表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/36

ルースミアと1つの結末

 本来の姿に戻った我は、妖竜宿(シェイディドラゴンイン)のあった場所が見える高度で飛行し、ぽっかりと無くなっている跡地を確認した後、地上から聞こえる悲鳴を避けるように空高く舞い上がり魔王城に急いだ。


 あの距離だとおそらくすでに魔王城についているはずだ。 となれば交戦しているのは間違いないだろう。


 帝都から離れてたった数分後に高度を落とすとそこにはすでに魔王城が眼下に見え、そして魔王城の入り口では城門を固く閉じて侵入させまいとしているのが見える。


 ふむ、どうやら間に合ったよう……ではないらしいな。


 兵士だったものたちの姿はイザベル同様異形の姿に変わっていて、門を破壊して入り込み出している。


 ひとまず全部入られたらそれこそ面倒だ。


 大きく息を吸い込みながら、未だ魔王城の門前に入りきっていない異形の連中に向けて低空飛行で飛び抜けざまにブレスを吐きだす。


 一瞬にして大地ごと焼け野原に変え、魔王城に入れなかった異形のものたちが炭となった。


「ル、ルースミア様ぁぁぁ! たったブレス一撃で壊滅なんて素敵ですぅぅぅ!」


 目の前に黒く小さな生き物が我の前に現れて叫んでくる。


 ん、アーリーか。 思わず喰らいつくところだったわ。


「状況はどうなっている」

「魔王様のぉお城に入り込んじゃってますぅ」


 ふむ……


「おい、アーリー」

「きゃぁぁぁぁぁん! ルースミア様があたしごときの名前を覚えて頂けるなんて光栄ですぅぅぅ!」

「話を聞かんかたわけっ!」


 コイツは竜族の恥だ! だが今はそれを言ってる場合ではないな。


「魔王を呼べ! 今すぐだ!」

「はいぃぃ!」


 アーリーが魔王城に戻っていく。 入れ替わるように魔王が姿を見せた。


「ル、ルースミアなんで……なのか?」

「手短に言うぞ。 今すぐに全員そこから離れろ。 城ごと破滅させる」

「し、城ごと!? 僕の魔力で作り上げたこの城は簡単には破壊できませんよ!」

「おい、素に戻ってるぞ? それと我を誰だと思っている?」

「ん……コホン、そ、そうだったな。 わかった、魔王城最上部を切り離そう」


 なんとも便利なものだな。


 魔王が宝玉のようなものを取りだし何やらしだすと、ゴゴゴゴゴゴゴッ! と音を立てながら最上部のみが切り離され浮遊しだした。


「どうだ! 最上部のみを浮遊城にしておいたのだ!」


 ……やはり(つがい)の世界の人間だな。


「喜んでないでサッサと離れろよ? 巻き込まれても責任は負わんぞ」

「わ、わかりました!」


 さらに宝玉のようなものを操作すると最上部が離れていく。


 さて……これを使うのは久しいな。 以前使ったのは我の前の我だったか? それともその前だったか? まぁいい、どちらにせよこれで滅せぬものは数えるほどしかおらん。

 例え奴らであったとしてもそれは同じよ。



 ホバリングをしながら魔王城に向けて禁断の言葉を放つ。 もちろんこの言語は我だけが許された言語で、他のものが口にできるものではない。


「我が象徴、破滅(カタストロフィ)の名の下に……ヴァル ゼイ ガヴァネス ギャイザック ヴォルネイ シュトランゲイル ベトラ サトラ ジェルミヴァーミリアン! 存在の成り立ちを失い、滅び、無と化せ!」


 的は可能な限り小さくはしたつもりだ。


「滅びよ! 虚無!」



 これは魔法などとは全く違い、爆発や炎を巻き上げたりはしない。 ただ消滅し無に帰るだけだ。





 辺り一面がぽっかりと何もなくなった。 はずだった。


 一軒の建物だけが中空に浮かぶように残っていて、疲れきった表情を浮かべるシャリーの姿が見える。


 ちっ……やはりあいつはこれを逃れられるか。


「こらぁーーーーー! ルースミア様どさくさに紛れて私まで滅ぼそうとしましたわねぇぇぇ!」

「ああ、いたのか」

「なっ……ルースミア様がここに行くように言ったんじゃないですか!」

「そうだったか?」

「まったく……こんなにしてしまって……これじゃあお客様もいらっしゃらないですわ」

「ふむ、だがこれで終わったか?」


 シャリーが目を閉じて頷く。


「……諦めたようですわね」

「ならばさっさと我を元の世界に返せ」

「まずはここを戻しておきますわ」


 シャリーがパンッと手を叩くと虚無と化した場所が元どおり大地だけが蘇る。


「器用なものだな」

「時間を捻じ曲げただけですわぁ」


 簡単に言ってくれるわ。


 この姿のままというわけにもいかないだろう。 着地して人の形に戻る。


「ふむ、便利なものだな」


 服は破れて無くなったが、リストブレードは腕にはまっている。

 シャリーがローブ持ってきて手渡してきた。


「金ならないぞ」

「人を金の亡者のように言わないでほしいですわぁ。 これは無料ですわ」

「貴様以上の金の亡者はむしろ探すのが難しいと思うがな」



 ローブを羽織り終えると魔王城の最上部だけとなった浮遊城が妖竜宿(シェイディドラゴンイン)の側に降りた。


「ルーちゃん!」

「ルースミア!」


 まったく……ルースミア、ルースミアうるさいわ。 だが、恐れられないのも悪くはないな。


「すべて方がついたのか?」

「どうだかな。 帝都の方は大変なことになっていることだろうよ」

「え?」


 帝都に向かい、シャリーと別れた後のことを妖竜宿(シェイディドラゴンイン)の中で説明する。


「じゃあ帝国に皇帝もイザベル姫も居ないのか?」

「勇者ホセ・イグナシオ=ルリが皇帝の弟だったとはのぉ」

「これから帝国はどうなっちゃうんだろう?」

「皇帝の弟だったと明かしてホセ・イグナシオ=ルリが皇帝にでもなるだろうよ」


 チラとシャリーの方へ視線を送る。

 今はもう普段通りのおっとりとしたシャリーに戻っている。 つまりは奴らの影響は完全になくなったと考えて間違いないのだろう。

 コイツは奴らと同じではあるが、奴らのように世界の支配は望んでいない。

 ある意味では我と同じく歴史の傍観者だからだ。


「僕……私はこれからどうするかな?」

「我ら一同、魔王様の意志に従います」

「ふむ……ならば貴様らに命じる。 魔王城を修復し、再び蘇らせておくのだ。 その間、私は彼らと行動を共にし、人間たちを見て回ろうと思う」


 魔王の奴一体何を考えている?


「皇帝が死に、勇者ホセ・イグナシオ=ルリが再度呪いで弱まった今、なぜ魔王様は征服をなさらないのでしょう?」

「レメディオスよ、私の望みはあんなちっぽけな帝国1つの征服などではない。 この世界全ての征服だ!」

「さっすが魔王様ですぅぅぅ! 人間たちを利用してその間に力をつける作戦なんですねぇ」

「さすがは魔王様」

「さすが魔王様ですわ」

「魔王様にお仕えできて儂は光栄極まりない限りじゃ」


 ストームジャイアントは頷くだけか。

 しかし揃いも揃って魔王の配下はバカな奴らばかりだな。


「魔王、そんなことを企んでいるのか!?」

「お、おい、カルよ。 それマジで言っとるのか?」

「……カルってバカだった?」

「カル、ちょっと来て」


 ティアに耳を引っ張られて食堂から一度離れていった。


 ここにもバカがいたようだな……




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ