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ルースミアと1人の勇者の結末

ルースミアと勇者の最終話です。

 ふむ……見たところどうやら魔物ではないようだな。


「人種だ。 数は結構いるようだぞ」

「サンドロの奴が助けを呼んだ……ってのは無さそうだが」


 お互いの顔がわかる距離まで近くと口々に生きていた! だとか、なんだアレは! などの声が聞こえてくる。


 それはどうやらデ・ラ・カルと親しい冒険者仲間たちだったようだ。


「デ・ラ・カルたちが死んだと聞いてな、集められるだけ集めて敵討ちに来たんだが……」

「それは建前だろ? 本音はコイツを倒しに、じゃないのか?」

「はっはっは、まぁどっちだって良いじゃないか! ……それで、お前らで倒したのか」

「ま、まあな……」

「デカイな、通常のジャイアントリザードのゆうに倍はある」

「とりあえずめちゃくちゃ重いんだ。 手伝ってくれよ」

「おう、そうだな、お前らも手伝ってやれ!」


 さすがに23人も加われば楽になったようだ。 今ではそれぞれが笑顔を見せて話をしている。


 そんな中、デ・ラ・カルだけは最初に話しかけてきた人間となにやら深刻そうな話をしていた。






 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 帝都に辿り着く頃は陽も落ちて暗くなりつつある頃だった。

 検問している兵士が運ばれてきたジャイアントリザードの首に驚き、冒険者ギルドではデ・ラ・カルたちが生きて戻ったことを喜んでいる。


 人望のある雄だな。


 我はそれを他人事のように眺めながら今後のことを考えていた。


 多くの情報を持つ者は力なり権威を持っているものだ。 そうなるとこの次元において両方を兼ね備えている者は、今のところ我が知っているのは魔王と言われている者だけだ。 皇帝とやらも権威はあるだろうが裏で操っている者がいるかもしれない。

 そこで気になるのは魔王が魔物を生み出していて、魔王を倒せば魔物はいなくなると言った者だ。

 そいつがなにを企み、なにを目論んでそんな戯けた事を言い出したのかはわからないが、そんなこと我には関係ない。

 ただそいつは怪しいと思った、それだけだ。



 そこへバンッと勢いよく扉が開いてサンドロ=アルベスが冒険者ギルドに入ってくる。


「ルースミア! ティア! それにデ・ラ・カルたちも無事だったんですね!」


 わざとらしい息の切らせ方だ。


「良かった、本当に良かった。 とても心配していたんですよ……」


 ククク……やはりコイツは道化だ。 勇者も冒険者も辞めて道化になった方がきっと人気が出るぞ。


 先ほどまでの騒ぎから一転、ギルド内は静まり返り、誰もが白い目でサンドロ=アルベスを見つめている。


「仲間を見捨てて逃げた勇者様が今更仲間ヅラかい?」

「違う! 僕は助けを呼びに先に戻っただけです!」


 呆れて者が言えんとはこのことだ。

 その挙句の果てが居心地が悪くなったのだろう。


「ティア、ルースミア、行きましょう。 ついてきてください」

「サンドロ、この後に及んでまだそんなことを言うつもりなの!?」

「何を言ってるんです? あなたたち2人は勇者である僕のお供なんですよ?」


 その場にいる誰もが呆れ果てる中、冒険者ギルドの職員が出入りする扉から1人の人間が出てきた。

 歳はいっているが背は高く威厳のある顔つきと屈強な体躯をしている。


「違うな、サンドロ=アルベス。 君はもう勇者ではない。つい先ほど皇帝から勇者の資格の剥奪を言い渡された」

「そんな! じょ、冗談ですよね、ギルドマスター!」


 ほぉ、コイツがギルドマスターか。

 体つきから元戦士辺りで間違いはないだろう。


 ギルドマスターと言われた雄が一枚の羊皮紙を広げ、最初にサンドロ=アルベスに見せた後、この場にいる全員に見えるように掲げた。

 そこにはこう書かれてある。



『魔王討伐の為、任命されたサンドロ=アルベスは、虚偽の報告及び勇敢なる者にあるまじき行いをした。 よって、勇者の資格を只今を持って剥奪とする』


 おそらく皇帝だろう人間の名前も書かれていたが、そんな奴には興味ないからどうでもいい。

 とにかくこれで勇者の招集とかいうくだらない特権は使えなくなり、ティアも気兼ねなく我の手伝いができるようになる。

 ああ……あとこれでサンドロ=アルベスを殺しても問題なくなったか。



「う、嘘だ……僕が、僕が勇者の資格を剥奪なんてありえません! これは何かの間違いです!」

「サンドロ=アルベス、君はなにを言っているんだ? 巨大なジャイアントリザードが現れて仲間と共に戦ったが、全員食われ仕方がなく撤退した。 そう報告したのは君自身じゃなかったかね?」

「う……あ、ち、違う、違うんです」


 ククク……このギルドマスター、的確に追い込んでいってるな。


「違う? ではなぜ食べられたはずのデ・ラ・カルたちがこの場にいるのか答えてみろ」


「ギルマス、デ・ラ・カルたちはゾンビか何かですかい?」

「いやいや、これはきっと全員夢見てんだよ」


 次第に茶化す輩も出始めた。

 そのデ・ラ・カルたちはと言うと、茶化すこともなく真剣な表情でサンドロ=アルベスを見つめている。


 顔を真っ赤にさせたサンドロ=アルベスは何も言わずに逃げるように冒険者ギルドを立ち去っていった。

 もはや言い訳もできなかったのだろう。




 その後は食事も運ばれてきて、また祭り騒ぎが始まりだした。


「ルーちゃん、一緒に食べよう……あ」

「ふぁんふぁいっふぁか?」

「な、なんだ、もう食べてたんだね、あはは……」



 どうやらデ・ラ・カルたちは仲間も多く、信用もされているのは間違いないようだ。



 だいぶ夜もふけってきた頃、出来上がった連中も増えてきた冒険者ギルドの扉が突然開かれ、揃った武装姿の人間共が入り込んできた。


「ここにデ・ラ・カルとその一行はいるか!」


 その声で冒険者ギルドは一瞬にして静まり返る。


「デ・ラ・カルは俺です、仲間もここにいます」


 すると揃った武装姿の人間の1番後ろから、ちょび髭の人間が偉そうに踏ん反り返りながら1番前に出てくる。


「お前があの巨大なジャイアントリザードを倒したデ・ラ・カルか。 明朝、仲間と共に城に参上するよう皇帝陛下からのお達しだ」

「お、俺たちがですか!?」

「そうだ、明日に備え今日は早めに休んでおくがいい、話は以上だ」


 ちょび髭が合図を送ると冒険者ギルドから立ち去っていく。

 完全に姿が見えなくなってから騒がしさが戻ってきた。


「コイツァ皇帝陛下直々に褒美が貰えるんじゃないか?」

「きっとそうだ!」

「たんまり貰えるぞきっと!」

「いやいや、もしかしたら、デ・ラ・カルが勇者になるかもしれねぇぞ?」

「ローグの勇者様ってか? ないない、無いぜそりゃ!」


 いろいろな憶測が飛び交い、盛り上がりを見せだしたようだ。

 そんな中……


「みんな悪い、俺たちは言われた通り先に休ませてもらうよ」


 デ・ラ・カルがアルバール=デ・パブロ、クリスト=バイネス、ティア、それと我に目配せをしてきた。


「そうじゃな、カルだけじゃなく儂らも行かねばならんようじゃしな」

「……ウンウン」

「ルーちゃん行こう」


 ううむ、もう少し食べたかったのだが仕方があるまい。



 ティアに手を引かれるまま冒険者ギルドから出ていく。


「ひとまず宿屋で打ち合わせをしておかないといけないと思う」

「そうじゃな、何しろ儂らには秘密がありすぎるからのぉ」

「……ウンウン」


 もとより心配などはしていなかったが、我の分も宿代はデ・ラ・カルたちが支払う。

 部屋の中で口にしていいことダメなことを確認しながら打ち合わせを済ませて、雄と雌に別れて眠りについた……もっとも我は眠ることはないがな。




次の話から章が変わって閑話から始まります。


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