ルースミア、真実を知る
守護7魔将のうち2人を呆気なく倒し、悪鬼も屈服した。
「さすがは竜の神よ。 他に異論のある者がいなければそこの人間を受け入れるが?」
残った守護7魔将……今はもう守護5魔将か? は魔王に従うようだ。
「それでは4人に部屋を与える。 ついてくるがいい」
魔王が立ち上がり玉座の奥へと向かいだした。
「貴様らも行くぞ」
「あ、ああ……」
守護5魔将の真横を通り抜けていくが、特に何かしてこようとするものはいなかった。
魔王に連れられて向かった先、そこはやたらと豪華な部屋でどうみてもベッドも1つしかない。
「ここは貴様の部屋か?」
「うむ」
扉を魔法で閉めてカチンとロックされた音がする。
椅子に腰を下ろすと険しい顔が一転して、親しみのこもった表情に変わった。
「ふぅ……ああ、適当な椅子に座ってください」
カルたちが魔王の急な態度の変化に驚いて、むしろ警戒しているようだ。
「魔王、貴様こいつらを仲間に引き込む気か?」
「引き込むも何も、ここに逃げ込んだ時点で彼らが元の暮らしができるわけないじゃないでしょう?」
番同様そういうところには頭が回るようだな。
「ル、ルースミア、これはどういうことなんだ?」
「まるで儂らが魔王の仲間入りしたように聞こえるんじゃが……」
結果的にだが我のせいでカルたちは人種の裏切り者として今頃扱われていることだろう。
そして魔王のこの態度から見て、何かわかっているようだ。
『正体を明かす気か?』
『貴方だってもう正体を明かしているんでしょう? それならその方が僕もやりやすいですからね。 ただし決めるのは僕じゃないけど』
確かに最後の判断はカルたちだ。
魔王は覚悟を決めた様子でカルたちに話しかけた。
「まずは誤解を解いておきたいんだけど、僕は本当は魔王なんかじゃない」
魔王はこれまでの経緯を話しはじめ、どうして勇者と戦う羽目になったのかを説明した。
「ルースミアにも話していない全容をお話しします」
妖竜宿で我に話したことは大雑把だったらしく、事細かに話しだした。
転移した魔王はこの世界には存在しない魔法が使えることに気がつき、あっという間に名を広めた。
「だけどそれが良くなかったんです」
魔王の名は当然皇帝の耳にも入り、すぐに呼び出しを受けたそうだ。
そしてその力を帝国のものにしようとしてきたのだそうだ。
「僕は帝国のやり方が好きじゃなかったし、迷惑をかけない程度に自由に生きたかったんだ」
「その話……なんとなく俺にもわかる」
「そうね」
魔王はそこで断ったのだそうだが、皇帝は魔王の『力』を手放したくなかった。 それで皇帝は「私の傘下に加わらないというのであれば魔王として人間社会で暮らせなくしてやる」と言われたらしい。
「まさか本当に魔王にされるとは思いもしなかった」
城を出た直後に襲いかかられて魔王は転移魔法で逃げ出した。
帝国の帝都から離れた名もない小さな村で暮らせばいいと思ったそうだが、そこもすぐに追っ手が迫ってきたのだという。
「帝国は僕を魔王に仕立てるために、その村をモンスターを襲わせたんだ……」
「ちょっと待ってくれ! その村ってまさか!」
皇帝のが魔物を使い襲わせた村は、まさにカルたちが住んでいた村だった。
「全部皇帝のせいだったのね……」
「……卑劣」
「僕も同じ思いだったよ。 僕を受け入れてくれた村をこんな目に合わせた帝国が許せなかった」
魔王は復讐しようとしたが、その時に戦った相手がホセ・イグナシオ=ルリだったのだそうだ。
「あの時の僕はまだ人を殺す覚悟なんてできてなかったんです。 そのせいでこんなことになってしまって……」
それがきっかけとなり、魔王は本当に魔王として君臨することにしたそうだ。 ただまさかそれをダシに使ってくるとは思いもよらなかったそうだが。
そこで我が聞きたかったことを尋ねる。
「魔王よ、貴様の望みはなんだ?」
「僕の望みは……」
国なんて運営した事もないからそこまでは分からないという。
ふむ、そうなるとあとはカルたち次第か。
「ここまで聞いて貴様らはどうするんだ?」
「俺も正直言うとわからない。 だけど……」
「今の帝国のやり方は許せんな」
「そうよ! 自己満足のために村にモンスターを襲わせるなんて私は許せない!」
「……力を欲する気持ちは、僕にはちょっとだけわかる。 だけど、それは人のもので自分の力じゃないとダメだと思う」
どうやら決心はついたようだな。
魔王も4人の答えを聞いて嬉しそうな顔をしてるわ。
「とはいえ俺たちなんかじゃなんの役にも立たないけどな」
「そ、そうだねぇ……あはは」
「そんな事はない。 少なくとも僕が1人ぼっちじゃなくなったんだから!」
魔王が満面の笑みを見せている。
そうか、コイツは今までずっと1人ぼっちだったんだな……




