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ルースミア、我慢の限界

 ぐわぁぁぁぁっ!

 うわぁぁぁ!

 あはんっ!


 そんな声が城門の前で上がる。

 もちろん我が群がる兵士たちを殴り飛ばして吹っ飛んでいるからだ。

 ビシビシバシッと殴る蹴るをすれば、まるで(つがい)が見せてくれたアクション映画のように兵士たちが吹き飛ぶ。


 だが加減はしてやっている。 無駄な殺戮を(つがい)は嫌がるからだ。

 我の蹴りやパンチで次々と兵士たちは吹き飛んで行き、壁にぶち当たって大半はそれで意識が飛んでいった。


 あらかた我に攻撃してくる兵士たちを倒したが、まだ攻撃こそしてこないが意識のある兵士たちが恐怖に怯えながらも道を開けようとしてこない。

 まったく、殺さぬように加減をするこっちの身にもなってほしいものだ。


 兵士たちもどうやら手を出さなければ我が何もしないことに気がついたようで、肉壁となって城門を通さないようにしてきた。


 ただそれは大きな勘違いで、向かってくるものだけを優先していただけにすぎないのだがな。


「邪魔だ!」


 割って入るように城門の真ん中にいた2人を押し退ける。

 それだけでうわぁぁぁっと、将棋崩しのようにあっけなく肉壁は崩れた。



 大きな両開きの城門を蹴り飛ばして開くと、その奥には弓やクロスボウを構えた兵士たちが整列している。

 我の姿を確認するなり「放て!」の命令と同時に雨あられのごとく矢が我に向かって飛んできた。



矢弾保護(プロテクション・フロム・アローズ)


 (つがい)が見せてくれたサイボーグ映画のように全て体で受けてやってもよかったが、服までボロボロにされては困る。

 我は気にしないのだが、(つがい)が俺以外の異性に裸は見せないでほしいと言われているから守っているまでだ。

 そんな事で(つがい)に嫌われたくはないからな。


 でだ、矢弾保護(プロテクション・フロム・アローズの魔法を使ったため、矢は我に当たる前に力を失い地面に落ちていった。


「後退! 後退だー!」


 そんな声が上がると一斉に離れていく。 そしてその後ろに今度はローブ姿の魔法使いらしい姿がずらっと並んでいた。 いや……魔術師だったな。


「魔術師隊、全員……魔術を放て!」


 ほぉ、あれだけの人数の魔術を浴びれば、さすがの我も無傷つというわけにはいかないな。

 だがな……先ほどの弓兵と魔術師兵は我に対して敵対行為を行った事に違いはない。

 できる限り殺さぬようにするつもりだったが、ここまでされては我慢の限界だ。


 城門が開いた場所は大きな直線の通路となっている。 となれば連鎖雷撃(チェインライトニング)の魔法の格好の餌食だ。


連鎖雷撃(チェインライトニング)


 連中の放つ魔術が我を炎や冷気、電撃といった様々な属性攻撃をしてくる。 だが、クリストが教えてくれたように、この魔術師兵たちが使える魔術は、単一攻撃魔術に絞っているようで、しかも『マ』がいいところのようだ。

 そしてその『マ』ランクの魔術は、我の持つ低級魔法の無力化が効力を発揮するらしく痛くもかゆくもない。

 それに対して我が放った連鎖雷撃(チェインライトニング)はというと……


 魔術師兵全員が枝分かれに分かれた電撃を浴びてバタバタと倒れていき、後退した弓兵たちも倒れていった。



 電撃を浴びて煙を上げている死体の山を乗り越えながら通り過ぎていく。


「喧嘩を売ってきたのは貴様らだぞ!」


 先に控えていた騎士たちに聞こえるように警告を兼ねて言い放つ。

 そしてこれだけの騒ぎが起きているにも関わらず、未だ姿も見せずにいるホセ・イグナシオ=ルリに怒りを覚えていた。


「我が用があるのはホセ・イグナシオ=ルリだけだ! 勇者というのは見せかけだけで我に怯えて逃げ出したかっ!」


 出せる限りの大声で叫ぶ。

 大声で叫んだら少しだけスッキリした。


 そのスッキリしたまま騎士たちの方へ歩いて行くと、騎士たちが武器を構えてくる。


「我の邪魔をする者は容赦なく殺すぞ?」


 リストブレードの刃をシャコっと出して行くと、騎士たちから迷う様子がうかがえる。

 武器の届く距離まで来た時、騎士たちが取った行動は命の優先を選んだようで左右に分かれた。

 しかし武器だけはしっかりと構えているところは評価に値する。



 さて、邪魔をする者もいなくなり、3度目となる謁見の間まで辿り着いた。


「逃げ出さずにいたか」


 ホセ・イグナシオ=ルリは謁見の間で待っていた。 しかも玉座に鎮座しながらで、さながら皇帝のようだ。


「出向こうかとも思っていたが、必要はなさそうだと思ったのでね」


 偉そうに我を見下しおって。


「呪いを解く時に言ったはずだ。 誓いを破れば破滅が訪れると」

「ならばその破滅を振り払ってみせよう、この……アルマダに誓って!」


 悠々と立ち上がり、腰に下げていた剣を引き抜く。 シャリーをも傷つけた剣はホセ・イグナシオ=ルリに応えるかのように輝きを増したように見えた。



 最初に仕掛けてきたのはホセ・イグナシオ=ルリだ。

 多少の不安はあったが、(つがい)が【鍛冶の神スミス&トニー】に頼んで作ったこのリストブレードは、ホセ・イグナシオ=ルリの持つアルマダを受けてみたが、悲鳴をあげることもなくホセ・イグナシオ=ルリのアルマダを難なく受け止めてくれた。


「その爪のような武器、なかなかの業物のようだ」

「当然だ! コレは我の(つがい)が我の為だけに作ってもらったものだからな!」

「だが……それもいつまでもつかな?」


 ホセ・イグナシオ=ルリの攻撃が徐々に激しくなってくる。

 自身の手のように振るい攻撃を受けていくが、我の攻撃は野生のそのもの。 そのため、純粋に剣技を磨いてきたホセ・イグナシオ=ルリの攻撃に押されだしてしまう。


「しまっ……」

「貰った!」


 引っ掛けに引っかかり、剣の軌道を変えられその一撃を受け逃してしまう。 軌道を変えたその凶刃が我の首を落とそうと迫る。



 ——ガツッ!


「……痛いではないか」


 僅かに血の匂いがする。

 どうやら少しばかり切れたようだ。


「なっ! なんだと!」


 リストブレードの刃を引っ込めて溜息をつく。


「いいか? 我の使っているリストブレードで貴様の剣を止められた時点ですでに勝敗は決していたのだ」

「どういう事だ!」

「我が身を持って試し斬りはしてある。 故に貴様の剣がこのリストブレードを叩き破れなかった時点で、その剣は同等かそれ以下という事なのだ」


 つまり我を貫く事は出来ない。 気を抜いている時であればそれも可能だったかもしれないが、それすらせめて僅かでも我の苦手とする属性の加護は必要だ。


「くっ、バケモノが!」



 大きく跳躍して距離をとると空いた手でアルマダに魔術で強化を施したあと、我に向けて手を突き出してくる。


「ライシクル!」


 先端の尖った氷柱が大量に現れ、我目掛けて一斉に飛んでくる。


 おそらくアイシクルの単一最強の魔術の事だろう。 だがアレがもし『マ』『ラ』になると氷柱の数が増えるだけであれば回避する必要もないのだが……


 だがその考えも無駄になる。 というのもホセ・イグナシオ=ルリが魔術を行使しつつアルマダで斬りかかってきたからだ。

 アルマダにも氷属性の強化を施してあるようだ。


「その髪を見れば弱点は予想がつく!」


 ふむ、確かに我の赤い髪色は属性を表しているかもしれんが、どちらかといえば魔力の強さなのだがな。


 躱しようはなくもないのだが、ここで躱せば恐れたなどと勝手に勘違いしてなおさら調子に乗ってくるだろう。

 それよりもだ。


「あー、もう面倒臭いわ……」




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