勧誘はじめました
ギルドで行商人と会話をしていると、ギルドメンバーであるレベックに声を掛けられた。
呼ばれるがままに行ってみるとそこには冒険袋を持った青年がいた。
きっと異世界人だろう、間違いない。
異世界から来たという割には周囲をきょろきょろと見て目を輝かせている。
つい口元が綻んだ。
僕の愛するこの世界を、彼も愛してくれそうだ。
「ようこそ異世界へ。」
そう声をかけると彼はぱっとこちらに顔を向ける。
若干の緊張を表情から見受けられるけれど、それ以上の好奇心が感じ取れる。
「僕の名前はホルン。このギルドのマスターをやっている。君は?」
「あっ、お、おれは、……シルフの魔法で異世界から来ました。音羽と言います。」
言葉を選びながら発言している。
あまり会話は得意じゃない人かもしれないな。
「オトハくん。此処じゃ人の目もあるし、こっちへ。個室があるんだ。レベック、もう戻っていいよ。ありがとう。」
「でも!…まだコイツに悪意が無いかは……」
ギルドには地下がある。
そこには僕個人の個室やメンバー個々の部屋も準備されている、つまりプライベートゾーンだ。
その性質上、地下はギルドメンバーか、僕が許可した者しか入れないようになっている。
そこに彼を招こうとしたせいか、心配性のレベックが僕に危険性を訴える。
しかし笑い返すとレベックは押し黙った。
耳としっぽが少ししゅんとしているように見える。
「よろしく頼むよ。」
ぽん、と軽く頭を撫でると渋々ながら引き下がってくれた。
改めてオトハくんに目をやる。
「さ、行こうか。美味しい紅茶でも飲みながらお話しよう。」
「わぁあ……本がいっぱいだ…」
僕の個室へ案内するとオトハくんが小さく感嘆の声を上げた。
僕は読書が趣味だからね。
部屋の壁際いっぱいに本棚を並べてある。
「本が好きならいつでも貸してあげるよ。…でもまずはこちらの世界の文字の勉強からかな。」
ソファーへ腰掛けることを片手で勧め、僕はフルーツティーを淹れることにした。
おいしい甘い紅茶は緊張を解してくれるからね。
お気に入りのドライフルーツと茶葉をポットへと入れる。
常に沸かされているお湯をそこへと注げばふんわりと甘い香りが漂った。
「…いい匂い、ですね。」
「そうだろう?オレンジと桃の入ったフルーツティーだよ。お口に合うといいんだけど。」
行商人から買い取ったカップへとそれを注げば鮮やかな赤色がカップの底を彩った。
「ありがとうございます!!」
カップを目の前へと出すと嬉しそうに笑ってすぐにカップを持ち上げた。
ふうっと息を吹き掛ける。
オトハくんの仕草は見た目より少し幼げだ。
「あっち、…でも甘くて美味しいですね。」
口に含んだ紅茶は少し熱かったようだけれど、彼の緊張は充分解せたみたいだね。
肩の力が抜けているのがよく分かる。
「いいんだよ、このくらい。…さて、改めて。僕はここ、生物保護ギルド『アリア』のマスターをしている者だ。どうぞよろしくね。」
「生物保護ギルド……?」
聞いたことの無い言葉のようで、オトハくんが首を傾げた。
この世界には多くのギルドが存在する。
トレジャーハンターギルド、討伐ギルド、魔法研究ギルド……明確に「この内容のギルドでなくてはいけない」という決まりがないので多種多様なギルドが出来上がっている。
その中の一つが我が生物保護ギルド。
活動は名前の通りで至ってシンプル。
災害や公害、なんらかの理由で保護を必要とする生物を一時的にうちの敷地内で保護。
怪我が治ったり受け入れ先が見つかれば野生に返すという活動をしている。
「へぇー!立派なお仕事ですね!異世界の生物かぁ..」
オトハくんの目はやっぱりきらきらとしていた。
本当にそう思ってくれているんだろうと思う。
その微笑ましささえ感じる楽しげな表情を見つつ一口紅茶を口に含み、喉を潤す。
「それでね、オトハくん。もし君に行く場所ややりたいことがまだ無いなら、うちのギルドに入ってみないかい?衣食住は保証するよ。もしなにかやりたいことが見つかったらギルドの脱退も出来るし、お金も溜まるし。」
「え"っ!!い、いいんですか!?自分で言うのもアレですけど、なんの取り柄もないですよ!?」
ギルドの勧誘に、彼は心底驚いたようで置きかけだったカップはがちゃんという音を立てた。
大きく目を見開いている彼につい笑みが漏れる。
「いやいや。君は知らないかもしれないけど、シルフといえば妖精の中でも特に扱いが難しい種族なんだ。そんなシルフに認められた時点で充分才能があるよ。」
妖精族は種類が多くそれぞれに個性という色を持つ。
そんな中、風の精霊であるシルフは自由奔放で気が強い。気に入らない相手には絶対に従わない。
そんなシルフに連れて来て貰えた彼ならきっと、この生物保護という分野の大きな力になってくれると思うんだ。
「それに…実は僕の大切な人が異世界人でね。そんな影響もあって、うちのギルドでは異世界人は大歓迎なんだよね。」
「だからレベックくんもこの袋を見て……」
「冒険袋だね。異世界人はみんな持ってるから、きっとそれを見て僕のところに案内してくれたんだろうね。」
ついさっきポケットに突っ込んでいた袋を再度取り出して見せてくれる。
妖精のマジックアイテムのひとつだ。
肘をテーブルについて少し体を前に出す。
「さて。オトハくん。僕のお誘い…受けてくれるかな?」