第一話 劣等種族
「ひっひ、あいつ腰におもちゃ引っ提げてやがるぞ」
「ださださっすねぇ」
「武器召喚もつかえないんですかねぇ」
何やら言っている三人組を通り越して、黒い鉄門を潜り抜ける。
木々が立ち並ぶ大通りの先には、薄橙色の壁に木や窓が配列よく組まれた建物がこちらを見下ろしていた。
大陸に雄大な国土を有する魔法王国ディナトティアの王都に非常に広い敷地を有するエクストーレ学院の本棟は、噂通り絢爛豪華だ。
ある程度西洋については予習してきたが、貧困層から富裕層まで幅広く受け入れるこの学院は世界でも名の知れた教育の場らしい。俺も今日からここの生徒というわけだ。
「おい」
ふと肩を掴まれたので見てみると、何やら目つきの悪い人たちが俺を睨んできていた。
気崩されてはいるが、制服は全員新しそうだからたぶん同じ新入生だろう。
「何か用か?」
ただ純粋に質問したつもりだったが、帰ってきた反応は好意的なものではなかった。
「あ? おめぇ舐めてんのか、シカトとはいい度胸じゃねェか」
「そうだそうだ」
「謝れよ」
一番体格の太い男に続き、いかにも子分臭溢れる二人が言葉を重ねる。
まさか俺に対して向けられてる言葉とは思ってなかった。だって腰に差してるこれはおもちゃじゃなくて人を殺せる刀だ。まぁでもいちいち反発したら余計こじらせるだろうから適当に謝っておこう。
「まぁなんかすまん、以後気を付ける」
さて入学式の会場へ向かおうと身を翻そうとするが、再び肩を掴まれ阻止されてしまう。
「おい待てよ」
「まだ何かあるのか?」
尋ねると、体格の太いリーダーであろう男はさも馬鹿を見るような目をこちらに向けて軽く肩をすくめる。
「おいおい、弥国人ってのはこういう時の礼儀もしらねぇのかァ? なァ?」
取り巻き二人組に視線を移動させると、その二人組もまたヘラヘラと陽気そうな顔を向けてくる。
なるほど、俺が弥国人だから難癖つけてきたわけだ。大まか、俺が黒髪という事から推測したんだろう。まぁ弥国人が嫌われてるっていうのは知ってたけど、やっぱり髪染めくらいしとくべきだったか。て言っても刀はどちらにせよ持っとかないといけなかったしな……。
「一応聞いとくけど、何をすればいいんだ?」
この状況を打破するために内容によっては受け入れるとしよう。
「ほお? 良い心がけだ。じゃあまずは裸で入学式に出場してもらおうかァ」
体格の良い男がしたり顔で言うと、二人組もまたからからと笑う。随分とまぁ突飛な発想を……。
「それは流石にできないな」
「あ?」
拒否の意思を示すと、不機嫌そうな声が返ってきた。
「そりゃ嫌だろ。ていうか、俺は聞いただけでやるなんて一言も言ってない」
「んだとコラ? 魔法を使えない劣等種族がよッ」
無駄に太いだけの指が俺の襟をつかみ木に押し付けてくる。
極東の島国にいる魔法の使えない劣等種族、それが弥国人。弥国人が嫌われる大きな所以はそれだな。どうにも弥国人には魔法を使うための不可視のエネルギー、魔力が無いらしい。そのせいで文明レベルが若干遅れていたりだとか二十年ほど前に国交がひらかれたものの、貿易は弥国が不利になってるとか、嫌われるのは他にも原因はあるようだが。
にしても面倒な事になった。どうするか。反撃してもいいけど人通りも多いし、あまり目立ちたくないからな。どうにかこの事態を丸く収めることはできないだろうか。
「なぁあんたら」
なんとかこの場を治める打開策を見出そうとしていると、別の方向から声が聞こえてきた。