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第十話 憤り

 寮生会議が終わると自由時間となったので、生徒達は学院内見学だとか腹ごしらえだとか、各々自らの目的を果たすために会議室から出ていく。

 俺もまたその波に乗り、かといってやる事も無いので部屋に戻ろうとしていると、ふと誰かが制服の裾を引っ張る。


「クロヤ」

「あれ、どうしたエクレ?」


 振り返れば、真っすぐとエクレの澄んだ瞳がこちらを見ていた。

 あまりに綺麗なそれに思わず見入っていると、やがて目線は俺の下の方へと向けられる。

 追ってみると、エクレの白雪のような色を帯びた手がポケットを指さした。


「それ」

「それ、とは」

「そこに入ってる銀のプレート見せて」


 銀のプレートと言えば恐らくあれの事だろう。さっき取り出した時に見られていたのかもしれない。


 とは言え別に隠す物でもない。そもそも俺もこれが何か分かってないし、もしかたらエクレが何か知ってるかもしれない。


「これがどうかしたか?」


 取り出すと、エクレはすっと鉄板を受け取りまじまじと観察する。


「似てる」

「似てる?」


 聞き返すと、エクレは肯定のを意を込めてなのか小さく頷く。


「クロヤも【ルミエル】知ってるでしょ? さっき話してた」

「ああ、王直属の近衛守護部隊だったか」

「そう。この銀色のプレートは【ルミエル】の一員の証のプレートに似てる」


 なるほど。道理でこの学院の紋章が刻まれてるわけだ。ただ似てるという言い方は引っかかる。


「でも似てるって事は違うんだよな?」


 聞くと、エクレはコクリと頷き説明してくれる。


「形、刻まれた四神の紋章は一致してる。でも色が違う。ルミエルの証は金色」

「メッキがはがれて色が剥げたっていう可能性は?」

「無い。ルミエルの証は純金って聞く。それにもしそれが偽りだったとしても、剥げてこんな光沢は出ない。恐らくそれは白金(プラチナ)かあるいはそれに類する鉱物」

「ほう……」


 ルミエルの証じゃない、か。


「それはどこで手に入れたの?」

「いやまぁ、道端で拾った」

「ほんと?」

「ほんと」


 実際本当だった。弥国に居た時に森に落ちてたから拾ったまでだ。


「……そう」

「にしてもよくルミエルの事知ってるな。俺なんか今話を聞かされて初めて知ったよ。ルミエルに証があるとか、それが純金だとか。やっぱり目指してるだけあるな」


 なんとなく居心地が悪かったので適当な話題を振ってみると、エクレはゆっくり頷く。


「お姉様はここの卒業生で、ルミエルに所属してたから」

「へぇ、そうなのか。エクレのお姉さん凄いんだな」


 つまりこの学院で5000ポイント溜めたわけだ。優秀以外の何者でもないだろう。


「……でも今は行方不明」


 ふと、呟かれた言葉に身が固まるのを感じた。どうやら余計状況を悪化させたらしい。

 エクレは物憂げな目を流し窓の外へと向ける。


「なんていうか、ごめん」

「クロヤは悪くない。じゃあ、そろそろ私は行く」


 それだけ言うと、エクレは廊下の向こうへと歩いていってしまった。その小さな背中はなんとも弱々しく儚げに見える。


 やがてその背中が見えなくなったので、とりあえず俺も自分の部屋に帰ろうとすると、誰かが俺の前に立ちはだかる。


「へぇ、ほんとに弥国人いるんだ」


 見れば、ピアスを付けた男が俺をヘラヘラしながら眺めてくる。香水でもかけているのか、つんとした臭いが鼻についた。


「それがどうした?」


 繕っても変わらないのはここまでで学んだので普段通りに接することにする。


「別にぃ? 劣等種族の分際でこんなところにいるのが生意気だなって思っただけだよん」

「言いたい事はそれだけか? なら俺はこの場から退散するけど文句ないよな」


 男の脇を通り抜けると、後ろから声がかかる。


「そーいえばさー。弥国から神子(みこ)がいなくなったってマジなのー?」


 神子という言葉に自然と足が止まる。


「俺は一般の弥国人でしか無いからその神子様の事は把握してない」

「あっそ。でも俺っち聞いちゃったんだけどさ、神子って同い年くらいの女の子なんでしょ? でさ、禊とか言って定期的に集団でヤる(・・)んでしょ? 俺も混ざりたいなぁ」


 その言葉に、気づけば金髪の胸倉をつかみ上げていた。


「戯言だ。神子様に対する冒とくは許さない」


 こいつの言う神子は恐らく神子ではなく、次代神子の事だが、それでもどうしても見過ごすことができなかった。


「離せよ」


 金髪は冷めた目でこちらを見下す。

 今すぐ殴り掛かりたい衝動に駆られたが、なんとか堪え金髪を突き放す。こんなところで暴力沙汰を起こしたらまずいだろう。


「あーおもしれー。弥国人って神子に対する入れ込みがマジって聞いてたけど本当なんだねぇ? ま、せいぜい劣等種族は劣等種族らしく惨めに過ごしなよ」


 金髪はこちらに笑いかけると、行こうとした足を止める。


「あと、あまり殺気まき散らさないでくれる? あの子怖がっちゃうじゃん」


 金髪が顎で示した先には朝、エクレにちょっかいをかけていた女の子が遠くでこちらを覗き込んでいた。

 しかし目が合うと、すぐさまどこかへ引っ込んでしまう。


「……それは善処する」

「それじゃあねん?」


 金髪はヘラヘラ言うと、今度こそ去っていった。

 気分が悪い。さっさと部屋に戻ってゆっくりするか。

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