ギルド内探索はじめました
「加入手続きもできたし…今度はギルド内の案内を、と思ったんだけどね。実は来客の予定があるんだ。ギルドの地図をあげるから、自分で回ってみてくれるかい?」
と、ホルンさんから言われたのを思い返しつつ渡された紙を広げる。
これも魔法の紙のようで現在地は開く度に更新される。
「とりあえず…」
地図には部屋ごとに記号が記されている。
まずはすぐ隣の部屋で、このスプーンとフォークの記号のところに行ってみよう。ここならなんの部屋か、大体の予想がつく。
木の扉を開けてゆっくりと中を覗き込む。
扉の開く音に反応してか、中の大きな影が動いた。
「夕ご飯ならまだ出来ていないわよ……って、あら?初めて見る顔ねぇ!」
そこにいたのはひらひらの沢山ついた白いドレスエプロンの...大きな……女性…??
「あの...今日からこちらでお世話になることになった音羽、です......」
とりあえず挨拶をしてみる。
ホルンさんの話ではギルドの地下であるこの場所にはギルドメンバーと一部の者しか入れないと言っていたし、この人もきっとそのどちらかなのだろう。
「あらぁ!オトハちゃんって言うのねぇ!アタシはオーク族のバウロン。主にここで皆のご飯を作ったり、あとはお薬を作ったりしているのよ。気軽にバウちゃんって呼んでねぇ!」
オーク族のバウちゃんという彼女は緑がかった肌で耳は豚のような形で前に垂れ下がっている。
体は俺より全然大きいし屈強そうだけど、にこーっと笑って体をくねらせる様子はまるで乙女そのものだ。
「バウ、ちゃん。よろしくお願いします…」
「やーん!お堅いのは好きじゃないわ!もっとフレンドリーに行きましょう?ね?」
「う、うん…じゃあ改めて、よろしく!」
バウちゃんが嬉しそうに笑って頷いた。
優しそうな人で良かった…ホルンさんにレベックくんも優しそうだったし。
「あ、そうだ。もし時間があったら…ちょっとこのギルド内の設備を教えてくれないかな。」
「あら、いいわよ!じゃあ地図を開いて待ってて!」
俺の勝手なお願いだ。
忙しいかもしれないと半分諦めて頼んでみたら、バウちゃんは快く了解してくれた。
俺は言われた通り、近くの4人がけテーブルに地図を広げて席に座る。
しばらくするとバウちゃんが戻ってくる。
「はいこれ。オトハちゃんにあげるわね。」
「これは?」
渡されたのは小さな丸い入れ物だった。
蓋を開けると薄い緑色のクリームのようなものが入っている。
「さっき言っていた私の作った薬よ!切り傷や擦り傷なんかによく効くから、機会があれば使ってみてね。」
まぁそんな機会ない方がいいんだけど。と笑うバウちゃん。
じーんと来た。
そんなこと誰かに言われて薬を渡されたことがあるか?いや、俺はない。
バウちゃんの手をがしっと掴む。
「ありがとう!バウちゃん!」
「えっ、あ、そんな…ヤダァもう......」
ありがたい!
なんて俺は人に恵まれているんだろう!
もしかしてこれもなにかフォルテの加護のおかげとか?
「さっ、地図の説明しちゃうわよ!」
暫くバウちゃんは顔を両手で覆ってそわそわしていたがぱっと顔を上げてくれる。
改めて地図に視線を落とす。
「いい?ここが食堂。ここと繋がったところに厨房と、その奥に薬品室もあるの。大体私はここにいるわね。それからこっちがマスターの部屋。」
その後もバウちゃんはひとつずつ丁寧に指差しで部屋を教えてくれる。
メンバーは住み込みでひとりに一部屋与えられるらしい。
今空き部屋がふたつあるらしく、どちらかを借りることになりそうだ。
あとは浴場がふたつあること、洗濯室、図書館、食料庫、談話室の場所なんかも教えてくれた。
「この談話室にはギルドの掲示板もあるの。ギルド協会からの依頼書や各自への報告内容なんかも貼ってあるからできるだけ確認した方がいいわね。」
「なるほど。依頼っていうとやっぱり生物保護の?」
「そうね。そういう類いが殆どかしら。あとは物品の納品依頼とか。アリアは全ギルドの中でも特に私有地が広いギルドなのよ。そのおかげで物資も豊富だから、そういう依頼も来るのよね。」
なるほどなぁ。ちゃんと理にかなった依頼が来るようになってるわけか。
無理強いじゃないってのもまたありがたい。
「オトハちゃんはまず部屋の確保をした方がいいわね。きっと今の時間帯なら...洗濯室に部屋の管理をしているラルゴちゃんがいると思うわ。行ってみたらどうかしら。」
「確かに。うん、行ってみる!ラルゴさん、って人いるんだね?」
「そうよお!ラルゴちゃんはとーーっても優しいの。緊張しなくても、オトハちゃんなら大丈夫よ!」
良かった。ラルゴさんも優しいなら安心だ。
バウちゃんに改めてお礼を言って地図を仕舞う。
さぁ、次は洗濯室だ。