ルースミアの帰還?
妖竜宿から魔王の配下たちは出ていき、魔王の命令を忠実に実行することだろう。
そして我らも準備を整えているところだ。
「すげーな。 本当にもう帝都にいるぜ」
窓から外を眺めながらカルが言った。
「ルーちゃん我慢我慢。 それに似合ってるよ」
我の髪は目立つからとローブのフードで隠すように言われて被っているのだが、どうにも視界が狭まって違和感しかない。
「これなら僕も魔王と気づかれないかな?」
魔王の顔を知る者はホセ・イグナシオ=ルリの他には少ない。 なのでごく普通の冒険者の格好をしただけで誰だかわからなくなった。
「あとは偵察に出たアルバールとクリストを待つだけね」
ドワーフは髭もじゃで区別がつきにくいだろうという理由と、クリストもローブ姿のため目立たないからという理由で帝都の様子を見てきてもらうことになっていた。
しばらくして顔を隠すようにして帰ってきた2人の様子が妙に神妙な面持ちだ。
「どうしたんだ? 黙っていないで話してくれ」
顔を見合わせて口を開こうとしない2人にカルが痺れを切らして聞いた。
「実はな……」
アルバールが一度頷いた後話しだす。
まず驚かされたのが皇帝とイザベルが死んだ事は知っていたが、ホセ・イグナシオ=ルリも殺されていたという事だ。
そこでカルたちが我の顔を見てくる。
「我はホセ・イグナシオ=ルリは殺していないぞ」
前もって言ってあったから確認の意味だろう。 もっとも我に喧嘩を売ったのだから殺されて当然ではあるのだが、その権利は我にあるものだ。
さらに驚かされたのは、皇帝とイザベル、ホセ・イグナシオ=ルリを殺害したのは我にされていた事だ。
イザベルは確かに我が殺したがそれ以外は我ではない。
そして皇帝亡き後、帝国を取って代わったのが……
「サンドロ=アルベスじゃ」
「なんであいつが!?」
「……死の間際に王位とアルマダを委ねられたんだって」
「コレが皇帝の隠し子だったとなっておるんじゃ」
「そりゃあいくらなんでもそれは出来過ぎだろう?」
「……でも証拠がない」
確かカルたちの故郷は魔物をけしかけられて生き残りはカルたちだけだったな。 それは逆手に取ったか。
「もう一つ良くない情報じゃ」
新皇帝サンドロ=アルベスは、その権威を使ってティアを探すように御触れをだしたらしい。
探し出し、連れ帰ったものには望みの報酬を出すそうだ。
「……ひつこい」
「モテる女は大変だなぁ? ……痛っ!」
「こんな時に何をバカな事言ってるのよ!」
「それだけじゃないのじゃ。 儂らにも賞金がかけられとる。 無闇に帝都を出歩けんぞ」
あやつめ、我を小馬鹿にするにもほどがあろう。
「今から我があやつを殺してくるわ」
「ルースミア、それはやめたほうがいいですよ」
「なぜだ魔王?」
「どんな理由であれ1国のトップがいなくなれば、法律が機能しなくなって弱肉強食の世界になると思うんだ。 今であれば僕たちさえ見つからなければ統治は継続すると思うけど、サンドロ=アルベスまでいなくなったら平和なんてなくなると思うよ」
ふむ……こういうところは番同様頭が働くな。
「じゃあ俺たちは一生野暮らししろっていうのか?」
「……皇帝の代わりがいれば大丈夫」
「皇帝の代わりじゃと?」
カルたち視線が集まったのは魔王だった。
「僕!? 無理無理、無理だよ。 国を統治するなんて僕になんかできっこない」
「強い配下もいて良いと思うんだがなぁ」
「でもさ、魔族とかを従えてる人だと恐怖の対象にしか見られないんじゃないかなぁ?」
「そうですよ! ティアの言うとおりです!」
「しかしそういう話し方をしとると魔王とは思えんなぁ」
「……元々魔王じゃない」
そういえばそうだ。 となると本来の名前もあるはずだ。 だが世界観に合わないからと嫌がられてしまった。
「だったらルースミアが名前をつけてください」
「我がか?」
名前には力がこもるものだから安易なものはつけられんな。
「では……我の名から1文字くれてやる。 ルキウス、ルキウスと名乗るがいい」
「ルキウス……ルキウス! ありがとうございますルースミア!」
初めて名をつけてやったが喜んでいるようでよかったわ。
チラとシャリーを見ると何故かわからんが小難しい顔を見せている。
「どうした? ルキウスという名はダメだったのか?」
「いえ、問題ないですわ。 ただ……」
ただと言ったところで口籠っている。
「ハッキリ言わんか」
「ルキウス様が魔王様のことだったとは思わなかっただけですわぁ」
なるほど……我がルキウスと名をつけたことで未来が見えたというわけか。
「僕の名前に何か問題でもあるんですか?」
「……それは、秘密ですわぁぁぁあ」
にこやかな顔を見せているが、あの顔とセリフを吐くときのシャリーは番の時同様何かしら重要な相手の時だけだ。
「んっじゃあ、俺たちはこれからどうするかだな」
「まずは闇夜に乗じて帝都を離れるのが先決じゃろうな」
カルたちが相談しあって今後を決めている姿を我は眺めていた。
深夜になり帝都を離れる時間が迫る。
「いいな? 段取り通りで行くぞ」
「なんだかワクワクしてきますね」
「魔王……ううん、ルキウスがワクワクっておかしな感じだね?」
「うむ、何しろついさっきまで魔王じゃったのだからな」
「……ウンウン」
我も椅子から立ち上がろうとしたところでシャリーが首を振ってくる。
「なんだ?」
「ルースミア様ぁ、ルースミア様のここでの旅はもう終わりですわ」
は? いきなり何を言い出すかと思えば、旅が終わりだと?
カルたちが妖竜宿の出口に向かって歩き出そうとしたところでティア振り返ってくる。
「ルーちゃん早く早く」
カルたちも立ち止まって振り返って我を見ている。
「ルキウスと名をつけた時点で、ルースミア様のここでの旅は必要なくなったんですわ」
先ほどルキウスに名をつけた時に見せた顔はこういうことだったか。
「すまんな、我は貴様らとは行けないようだ」
「え? 何言ってるのルーちゃん!?」
「どうしたんじゃ?」
「ルーちゃんが……ルーちゃんがここでお別れだって……」
「何言ってんだよルースミア、これからルースミアの元の世界の帰り道を探しはじめるんだぞ?」
番の仲間のようにいい奴らばかりだ。
「我の帰り道がわかったのだ。 だから貴様らとはここでお別れだ」
そう言った瞬間、ティアがぶわっと目に涙を浮かべてくる。
「……もう、会えないのか?」
「無理だな、何しろ次元が違うからな。 我には次元間を超える力まではない」
「やだよ、私、ルーちゃんとずっと一緒にいたいよ。 離れたくないよ」
なんと答えたらいいのかわからん。 だから我は何も言わず笑ってみせた。
「ティア残念じゃが、ルースミアは最初の時から帰ることだけが望みじゃった。 帰る道が見つかったのなら儂らは喜んで、やる……べきじゃろうよ」
ジジィにしか見えないドワーフのアルバールがうおーんと泣き出してしまう。
「……泣いたらダメ。 アルバール言ったばかり、だよ。うえーーーん!」
うえーんって泣き方は初めて聞いたぞ。 相変わらず可愛い生き物だ。
「世話になったなルースミア。 番とよろしくやってくれよ」
「うむ、我も貴様らのことは忘れないでおこう」
ティアが我の元まで来て何かを差し出してくる。
「ひぐっひぐっ……ルー、ちゃん、コレ……」
ティアの手元には修繕されたネズミーの人形が持たれていた。
「貴様にくれてやる。 ただし絶対に大事にするのだぞ」
本当は惜しいが、なぜかティアにあげたいと思ってしまった。
「行ってこい。 そして貴様らの世界は貴様らの手で救うのだ」
泣くのを堪えながら全員が我に笑顔を向けてくる。
「さらばだ。 貴様らとの冒険は楽しかったぞ」
カルたちは妖竜宿を出ていった。
残った我は何か失ったような気分もあったが、それ以上に番のいる世界に戻れることの喜びの方が優っていた。
「シャリーよ、さっさと我を元の世界に戻してもらうぞ」
「あらぁ? 私、ルースミア様のここでの旅は終わりと言っただけで、元の世界に戻すとは言ってませんわぁ?」
おのれ謀りおったな!
我が掴みかかろうとした時、視界がぐらつく。
「本当に残念ですわ。 もう少しルースミア様の暴れっぷりが見たかったのですけど、2つの物語を同時に書くのは辛いそうですわ」
ぐらつく視界の中でシャリーが独り言のようにつぶやく。
「待てっ! シャリーどういうことだ! 貴様は何のことを言っている!」
おっとりした表情のまま笑顔で手を振ってくる。
「……そのうちに、たぶんわかりますわぁ」
そんな言葉を最後に視界が完全に違うものに変わっていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ルースミアの姿が見えなくなり、妖竜宿にはシャリー1人が残されている。
そして深々と頭を下げてきた。
「——に変わりこのような終わり方になってしまいお詫び申し上げますわ。
これからのルキウス様やデ・ラ・カル様たちの物語はまた別の機会に……」
扉をパタンと閉じられた。
中途半端な終わり方になってしまい申し訳ありませんでした。
2つの物語を書くのがこんなに厳しいと思いませんでした。
本来はブックマークの多いこちらを残そうと思ったのですが、苦戦することのないルースミアの物語が書きにくすぎました。
突然の終了本当にごめんなさい。
2つの物語を書けるほど出来た人間じゃありませんでした m(_ _)m
一応区切れ的には良いかなと思いますが、個人的には納得できていません……
この後デ・ラ・カルたちとサンドロ=アルベスは別の物語という形になりますが、書くかどうかは未定です。




