ルースミア帝都にて勇者と出会う
随分とおかしな次元だった。
ティティアナ=カーノに話を聞くと、この世界には魔王なるものがいるのだそうだ。
それを倒すのが勇者なのだというのだが……
創造神よ、まさかこの次元は番に聞いて造ったんじゃなかろうな。
「で、その魔王とやらは何かしでかしたのか?」
「しでかしたっていうより、さっきみたいなモンスターを生み出している大元って言われている。 それと適度に町に襲ってくるらしいけど、帝都は今のところ一度もないな」
「そうそう、だから魔王が倒されればモンスターもいなくなるはずって事らしいの」
「……ウンウン」
魔王だかなんだか知らないが、魔物の創造も全て創造神が行っているものだ。
単に何者かによってそう信じさせられているだけだろう。 となるとむしろその何者かの方が怪しいな。
「まぁ魔王が倒されれば儂らは皆廃業になるから、できればこのままでいいのじゃがな」
「おいおいアルバール、それ上の奴らに聞かれたらヤバいからやめろって」
「……ウンウン」
まぁ冒険者なんかをしていればそういう考えにもなるだろうな。
魔物に該当する生物がいなくなった世界に冒険者は必要がなくなる。 あってもせいぜい護衛程度だろう。
「だから私たちはいつ魔王が倒されてもいい様に無理しない程度にお金を稼いでおいてるってわけ」
なるほど、先を見越してというやつか。
だがその心配は必要ないのだがな。
「もうすぐ街道だ。 そこに出たらキャンプの準備をしよう」
我の興味をそそる話が多くて気がつけば陽も落ちだしていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
街道について良さそうな場所が見つかったらしく野営の準備に入ったようだ。
「おお、いい匂いだ」
「うむティアは将来良い奥さんになる事間違いなしじゃな」
「……ウンウン」
「ヤダもう……」
楽しげに仲間同士で話す光景を見てふと思い出す。
……懐かしい光景だ。 あれは何時だったか? そうだ、ゼロを封印した後、番も一緒に消え全てが終わったと思ったあとだ。
あのあと番が生還を果たし、我と我以外の番2人にハイエルフの小娘、それに生意気な犬っころを連れて旅行に行った時だったな。
今のあいつらのように和気藹々としていたものよ。
それはそうと……
「ティティアナ=カーノはデ・ラ・カルの事が好きなのか?」
「え! ちょ、ちょっとルーちゃん! 何を突然言い出すのよ!」
「見間違いであったのなら謝ろう。 ただ見ていて余裕さえあればデ・ラ・カルの事を見ていたからな」
「見てない! 見てないから!」
「たまたまだろ?」
「鈍感じゃのぉ」
「……バレバレ」
ううむ、余計な事を言ってしまったか?
だがそれよりも1つ気になる事がある。 エルフが人間を好きになることはあるが、寿命の違いから断念する者が多い。
その断念する方は大抵は長寿のエルフの方だ。 だというのにティティアナ=カーノの場合、明らかに人間に対して好意を寄せている。
「ティティアナ=カーノはエルフだろう。 寿命はおおよそ1000年はあるんじゃないのか?」
「え!?」
「は!?」
「……!?」
「ルーちゃん何を言ってるの!? 私たち種族は違うけど、寿命はだいたいみんな同じよ?」
なんだと!?
「うむ、儂もドワーフじゃが総じて60前後の人生じゃぞ」
「アルバールの場合は口調が爺さんみたいで、年齢すら分かりにくいけどな!」
「……ウンウン」
「それはドワーフ族の口癖じゃわい!」
「それよりもルーちゃん、なんでそんな事言いだしたの?」
ううむ、これはマズい事を言ってしまったようだ。 まさか不用意に多次元世界の事を話すわけにはいくまい。
「うむ、我が見た本にそんな事が書いてあったのだ」
「……なぁんだぁ、びっくりしたなぁ。 ルーちゃんそれはお話だよ。 そんなに私が生きなきゃいけなかったら、たくさんの人の別れを見なきゃいけないじゃない?」
「……ウンウン」
「まぁルースミアはまだ小さいから、その本を見て信じちゃったんだろうな」
うむ、なんとか誤魔化せたようだ。
「しかし面白い話じゃな、いつか読んでみたいからタイトルを教えてはくれんか?」
「忘れたわ」
「ぶっは! まぁ本なんて高価なもの読めるとは羨ましい限りじゃ」
我を子供と思っているのならそれを利用させてもらうとしよう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おー、やっと見えてきたぞ」
一晩明けてまた歩くと昼前には帝都が見えてきたらしい。 らしいというのは城塞都市ヴァリュームの様な高い外壁に囲われていて中が全く見えないからだ。
「検問の時ルースミアは俺が保護者って事にしておくけど、問題ないかな?」
「うむ、任せよう」
いざ検問に辿り着いて色々と聞かれると面倒だったから、『人物魅惑』の魔法を使って難なく通り抜けて町中へと入り込んだ。
「随分楽に検問抜けられたなぁ?」
「儂も1時間は覚悟してたんじゃがな」
「……ウンウン」
「まぁ、いいじゃない」
「そうだな、とりあえず冒険者ギルドに報告に行こう。 ルースミアの件は報告が終わってからだ」
どうやらこの次元でも冒険者ギルドはあるようだ。 報告が終わった後もこいつらは我に関わるつもりのようだが、正直なところ邪魔なだけだ。
なんとかこいつらと別れて、それからその後どうするかだな。
次元が変わろうと冒険者ギルドというのはたいして変わりがない……と思ったが、随分と賑わっている。
どうやらこの冒険者ギルド、一階の半分が食堂になっていて、そこで暇そうな冒険者たちが集まって喋っている。
掲示板の方にチラリと目をやれば依頼が少ないわけではなさそうだ。
デ・ラ・カルたちに着いて受付までついていく間、ジロジロと見てくる輩が多くいたが、それももう慣れた。
「依頼を終わらせてきた」
「あ、デ・ラ・カル、タイミング悪すぎますよ……」
「そりゃどういう事だよ」
受付の雌が指を指したその先には、1人ポツンと壁を背に立っている人間の雄がいて、デ・ラ・カルが顔を向けると手を上げて声をかけてくる。
「やぁ、デ・ラ・カル」
「サンドロ=アルベス……勇者が俺に何の用だ?」
ほぉこいつが噂の勇者か、しかし勇者1人きりで仲間は見当たらんな。
「うん、実は君の仲間のティティアナ=カーノを僕の仲間に迎えたいと思っているんです」
「は? そいつは無理な話だ。 分かってるはずだがティアはうちの大事な白魔術士なんだ。 他をあたってくれ」
「私もみんなと離れるつもりはないわ」
「これは勇者の招集ですよ。 申し訳ないけど諦めてください」
ん、奇妙なワードが出たな、勇者の招集?
「その勇者の招集というのは何だ?」
「ん、君は?」
「我はルースミアだ」
「うん、決めました。 ティティアナ=カーノとルースミア、君たち2人を僕の仲間に迎えます!」
「ちょっと! ルーちゃんは冒険者じゃないのよ!」
何だコイツは、我の意思は無視か。
「僕が決めたんだから問題ないありませんよ。 あ、すみません、ルースミアの冒険者登録済ませておいてください」
「は、はぁ……」
「おい、お前ふざけんな! 勇者の招集は権利とはいえ横暴すぎるだろう!」
「そんな事をしたって私があなたになびく事なんて決してないわよ!」
「しつこい男は嫌われるっていうのを全くわからん奴じゃのぉ」
「……ひつこい」
「——そう言われても困りますね。 だって僕が決めたんですから」
よくわからん展開で実に興味深いのだが、コイツの勝手に魔王とやらの討伐に加えられては我も元の次元に戻るのが遅れてしまう。
……というよりそもそもだ。
「貴様は強制しないと仲間になってくれるような奴すらいないのか? そんな人望すら持ち合わせていないのか?」