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21XX、ダンジョンと冒険者  作者: らる鳥


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「あぁ、母さん? 俺、亨太。うん、元気だよ。怪我? そりゃあするよ。でも大丈夫、ちゃんと治ってる。飯? 勿論食ってるよ。母さんが見たら驚く位に。うん、うん、大丈夫だってば。……え、健二が?」

 久方ぶりの家族への、母への通話。

 俺の声を聞いた母はまず安堵し、それから心配を口にする。

 何時もの事だ。

 息子が冒険者なんて仕事をしてたら、そりゃあ心配するだろう。

 父だって同じ仕事で死んでいる。


 でもその日の通話で母が口にした話題は、七つ下の弟、健二の進路に付いてだった。

 俺が十歳の時、つまり健二が三歳の時に父は死んだから、弟はあまりはっきり父の事を覚えて居ない。

 だからだろうか、その分余計に健二は俺に懐いてたと思う。

 そんな健二が、どうやら戦闘訓練校に入って冒険者になりたいと言い出したらしい。


「何でだよ。アイツ勉強出来ただろ? 学費だったら俺が出すよ。蓄え? それ位はあるよ。冒険者してるんだから。……うん、うん、わかった。近いうちに帰るから、健二と話すよ。金の心配はせずに本当にしたい事しろって言っといて。うん、じゃあ、また」

 通話を終了した俺は、溜息を吐く。

 実家には毎月常識的な範囲の額を送金している。

 大金を稼ぐ冒険者の身内だからと言って、派手な生活をしていれば誰に狙われるかわからないからだ。

 それとは別に、俺に万一があった際、家族に遺す金の積み立てもしていたのだけれど……、弟には俺に金がない様に見えたんだろうか?

 恐らく学費の事を気遣って、冒険者になりたいなんて言い出したんだと思う。

 健二は別に好戦的な性格ではないし、寧ろ知識を増やす事が好きだったから、進学を希望するとばかり思っていたのに。


 ……自分が好き勝手に生きておいてこんな事を言うのもなんだが、息子が二人とも冒険者になったりしたら、流石に母が可哀想過ぎる。

 近いうちに実家に帰り、弟と話すしかないだろう。

 しかし今日は、取り敢えず片付けなければならない用事があった。



 向かう先は、俺が良く滞在する防衛都市、守口にあるギルド支部。

 以前から頼んでおいた武器の製造が終わり、支部に届いているとの連絡が入っていたのだ。

 だがそのギルド支部の入り口で、俺は思わぬ人物に遭遇する。

「おっ、おっ、亨だ、亨だ。久しぶりー。んー? なんだ、まだBかよ。早くこっちに来いよなぁ」

 そう声を掛けて来たのは、俺が鴉なんて異名で呼ばれる様になる前から幾度となく世話になっている、赤塚・祥吾(あかつか・しょうご)と言う名前の冒険者。

 年齢は確か、二十五歳位だっただろうか。

 彼は、チャラ付いた外見からはそんな風に見えないのだが、関西でも十数人しか居ないA級冒険者の一人だった。

 掛けたサングラスが何時もながらに、少しチンピラっぽい。


「サラマンダーが厄介で……。今日はその対策用の武器を取りに来たんですよ。祥吾さんは九州まで救援に行ってたんでしたっけ?」

 言い訳がましく、俺は前回A級浸食領域に挑んだ際、勝てずに退いたモンスターの名前を挙げる。

 サラマンダーは、四神のダンジョンに出現するA級モンスターで、体長が五メートルから八メートル位の、巨大蜥蜴だ。

 しかしそれだけなら倒すのに何の問題もないのだが、サラマンダーはその体表から高温の炎を広範囲に発しており、近接戦闘は挑めない。

 投擲武器も、生半可な物ではサラマンダーに届く前に燃え尽きるか融けてしまう。

 まさに俺の天敵とも言うべき相手だった。


「いや、オマエ、何で自分で倒す前提なんだよ。馬鹿じゃねぇの。馬鹿だよな。知ってた。普通に魔法使いに頼れよボッチ。パーティ組めよ。紹介してやろうかぁ? それともうちに来たいか?」

 物凄い罵詈雑言を浴びせられているが、これは単に心配されてるだけである。

 以前から幾度となく、祥吾は俺をパーティに誘ってくれていた。

 けれども俺がそれを断っているのは、何となく他人の力でA級冒険者に上がっても、自分が満足出来ないだろうと思っているから。


「いや、良いです。と言うより、サラマンダー相手だと祥吾さんも何も出来ないでしょう? 九州はどうだったんですか。あそこ火のモンスターばかりですよね」

 ギルド支部の入り口を潜りながら、俺達は雑談を続ける。

 流石はA級冒険者と言うべきか、祥吾は周囲の視線を引き付けているけれど、彼が気にした様子はない。


 俺の言葉に、祥吾はハッと鼻で笑う。

「バーカ、亨、オマエ、オレが火のモンスター相手に何も出来ないと思ってるのかよ。オレが燃やそうと思ったらサラマンダーでも何でも燃えるんだよ。効きはちょっと悪いけどな。……まぁでも、九州はもう駄目かもしれんね」

 火のモンスター、例えばサラマンダー等は、火による攻撃では倒せない。

 それはごく当たり前の事なのだけれど、祥吾にとっては違うらしい。

 彼の異名は『殲滅者』。

 その視界に入っただけで、あらゆるモンスターは燃え上がり、やがては灰となる。

 祥吾は関西でも最強クラスの火力を誇る、固有スキルの持ち主だった。

 勿論、固有スキルのみならず、体術や状況判断能力も一流なのだが。


 なのにそんな彼が、九州はもう駄目かも知れないと弱気な事を言う。

「たった半年で三度も領域拡大の予兆が出てる。今回はA級三十人、B級百人を掻き集めてモンスターを殺しまくって鎮めたが、この調子だと何時か破綻するぞ。だからよぉ、亨、早くAに上がれよ」

 九州は、既に福岡と大分を除く大部分が、ダンジョン『火ノ国』の浸食領域に飲み込まれていた。

 尚も拡張を続けようとするダンジョンを、冒険者達が必死に押さえ込んでいるのが状況だ。


 ……そんな九州を、もう放棄すべきだとの声もある。

 その分のコストを他に向ければ、他の地域はもう少し安定するだろうと。


 しかし仮に九州の全てが浸食領域に飲み込まれれば、その先どうなるかは、全く予想が付かない。

 他の国々の様に霧の向こうに消えるのか、それとも関門海峡を越えて、本州へと浸食領域を広げて来るのか。

 現在、辛うじて繋がっている沖縄との航路も、九州が浸食領域に飲み込まれれば消え去ってしまう可能性もあった。


 つまりは、そう、一見落ち着いたかに見えるこの国の危機は、今も終わってはいないのだ。

 一体どれだけの数の人間がそれを認識出来ているのかは、わからないけれども。





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