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第十四話 紅い瞳

 剣術演習の後、一人で世界史の授業を受けた。

 この国の成り立ちなど教わったが、ここに来る前、事前に勉強していた事なので暇だった。授業によっては出席数も成績に反映されるが、世界史については出席を取っていなかったからもう受けなくてもいいかもしれない。テストはたぶん受かるだろう。


 欠伸を噛み殺しつつも昼食をとるために食堂に入ると、カウンターの上に掲げられた品書きを眺めるエクレの姿を見つけた。


 まぁ、まだ怒ってるかもしれないのでこの場は知らないふりをしておいた方がいいだろう。


 適当な昼食を頼むために注文口に向かうと、ふとエクレの方に向かう女子数名の姿を視界の端に捉える。もしかしたらまた前みたいな事が起ころうとしているのかもしれない。


 あの女子集団が本当にエクレに難癖をつけに行こうとしてるのかは分からないが、万が一の事もあるので、仕方が無いかと早歩きでエクレの方へと向かう。


 先にエクレの元にたどり着き、先ほどの女子集団はどうかなと見てみると、杞憂だったか、何事も無かったかのように通り過ぎていく。


「あ、クロヤ」


 エクレはもう怒っていないのか、俺を見ても不快そうな様子を見せないので少し安心する。


「今から昼飯か?」


 聞くと、エクレはコクリと頷く。

 お互い注文口で料理を頼むと、手ごろな席に座り食事を始めた。

 何を喋るでもなく料理を食べていると、エクレが俺の頼んだ料理を見つつ聞いてくる。


「それ何?」

「サーモンのムニエルだとさ」


 俺としてはサバの味噌煮とかが食べたかったが、無かったのでこれで妥協した。不味くはないが、洋食よりも和食の方がやっぱり好みだ。自分の部屋でも料理できるみたいだから今度作ってみてもいいかもしれない。台所の使い方が分かれば。


 とは言え、あまり文句を垂れても仕方が無い。不味いわけでは無いので箸を動かすことにする。

 しばらくお互い無言で箸を進めていると、やがて皿の料理は掃けた。


「エクレは今度何か授業入ってるのか?」


 特に何を思うでもなく尋ねてみるが、エクレに反応は無い。

 どうやら俺より後ろの方に目が行っているようなので見てみると、フラミィの姿があった。


「エクレ」


 もう一度呼ぶと、エクレの澄んだ瞳が俺を映す。


「なに、クロヤ」

「いやさ、フラミィと何があったのかなって」


 我ながら他人の領域に踏み入るなんてらしくはないが、どちらも知り合いというだけにこの調子を見せられるとむずがゆさを感じてくる。


「そういえばクロヤ、フラミィと友達みたいだった」

「友達……かどうかは分からないけど、まぁ多少は知った仲だな」


 言うと、エクレは少し考える素振りを見せた後、やがて口を開く。


「フラミィとは十二歳の頃まで友達だった」

「友達だったって事は……」

「そう。今は友達じゃない」

「喧嘩か何かしたのか?」


 聞くと、エクレは横に首を振る。


「してない。でも私はフラミィに嫌われたみたいだから……」


 それだけ言うと、エクレの目は若干伏せれられてしまう。エクレの方はできればフラミィと仲良くしたいと見受けられる。


 でも思い出してみれば確かに、どちらかというとフラミィの方が突き放してるみたいだったか。正直俺がどうこうできる問題ではないかもしれないが、片足を突っ込んでしまった以上何もしないのは寝つきが悪いか。


「ちなみにエクレはフラミィとまた仲良くしたいのか?」


 問うと、エクレはこくりと頷く。

 それが分かれば早い。エクレに歩み寄るつもりがあるなら後はフラミィの方をどうにかすればいいからな。


「あ、もうすぐ次の授業始まる……」


 エクレが言い腰を上げるので、食堂内の壁に大きく掲げられた振り子時計を見ると、確かに次の授業の十分前だった。

 俺は最後の六時間目まで授業は入っていないが、エクレはそうでも無いらしい。


「魔法技能Ⅰ、クロヤは取ってない?」


 俺も立ち上がると、エクレがそんな事を聞いてくる。


「ああ、魔法系はほとんど取ってないんだ」

「……そう」


 答えると、エクレは短く返しただけで、そのままトレーを持ってさっさと返し口へと向かっていってしまった。


 教室に行くまで絡まれたりしないか少し心配なので、付いて行った方がいいかと考えていると、俺の元に人影がやって来る。


「よ、クロヤ。この後暇か?」


 聞き覚えのある声だったので見てみると、木の枝を咥えたフラミィが微かに笑みを浮かべて立っていた。

 エクレについて話しておきたかったから丁度いい。


「フラミィも暇なのか? なら丁度良かった。話したい事が……」

「暇なんだよな?」


 話がある事を伝えようとするが、フラミィに半ば遮られ同じ質問をされる。

 口元こそ笑みを浮かべているが、その紅い瞳はどこか敵対心を宿している気がした。


「……ああ、暇だ」


 授業は夕方からのが一つしかない。答えると、フラミィが虚空から一本だけダガーを出現させ俺に見せつけ、言い放つ。


「だったら、ちょっとばかし遊戯(バタイユ)に付き合ってくれねーか?」


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