクティブスキルを使用した俺は、投擲体勢に入る。

 集中力スキルの使用中は大きく体力を消耗するが、その間は極度に集中力が高まり、普段より高い戦闘力を発揮出来るのみならず、他のスキルを使用した際の精度と強度が増す。


 そして俺は全力で投擲し、キャノンタートルの頭と槍の間に、全力で引力を発生させた。 

 頭が引っ張られる事に違和感を感じたのだろう。

 咄嗟に首を引っ込めようとするキャノンタートルだが、もう遅い。

 恐ろしい程の速度で飛んだ黒鋼の投げ槍が、ぎゅぼっとキャノンタートルの頭部を貫き、体内に埋まる。


 充分過ぎる威力だった。

 いや、寧ろ強過ぎだ。

 体内に完全に埋まった為、キャノンタートルの骸を持ち帰って解体せねば、槍が回収できない。

 高価な武器を使い捨てにする心算は当然ないから、使い方は考えなければならないだろう。

 厄介な敵に対する切り札としてのみ使うべきか。

 あぁ、或いは、これだけの威力が出るのなら、もう数本追加で発注しても良い。


 まぁ何にせよ、取り敢えずは戸惑い騒ぐトロール達を片付けて、キャノンタートルの骸ごと槍を持ち帰るとしよう。

 試し撃ちの結果には、もう充分に満足したから。




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