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第二話 フラミィ・エネルケイア

「んだてめェは?」


 野郎どもの目線を追うと、そこには赤髪を尾のようにまとめ、口には枝か何かを咥えた女の子がこちらを見ていた。美人というよりは可愛いに部類されそうな子だ。


「俺か? 俺はフラミィ・エネルケイアさ」


 男たちに真っすぐと向けられる紅玉の瞳は淀みを感じられない。


「エネルケイア? 誰かは知らねェが、何か文句でもあんのか? あ?」

「文句、ねぇ……」


 フラミィという子は味わうかのように言葉を復唱する。


「おうよ。言っとくがここは完全実力主義。俺がこの劣等種族に何したってこいつが弱いのが悪いんだよ」

「まぁそうだな、文句はねーよ」

「だろ? だったらとっとと去りやがれ」


 自らの主張に同意を得た事が嬉しかったのか、リーダーの男は心なしか満足そうに微笑む。


「でもよあんたら、実力主義だからってこんな弱いのをいじめて楽しいってのか?」

「あ?」

「やり方がめめっちいって言ってんだよ。玉ついてんのかほんとによ?」


 ……今女の子から出たとは思えない言葉が出た気がする。

 男共もそれは感じたのか、若干呆気にとられたようにフラミィを見ている。


「どうせ下もちっせぇ野郎どもなんだろうなぁ?」


 いやだから女の子が言う事じゃないってそれ。


「てめェ言わせておけば……」


 そこまで目くじら立てる事とは思わないが、やはり二回も言われた本人からすれば大きな侮辱だったのだろう、俺の胸倉をつかむリーダーは毒抜かれた顔から一転、その眼が悪意で満たされる。


 これまずいんじゃないか? 多少目立つ事をしても止めた方がいいかもしれない。


「おらッ!」


 リーダーの拳がフラミィを急襲する。

 同時に、手が離れたので俺は止めようかと木から離れるが――


「おいおいそんなもんかよ。道理でこういう事するわけだ」

「んなッ……!」


 俺が出る必要はなかった。何故なら、リーダーの拳はフラミィによって片手で止められていたからだ。しかも表情には軽く微笑が湛えられ、余裕すら窺える。


「ふざけやがって!」


 ふと、取り巻き二人組のうち一人がフラミィに向かって飛びかかる。

 しかし、フラミィは軽々と躱すと、膝蹴りを鳩尾めがけて突き刺す。


「げほっ」


 かなりきつい一撃だったのだろう、飛びかかった方の取り巻きは地面にうずくまる。


「確か実力主義だったんだっけか? なんなら俺が相手してやってもいいんだぜ?」


 咥えていた枝を吐き捨てると、固定していた拳を粗暴に解き放つ。


「チッ、いくぞお前ら」

「う、うっす」

「へ、へい……」


 女に拳を止められたのが悔しかったのだろう。男たちは唾を吐きながらこの場を離れていった。


 なるほど、なかなかやる子だな。この華奢な身体のどこにそんな力があるんだろう。鍛えているのか、それとも西洋の便利技能、魔力補強(マギア・ブースト)で筋力を強化しているのか。一時的ではあるが、魔力を通すだけで鍛錬無しに力が出るのは本当に羨ましい。


 まぁとは言っても男の方も扱えないわけではないだろうから、女の子の方がうまく使っているという事のなのだろう。なんにせよかなり強い子なのに変わりはないか。

 そんな事より、助けてもらったからには礼は言っておかないと。


「助かったよ、ありがとう」


 言うと、フラミィがあくび交じりに答える。


「別にあんたのためじゃねーよ。ああいうの見てると虫唾が走るだけさ」

「でも助かったよほんとに」

「まぁいいさ。それはそうと本当に弥国人なんだな……」


 顎に手を当て、紅い瞳が俺を眺め始める。

 口調とか言う事を抜きにすればかなり可愛い子なので、あまりじろじろ眺められると少々気恥ずかしい。どうするか考えあぐねていると、やがて視線は外れた。


「ま、せいぜい頑張れよ? この学校が完全実力主義なのは本当だからな」


 フラミィの言う通り、この学院は完全実力主義だ。

 力なきものは力ある者に砕かれるのは必定、たとえ貧富の差があれど、力の前にそれは無意味という謳い文句が存在し、生徒同士の諍いを解決するのにお互いの実力をぶつけ合う決闘制度を設けるなど、まさしく実力主義の名にふさわしい場だろう。


「まぁなんとかしていくよ」

「その意気だ。それはそうとあんたも新入生なんだろ? 俺もだけど、ここで会ったのも何かの縁だ、入学式一緒に行こうぜ」

「あー……おう、そうだな」


 だしぬけに言われたので、思わず言葉を詰まらせてしまう。

 そのせいかフラミィが心なしか怪訝そうにこちらを見やる。

 それでも特に何もないと判断したのか興味無さそうに俺から視線を外すと、何か関心があるものがあったのか、別の方向を見つめだした。


 目線の先を追ってみると、そこには白銀に煌く髪の毛を片方に結んだ女の子が歩いていた。少し小柄だが、その整った顔立ちは世界中の男を釘付けにするのではないかと思われる程だ。


「知り合いか?」


 聞くと、フラミィはどこか慌てた様子で俺へと視線を戻す。


「ま、まぁなんだ、ほんのちょっと接点があるってか無いってか……」

「なるほどな」


 ちょっとどころでも無さそうだが、あまり他人に深入りしない方がいいので、適当に話題を変える。


「まぁとりあえず行くか。講堂は確か校舎を曲がればいいんだよな」

「あ、ああ。そうだな確か」


 歩き始めると、再度フラミィの視線が銀髪の女の子へと向くが、知らないフリをしておいた。


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