ルースミア、単身帝都に引き返す
さて、カルたちの身の安全は確保できた。
「後の事は魔王に任せたぞ」
何を全員ポカンとした顔を見せる? しかも魔王まで。
「ルーちゃんどこか行くの?」
「我に牙をむいたあいつらに報いを受けさせに行くだけだ」
「まさかルースミア1人でか!?」
「当然だろう? これで気兼ねなくホセ・イグナシオ=ルリとサンドロ=アルベスを殺せるのだからな!」
「つまり、ルースミアは彼らを僕に押し付けたわけじゃなくて……邪魔だった、から?」
魔王が正解を答える。
我は笑顔で答えたつもりだったが、その場の全員がなぜか青白い顔になっていた。
「待って、ちょっと待ってルーちゃん! そりゃルーちゃんは強いよ。 でもたった1人でなんて、いくらなんでも危険すぎるよ!」
「それなら貴様らが一緒に来てなんの役に立つ?」
「僕なら! 僕なら役に立てる! それにホセ・イグナシオ=ルリは僕が倒すんだ!」
確かに魔王であれば少しは役に立つだろう。 しかし……
「貴様を連れて行った場合、こいつらの保証がない。 だいたい守護7魔将の部下は好き放題暴れているのを抑えられないどころか、守護7魔将すら貴様の言う事を聞かないではないか」
痛いところをついたのか、魔王の奴もウッと口籠っている。
「それにこれは我の戦いだ。 もしここで魔王が加われば、我は貴様についたことの証明になってしまうだろう?」
さすがに何も言い返せまい。 そもそも我が人種ごときに負けようはずがないだろうに。
番にこんな事を言ったらきっとフラグだとか言うのだろうな。
「わかった、俺たちはルースミアを信じて待つことにする」
「その間に儂らもちったぁ魔王城で腕でも磨いておくわい!」
「ルーちゃん帰ってくるまでに人形直しておくから」
「……ウンウン」
随分とこいつらも変わってきたか?
ついこの間までは生きていけるだけの依頼をとか言っていたというのにな。
「それでは後の事は頼んだぞ」
「わかりました」
魔王の部屋の窓に向かい外を眺めると、どうやら一番頂上だったようだ。
好都合だと窓から飛び降りて飛行の魔法を使い、今度は定刻に向かい移動しはじめた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さてと……」
残された俺は一瞬だけ不安がよぎる。
「これからお前達の部屋に連れて行くが、いくつか注意して貰うぞ。 まず私の部下の中には未だお前達のことをよく思っていないものもいる。 単独行動は控えてもらおう。 それと……部下の手前、このように話しかけるが気を悪くしないでほしい」
そういうと魔王は一度だけニッコリ笑顔を見せながら片目をつぶってきた。
「了解した。 いや、感謝します魔王様?」
クククと押し殺した笑から声を上げた笑に変わる。 ひとしきり笑った後、アルバールとティア、クリストの顔を見ると頷いてきた。
「君たちにはレメディオスとアーリーをつける。 アーリーはルースミアには逆らわないだろうし、レメディオスは僕に1番忠実だから安心できるはずだよ」
謁見の間での一件で唯一ルースミアと一戦交えなかった女性だ。
「わかった。 しかしルースミアに2人も倒されて大丈夫なのか?」
「ファン・ルイス=アレギとクアウテモクの2人を失ったのは正直なところ痛手だけど、ある意味ルースミアがこっちについてくれたも同然だからね」
「確かにルースミアの強さはもはや尋常じゃなかったからのぉ」
「……ウンウン」
それじゃあと言うと魔王は魔術ではない魔法を使う。
扉のロックが解除された音が聞こえると、今度はボソボソと独り言のようにつぶやいた。
少ししてノックする音が聞こえ、レメディオスとアーリーが姿を見せた。
「お呼びですかしら魔王様」
「お呼びですかぁ魔王様ぁ?」
「うむ、お前達にここにいる人間達の世話を任せたいのだ」
「1人足りないようですわね」
「ルースミア様がいないんですけどぉ」
「ルースミアならホセ・イグナシオ=ルリを倒しに向かった」
「さすがは魔王様、上手くホセ・イグナシオ=ルリと戦うよう仕向けられたのですわね」
「さっすが魔王様ぁ、素敵ですぅ」
俺が違うと言おうとすると魔王が止めてきた。
「うむ、だがその条件としてこの人間達の安全を要求されている。 後は言わずともこの意味はわかるな?」
「なるほど、つまり魔王様は私の事を忠実に従うと信頼してなさってくださったのですわね?」
「あたしもいるんですけどぉ?」
条件をつけたように見せかけたわけか。 交渉ごとはあまり得意ではないから勉強になるな。 だが……守護7魔将も完全に魔王に従っているわけじゃなさそうに見えるとなる。
1人ぼっちじゃなくなるとはこう言う意味もあったのか。
「わかったら人間達の事を頼んだぞ。 それと魔王城内は自由にさせてやれ、ただし絶対に死なせるようなことはしてくれるなよ」
「かしこまりました」
「オッケー!」
「客人、こちらへどうぞ。 お部屋までご案内いたしますわ」
俺が魔王を見ると頷いてきたため、レメディオスとアーリーの後について魔王の部屋を出ていった。
「ここを好きに使って構いませんわ」
「あ、ああ、ありがとう……」
どうやら男女分けはしてくれないらしい。
「できたら部屋を別にしてもらえないかな? 一応私女なんで」
ティア1人なんて危ないだろう。
「仕方ありませんわね、すぐ隣を使って構いませんわ」
「やった!」
おいおい……もう少し警戒してくれよ。
「えっとお風呂なんかあったりするのかな?」
「魔王様が入浴を好まれますのでありますわ。 ですがその際は私かアーリーがご一緒させてもらいますわ」
「……もしかして僕たちの時も?」
「当然ですわ」
マジか……いやまぁ湯着ぐらいは着るだろう……
その日は俺たちは客人として大層なもてなしをされた。
食事も終えて先に風呂に入ったティアからすごく広い風呂と聞いて俺たちも入る事にするのだが、風呂場までレメディオスと向かったわけなんだが、ここでまさかの脱衣所で俺たちよりも早く服を脱ぎ捨てて裸になって待っている。
「サキュバスでも遣わせましょうか? もちろん、満足されたところで止めるように命じておきますわよ」
入浴を済ませた俺たちにレメディオスは、そんな事を言ってきた。
もちろん丁重に断った。




